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2014.12.15  取材・文/山下久猛 撮影/山田泰三

イスラエルのキブツに学ぶ

共同体はよっぽど上手に運営しないと不平不満が出てすぐ壊れてしまいます。国内にはあまり例がないので、イスラエルの共同体「キブツ」を参考にしようとイスラエルに行きました。湾岸戦争が終わる頃だったこともあり、フランクフルトからテルアビブに飛ぶ飛行機に乗るとき、ものすごく厳重な警備で、厳しいチェックを受けました。真っ裸になって身体検査を受けて、タラップに上がって振り返ったら戦車の砲門がこちらに向いていたのを覚えています(笑)。

キブツに入って数週間実際に生活をしてみることで、共同体は細かいルールや規約を決めて窮屈にしてしまうと個が埋没してしまい、うまくいかないということがわかりました。それで食の杜も日本に多い「組織ありき」という考え方ではなしに、まずは自分も相手も不完全だと認めることから始め、おおらかな共同体にすることにしました。だから規約やルールなどは決めず、月に1回メンバーで集まって協議会をやる程度です。各メンバーが自立しているから問題はありません。

食の杜に広がる無農薬農園

「農業」ではなく、「農」

──佐藤さんがこれまで百姓として生きてこられて大切にしてきたものは?

食べるということは、地球上の生物の「いのち」をいただくこと。そして、生命の源としての食べ物を考えていけば、どう作られているかが重要になる。

「農業」なのか「農」なのかが大事。農は自分と家族が生きるために必要なものを生産すること。それが原点で、「業」がつくと商売になる。業の方へ傾くと大量生産、大量販売のため、どうしても農薬や化学肥料などの「ごまかし」が入ります。我々は原点に立ち返ってそのごまかしを極力排除したい。だから有機農法にこだわるわけです。

とはいえ農業を全くしないということも現代の貨幣経済社会では難しいので、そこのバランスをどの程度にするかが大事。我々は極力農に近いスタイルを選択しています。つまり、自分たちが安心して食べられる物を、我々が生きていける分を基本としてプラスアルファで必要最低限の現金収入を得られる分を作っているんです。

あくまでも自分のためにどう生きるかということを中心に考える。我々はこの地球上に存在する有形無形のすべてのものの関係性の中で存在しています。そう考えたら、あなたは私であり、私はあなた。あなたがあって私は存在していて、逆もまたしかり。そうすると私のためということは結局あなたのためということになる。

逆に人のためと言っている人は信用できません。事実、「人」の「為」と書いて「偽り」でしょ。いくら上手に人のためといっても、内心は自分が一番かわいいと思っている。一番よくわかるのは、戦争で敵と対面したとき。本当に人のためだと言うのなら、相手が引き金を引くまで待って自分が先にあの世へ行く。でもそんな人はいない。いくら人のためと言ってる人でも、自分が先に引き金を引くでしょう。

だから経営者だった頃から会社を大きくしようとも思わないし、作物の反収も牧場の乳量も平均以下でいい。ただ、作るからにはまっとうなものを作る。しかも都市の加工業者や流通業者の奴隷にならず、自分たちで自主独立した経営をやろうという方針でやってきました。それが本当の食べ物をつくる生産者の姿だと考えています。

佐藤忠吉(さとう ちゅうきち)
1920年島根県生まれ。木次乳業創業者。現在は相談役。

小学校卒業後、家業の農業に従事。1941年から6年間、中国本土で軍隊生活を送る。1955年から仲間と牛乳処理販売を始め1969年に木次乳業(有)社長に就任。1950年代から有機農業に取り組み、1972年木次有機農業研究会を立ち上げ、地域内自給にも取り組む。1978日本で初めてパスチャライズ(低温殺菌牛乳)牛乳の生産・販売に成功。1989年、自社牧場として「日登牧場」を開設。日本で初めてブラウンスイス種を農林水産省から乳牛として認めてもらい、中山間地を牛の力で開発するモデル牧場となる。1993年、かつての日本にたくさんあった、小さな集落での相互扶助的な生活、教育も福祉も遊びすら含めて生活・生産のすべてを共有していた「地域自給に基づいた集落共同体」の復活を目指しゆるやかな共同体を発足。野菜を作る農園、国産大豆を原材料とする豆腐工房、ぶどう園とワインエ場などが集まる「食の杜」を拠点に、平飼いの鶏が産む有精卵、素材や水、加工法にこだわった醤油、酒、食用油、パンなどの生産者をネットワーク。生涯一「百姓」として、地域自給、村落共同体の再生に取り組んでいる。その実践は、農村の保健・医療・福祉の向上にも尽くしたとして、日本農村医学会の「日本農業新聞医学賞」を受賞。2012年雲南市誕生後、初の名誉市民となった。

初出日:2014.12.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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