WAVE+

2014.01.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

仕事の三原則は音楽の三原則

──仕事論についておうかがいしたいのですが、これまで仕事をする上で大事にしてきたものは何ですか?

僕は10代の頃からロックミュージックが大好きで自分でもバンドを組んでギターを弾いたりしていました。生きる上で、また働く上で大事なことの多くはそのロックから学んできたような気がします。

例えば、音楽の三原則である「メロディ」「リズム」「ハーモニー」を仕事にもそのまま当てはめています。まず仕事のテーマやコンセプト=「メロディ」がしっかりしているかどうか。次は、その仕事が時代の流れ=「リズム」に合っているかどうか。3つめはいい仲間と一緒にやれるか=いい「ハーモニー」を奏でられるか。どんな仕事でもこの三原則に当てはめてみて、どれか一つでも欠けていればダサい曲=仕事にしかならないのでやりません。逆に3つそろったらみんながハッピーになるいい仕事ができます。僕の仕事の三原則は音楽の三原則なんですよ。

ワークライフバランスについて

──安藤さんは非常にうまくワークライフバランスを取っていると思うのですが、やはり子どもが生まれたことが大きな転機となっているのでしょうか。

16年前に娘が生まれたとき、「育児というステージ」が来たわけだからそのチャンスを活かしたかった。子育てを自分の人生に取り入れることが自分の人間的な成長につながるんじゃないかなと直感的に感じたんです。それで当時、朝から深夜までとにかく仕事中心の生活だったのを、意識的に子ども・子育てを軸にした働き方に大きくシフトチェンジしました。当時は書店に勤めていて、ちょうど新しい書店を立ち上げる頃に長女が生まれたので、その書店を作る場所も自宅と保育園の両方から自転車で15分以内で通える距離の場所を選びました。勤務先に合わせて生活する場所を選ぶのではなく、自分の生活する場所に合わせて勤務先を決めたのです。共働きの妻も賛成してくれて、夫婦の役割分担もうまくいきました。

また、その後ヘッドハンティングされて移った数社でも入社初日に子どもの写真をデスクに飾り、「早朝の会議と火、木の会議は保育園の送り迎えがあるから出ません」とか「必要だと思えない早出や残業はしません」と宣言しました。上司からの命令でも時間の無駄だと思うことは徹底して断って、そのぶん家事や育児に費やしました。これもサラリーマンの宿命だと仕方なく付き合っていると、自分の時間をどんどん奪われるからです。


──上司はそれをすんなり受け入れてくれたんですか?

上司から小言を言われたりしてやっぱりぶつかることはありました。でもそんなときは「子どもは会社が提供するサービスの未来のユーザーなんだから、男性が子育てすることは将来、会社の利益、社会の安定につながる」と主張したり、なぜこれをやる必要がないかを論理的に説明するとわかってくれました。また、仕事の成果をその都度出していたので、上司もあまり小言めいたことは言ってこなくなりました。自分のやり方を認めさせるには、説得力のある理論武装と成果・実績を出すことは必要不可欠です。この辺のワークライフバランス感覚は実際に子どもをもって働いていくうちに会得していった感じですね。


──子どもの誕生によって、人生における仕事の価値感も変わったということでしょうか。

娘が生まれて家族も仕事もどっちも大事だなと思ったんですよね。そもそも僕は仕事が好きだし、仕事で得られる達成感は他に替えがたい喜びがあるのですが、それだけじゃなくて子育てをしたり、家族というチームをうまく運営していくことの達成感、喜びもそれ以上に大きいということに気づいたんです。

「ワークライフバランス」は好きじゃない

──そういう考えの元、ワークライフバランスを取っていったと。

そもそも僕は「ワークライフバランス」という言葉は実は好きじゃないんです。「なんでワークが先なの? まずライフが先だろ?」って思っちゃう。ライフ(人生)の一部がワーク(働くこと)であり、育児も地域活動も僕の人生にとって重要なリソースなんだと思う。だから子どもが生まれたときに、ワークとライフのバランスを取るのではなく、どっちも人生という名のリュックに詰め込んで背負っちゃった方がうまく歩けるんじゃないか、仕事と育児を天秤にかけるのではなく、両方やってみてその相乗効果を楽しみたいなと思ったんです。だからワークライフ「バランス」じゃなくてワークライフ「シナジー」。別の言い方をすれば、自分の人生という「寄せ鍋」の中に具材として仕事、子育て、介護、趣味などがある。それを全部グツグツ煮た方が味わい深い人生、「ライフ・イズ・ビューティフル」になるんじゃないかなと思ったんです。

安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。

大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。

初出日:2014.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

pagetop