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2015.12.15  取材・文/山下久猛 撮影/林賢一郎

青年海外協力隊時代の経験

──やはり町づくりにおいては青年海外協力隊員時代の経験は生きているのでしょうか?

輪島KABULET認証システム

ものすごく生きてますね。基本的にはShare金沢や輪島市の町づくりのノウハウの中にはPCM(プロジェクト・サイクル・マネジメント)という開発援助手法が入っています。それは必ず住民に当事者意識をもってもらって参加させながら地域おこしをしていくというものです。

一番いけないのは協力隊員が現地の人に何でも教え込むことです。このやり方では現地の人が協力隊員に依存してしまうのでどんなプロジェクトでもだいたい失敗します。青年海外協力隊はいつかその地を離れるので、その後も現地の人たちでプロジェクトを継続してやっていかなければならない。だから最初から現地の人と一緒に問題点を共有しながらどういうふうにやっていくかを考え、手を貸したくてもぐっとこらえ、最終的には地元の人間たちに自主的に判断させて実行させなければいけないんです。これが結果的に今、私たちが取り組んでいる町づくりに生きていると思います。

西圓寺(前編参照)でも、譲渡を受ける条件の1つとして、住民のみなさんが自分たちの施設として主体的に関わっていくことを挙げたのはこういうわけです。やっぱり町づくりって住民一人ひとりが主役なので、誰かにやってもらうという姿勢では長続きしないんですよね。Share金沢では温泉が今年(2015年)の4月にオープンしたのですが、オープニングセレモニーは運営側の社会福祉法人の人間は関わっていません。全部地元の人が企画して、我々の代表はひと言挨拶しただけです。Share金沢は住民が自分たちの手で守っていくと思ってくれています。

この、住民に当事者意識をもたせることが一番重要で難しいんです。Share金沢のロゴマークは、町の中にある要素を全部入れ込んでいて、それを外から見ている黒衣が小さく描かれているのですが、これが我々。つまり、表には出ないで裏で支える黒衣役。介護に関しても、福祉の人間が自分でいろいろやっちゃう方が簡単で楽なのですが、それだと要介護者がどんどんダメになっていってしまう。要介護者が身の回りのことは極力自分でやるという気持ちを大切にして、それを見守る方がずっとレベルの高い介護なんです。

Share金沢ロゴマーク

Share金沢ロゴマーク。外の右下にいる小さな黒衣が雄谷さんたち運営者

多岐にわたる活動

──今、雄谷さんは、社会福祉法人佛子園の理事長、日蓮宗普香山蓮昌寺の住職、Share金沢の理事長などいろんな肩書、職務がありますが、日々どういう働き方をされているのでしょうか。

雄谷良成-近影4

最近は活動が多岐にわたっており、講演依頼も多いので、全国各地を飛び回る毎日です。月の3分の1は県外でしょうか。東京も多いですね。講演のテーマはやっぱり地方創生や町づくりについてですね。地方創生といっても何をしていいかわからないという自治体が多いんですよ。Share金沢のようなケースも他にないですしね。

出張がない日は、お寺の住職として毎朝5時くらいに起きて準備をして、6時くらいから1時間ほど朝のお勤め、お堂でお経を上げます。その後掃除をして朝ごはんを食べて、檀家さんのお月参りに行きます。もちろんお葬式や法事、お寺の行事の際には住職としての務めを果たします。その後10時頃から白山市の佛子園本部に出勤して理事長としての仕事をします。各施設、部署から上がってくるいろいろな議題・申請に対する決済や経営の方向性の決定、進行中のプロジェクトの確認、新しい企画の検討、職員の採用などいわゆる一般企業の経営者と同じような仕事ですね。職員がやりたいことを自由にのびのびやってもらう環境をつくるのが私の役目なので、基本的に仕事は職員の自由意志に任せています。それから全国の市町村や政府から視察に来るのでその対応も重要な仕事です。

20を超える施設を経営しているので、いろんな人から商売上手ですねとよくいわれるんですが、そうじゃないんです。お金儲けのノウハウなんて全くありません。私たちは人集めのプロというか、人と人を関わらせていい場を生み出すプロで、結果として売り上げが上がるのはそこにいい人材が集まってくるからなんです。言い方を変えれば、大人も子ども認知症の人も障害者の人もみんなが自由に集まって一所懸命になれるような仕組みや環境をつくることが私たちの仕事で、結果としてそこに消費が生まれるんです。


──そこまで忙しいと休みやプライベートの時間はあるんですか?

雄谷良成-近影5

基本的にないですね。私のスケジュールは法人内で公開されているので、空白があるとすぐに埋められてしまってます。あまりにもびっしりなので、よくみんなから大丈夫なんですか? と聞かれるんですが大丈夫なんですよね(笑)。毎朝お寺でお経を上げるときは、お香が焚かれた場所で、難しい経本を目で追い、木柾(もくしょう)を叩きながら、声を出すわけなので、人の五官を全部使います。それで心身ともに元気になるんです。お坊さんは長生きする人が多いのですが、このおかげだと思いますよ。

お経を上げる効能はもう1つあります。いろんな人から「どうしてそんなにアイデアが次々と浮かぶんですか?」とよく聞かれるんですが、お経を上げた後、お風呂につかっている間にほとんどの発想が生まれるんです。たぶんお経を上げて五官をフルに使うことで脳がすごく活性化してるんでしょうね。大きな声を出すのもすごく大切なことだと思いますね。前はそれほどでもなかったのですが、最近はとみにそう感じます。ありがたいことです。


──働くことや働き方に関して大事にしてきたことは?

例えば社会福祉法人の理事長としては、人を育てられる人を育てたいと思ってずっとやってきました。能力をもった人を育てるのはそんなに難しいことじゃない。例えば社会福祉法人の事業をうまくやれる人を育てるのはそれほど難しくはありません。大抵のことは教えればできるので。一方、人を育てるというのはその人自身の人格や話し方などいろんな要素が必要とされるから非常に難しい。その結果が出るまでにはものすごく長い時間がかかりますしね。佛子園の常務がきちんと人を育てられて、後継者を作れるようになった時に初めて私は評価されると思ってます。気の長い話ですが、それでも事業よりも人を育てたい。それが私の変わらない思いですね。


インタビュー前編はこちら

雄谷良成(おおや りょうせい)

雄谷良成(おおや りょうせい)
1961年金沢市生まれ。

社会福祉法人 佛子園理事長、公益社団法人 青年海外協力協会 理事長、全国生涯活躍のまち推進協議会 会長、日蓮宗普香山蓮昌寺 住職
幼少期は祖父が住職を務めていた日蓮宗行善寺の障害者施設で、障害をもつ子どもたちと寝食を共にする。金沢大学教育学部で障害者の心理を研究。卒業後は白山市で特別支援学級を立ち上げ、教員として勤務。その後、青年海外協力隊員としてドミニカ共和国へ派遣。障害者教育の指導者育成や農村部の病院の設立に携わる。帰国後、北國新聞社に入社。メセナや地域おこしを担当。6年間勤務した後、実家の社会福祉法人佛子園に戻り、「星が岡牧場」「日本海倶楽部」などの社会福祉施設や、「三草二木 西圓寺」「Share金沢」などさまざまな人が共生できるコミュニティ拠点を作るほか、社会福祉法人としては初めてとなるJR美川駅の指定管理も手掛けている。現在は輪島市と提携して町づくりに「輪島KABULET」取り組んでいる。

初出日:2015.12.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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