WAVE+

2015.12.15  取材・文/山下久猛 撮影/林賢一郎

Share金沢

雄谷良成-近影1

──「Share金沢」は安倍首相も視察に来るなど、大きな注目を集めています。Share金沢とはどういうものなのでしょうか。

コンセプトは「高齢者も、若者も、子どもも、障害のある方もない方も、ごちゃ混ぜで楽しく暮らせる町」。約1万1000坪の敷地の中に、サービス付き高齢者向け住宅や訪問介護施設、知的障害児童の入所施設などの福祉施設、アトリエ付き学生向け住宅を設置。また、共同売店、天然温泉、レストラン、ライブハウスなどのアミューズメント施設や農園、クッキング教室など人と人との交流を楽しむ施設や機能もあります。また、クリーニング店、全天候型グラウンド、ドッグラン、アルパカ牧場などを設置し、住人同士の交流はもちろん、地域の住民たちが楽しく集える町となっています。また、各施設やお店では障害をもつ人たちが元気に働いているんです。ドッグランは近隣住民の要望で設置しました。我々が町づくりをするときは、計画段階から必ず町の中にどういう機能があればいいかを近隣住民と相談しながら作っているんです。

Share金沢は政府が推進している日本版CCRC構想のモデル事業になっています。安倍首相をはじめ、政府やいろんな地方自治体の関係者が視察に来るのもそのためです。日本版CCRCは「生涯活躍のまち」と定義付けされて、高齢者の移住先という解釈をされていますが、正確な解釈ではありません。ここが日本版CCRCのモデルになってるのは高齢者ばかりじゃなくて障害者も子どもたちも、それぞれ存在自体に意味があって、関わることでみんな元気になっていくという意味なんです。日本版CCRCのモデルはいくつかありますが、あらゆる世代にまたがって、障害のある人たちまで巻き込んで町づくりをしているのはここ、Share金沢が初めてだと思いますね。


Share金沢概要[総面積/約11,000坪]

──障害の有無に関わらず、いろんな人がごちゃ混ぜで生活するということのメリットはどういうところにあるのでしょうか。

知的障害児や高齢者たちにとっても、様々な人たちと関わることがすごく大事なんですよ。例えば障害児たちはただでさえ上手に人間関係を作るのが難しいのですが、いろんな人と自然と関われる環境においてあげるとそれがうまくできるようになる。そうすると社会に出ても周りの人びととうまくやっていける可能性が高まるんです。

また、認知症の高齢者の方にしても特別養護老人ホームのような施設に入れてしまうことが必ずしも最適な解決策であるとは思えません。なぜなら、毎日のスケジュールが決まっていて、職員に指示されるがまま日常生活をこなすというのはかなりのストレスで、一般の人が入ったら一週間も通常の精神状態ではいられないと思うからです。国や社会はそこに気づいていなくて、これから特別養護老人ホームをどんどん増やしていく方向に進んでいますが、どこかで大きなひずみが生じてくると思いますね。

それに、ひと口に認知症といっても、人によって強弱があって、この部分は認知できないけどこの部分は一般の人と同じように十分認知できるという人がたくさんいるんですよ。でも介護度によっては、全部できない人のように扱われてしまい、どんどん症状が悪化していくわけです。

梅ジュースの作成のほか、天然温泉やレストランのスタッフ、ショップでの陳列・販売など、楽しく仕事をしている利用者もたくさんいる

梅ジュースの作成のほか、天然温泉やレストランのスタッフ、ショップでの陳列・販売など、楽しく仕事をしている利用者もたくさんいる

佛子園は元々障害者施設から出発しているので、例えば下肢麻痺の人の場合は、その人が下肢以外を使ってなるべく自力で生活していくにはどうすればいいかを一所懸命考えるんですね。その考え方を応用すると、認知症の高齢者の方でもまだまだできることはたくさんあるわけです。そういう能力や得意技を探すのも私たちの役目なんですよね。例えばShare金沢のデイサービスに来ている認知症の方で、梅ジュースを作るのが上手な方がいたので、それを仕事にしてお給料をもらっている方もいます。デイサービスに来てお給料をもらう認知症の高齢者ってすごいと思いませんか? 全国的にもなかなかいませんよね(笑)。

そこに存在していること自体に価値がある

もちろん、通常の高齢者デイサービスのような過ごし方でいい人もいます。でもそうじゃない人もいる。「認知症」という病気で全員ひとくくりにして同じ扱いを受けさせることに問題があると思うんです。例えば同じ障害をもつ人でも軽度の人は自分よりも重い障害をもつ人に対して力になってあげたいと思って、元気が出たりするんです。認知症の人でも子どもと一緒にいると元気になったりするんです。それを長年、実際に見てきているので、認知症になったからといって認知症の人しかいない空間で生活するのはいかがなものかと思うんですよね。

子どもたちにとってもメリットはあります。人は年をとると、認知症までいかなくても目が見にくくなったり、耳が遠くなったり、足腰が弱くなって早く歩いたり走ったりできなくなりますよね。でも今は核家族化が進んでそういう「老い」を身近で見て学ぶ機会が少なくなっている。だからおばあちゃんやおじいちゃんと住んだことのない子どもは、うまく歩けないお年寄りを見ると「おばあちゃん、ケガでもしたの?」と思う。年を取って足腰が弱っているということが理解できないから「おばあちゃんもだいぶ年を取ったんだな、大丈夫かな」というふうに相手を思いやることができない。これは昔では考えられないことですよね。

雄谷良成-近影2

多くの人間は元気な状態である日突然死ぬわけじゃないですよね。みんなそんなふうに生きて死にたいと思うでしょうが、実際は難しい。みんな年を取るにつれて何らかの問題点を抱えながら生きていく。それは体かもしれないし精神状態かもしれないし人間関係やお金のことかもしれないけれど、周りに似たような人ばかりではなく、いろんな人がいることで人って元気になると思うんですね。

知的障害の子はたまに大声を出したりするので、近所の人は最初のうちは「あの子、落ち着きがないけど大丈夫なの?」と心配顔で言うんですが、それが当たり前になってくると元気で天真爛漫な彼らを見ていると元気になると笑顔で言うんですよ。

そういう意味では障害のある人でも認知症の高齢者でも、誰もが「そこにいる」ということだけで役割を果たせるんです。何かができるという能力的なことじゃなくて存在自体が非常に社会の役に立つと考えれば、みんなが楽しく幸せに暮らせると思うんですね。


──敷地内にアルパカがいたのには驚きました。なぜアルパカを飼うことにしたのですか?

Share金沢で飼育されているアルパカ。彼らにも立派な役目がある
Share金沢で飼育されているアルパカ。彼らにも立派な役目がある

Share金沢で飼育されているアルパカ。彼らにも立派な役目がある

元々はうちの職員の提案なんですよ。佛子園では職員から新規事業などのやりたいことを募集して、採用されれば予算も人も付ける「新規事業提案プロジェクト」という制度があります。アルパカ牧場もその1つです。

重い障害をもつ人や高齢者はどうしても他人から指示されることが多いのですが、常にそういう環境にいるとどうしても心が塞ぎがちになります。でも役割をもって少しでも他人から喜ばれることができたり、社会に貢献できる実感をもてるようになると元気になるから、そういう活動をぜひ彼らにやってもらいたい。その活動の一環として、動物の世話をしてもらうのがいいんじゃないかというのが職員からの提案だったんです。重い障害をもっていても病気であっても年を取っていてもその人自身の存在価値はある。それを私たちも忘れないでやろうということですんなり採用となり、2頭購入しました。アルパカを選んだのはおとなしくてあまり悪さをしないので飼いやすいからです。

雄谷良成(おおや りょうせい)

雄谷良成(おおや りょうせい)
1961年金沢市生まれ。

社会福祉法人 佛子園理事長、公益社団法人 青年海外協力協会 理事長、全国生涯活躍のまち推進協議会 会長、日蓮宗普香山蓮昌寺 住職
幼少期は祖父が住職を務めていた日蓮宗行善寺の障害者施設で、障害をもつ子どもたちと寝食を共にする。金沢大学教育学部で障害者の心理を研究。卒業後は白山市で特別支援学級を立ち上げ、教員として勤務。その後、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国へ派遣。障害者教育の指導者育成や農村部の病院の設立に携わる。帰国後、北國新聞社に入社。メセナや地域おこしを担当。6年間勤務した後、実家の社会福祉法人佛子園に戻り、「星が岡牧場」「日本海倶楽部」などの社会福祉施設や、「三草二木 西圓寺」「Share金沢」などさまざまな人が共生できるコミュニティ拠点を作るほか、社会福祉法人としては初めてとなるJR美川駅の指定管理も手掛けている。現在は輪島市と提携して町づくりに「輪島KABULET」取り組んでいる。

初出日:2015.12.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの