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2014.01.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

音楽で伝える

児童養護施設で演奏するタイガーBAND。安藤さんはギターを担当

また、啓蒙・啓発活動という意味では昨年(2012年)、FJでも一緒に活動している7人のパパたちと「タイガーBAND」を結成して、音楽で社会的養護下の子どもたちへのサポートの必要性や、子どもへの虐待防止などを訴えています。講演などで「虐待をなくそう」と言葉で伝えることも重要ですが、それよりもメッセージソングという形の音楽ならより多くの人々が興味をもってくれるし、心に届くと思ったんです。児童養護施設でも演奏しているのですが、子どもたちが楽しそうに聞いてくれたり一緒に歌ったりしてくれるとうれしいですね。仲間と一緒に音楽に打ち込む僕らの姿をみて「何か」を感じ取ってくれればなおいいですね。

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タイガーBANDのメンバー

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演奏の後、絵本の読み聞かせも

自立の重要性

タイガーマスク基金の活動をしていて強く思うのは「自立」の重要です。自立とは一人暮らしを始めることだけではなくて、自分の「活き場所」を見つけるということ。常に自分が自分らしく活き活きと力を発揮でき、楽しくいられる場所を見つけたときに人は初めて「自立」=「自律」するんじゃないかと僕は思っていて、子どもたちには、そういう「自分だけの活き場所」を見つけてほしいし、見つけられるだけの力を身につけることを支援したり、そのために必要な情報を発信していきたい。施設の子に限らずそういう子どもたちが増えればきっと将来、多様な人材が自分の能力を十分に生かせる豊かな社会になっているはずです。

そのためにはまず子どもの身近にロールモデルとなる大人がたくさんいることが大事で、父親の自立を支援するFJではそのロールモデルを作ることに貢献していると思っているし、こういう部分でもタイガーマスク基金とFJはつながっているわけです。

タイガーマスク基金では定期的に児童養護に関する勉強会やシンポジウムなどを行っている

社会起業大学の講師

──安藤さんはFJやタイガーマスク基金の他にもさまざまな活動をしています。主な活動について教えてください。

NPOを2つ立ち上げたり、さまざまなNPOの理事を務めている経験を買われて社会起業大学の講師をしています。

昨今のプロボノ(専門知識やスキルを生かして社会貢献活動に参加すること)ブームで、「社会起業家になりたい人」「NPOをやりたい人」が増えています。でもそもそも社会起業家とは、「NPOを立ち上げた人」ではなくて、ある社会的な課題に問題意識をもち、その解決に取り組む人のことであって、NPOはその一つの形態にすぎません。そもそも社会起業家は「なろうと思ってなるもの」でもなく、まずは自分が実社会で暮らす中で「これって変じゃない?」「こんな社会はおかしい。自分が変えたい!」という強烈な意志が生れることがまず第一です。それがないのにまるでカタログで商品や企業を選ぶように「何の社会起業家になろうかな?」的な人が多い気がします。

つまり、「社会起業家になること」を目的にするのではなく、「なぜ自分がその社会的な課題を解決したいのか?」をもっと掘り下げて考える必要があるのではないか、と大学では教えています。実際、僕も自分のことを社会起業家だと思ったことなんて一度もありません。このインタビューの前編でもお話しましたが、FJにしても「NPOを作りたかった」わけではなく、僕らの掲げるミッションを達成するための手段として「NPOという形態が最適だ」と思ったからそうしただけ。NPOでも一般の企業でも社会のニーズと合致すればおのずとそれが「ビジネス」になっていくだけなのだと思います。

ただ現状において、生活するための仕事=ライスワークだけで満足せず、「社会貢献活動をしたい」という人が増えているのはとてもいいことだと思います。でも本業との両立のためには時間と体力が必要で、結局そのときにワークライフバランスが必要だという話になります。最近では社会貢献活動のための休暇を設け始めた会社もありますが、コソコソ社会貢献するのではなく、会社での仕事も社会貢献活動も等価値なんだよ、ともっと社会が示してあげる必要があると思いますね。

本の執筆も

──これまで本もたくさん書いていますね。

ここ最近は本を書く仕事も増えましたね。これまで共著も含めると10冊ほど出しています。昨年(2012年)の11月末に出版した最新刊の『父親を嫌いだった僕が笑顔のパパになれた理由』は、僕と父親の関係を軸に、親との関係に苦しんでいて自身の子育てもつらくなっている人のために書きました。幼少期からの実親との関係が自分の子育てに影響を与えているということに気づかず、親に厳しく育てられたから自分の子どもにも「躾」と称して虐待まがいのことをしてしまう親がたくさんいます。親が子どもに対して取る言動は子どもの人生にものすごく大きな影響を与えるのだということに気づいてほしいという思いも込めています。

また、親との関係に苦しんでいて、自分の親を許せないという人もいます。僕も自分の父親のことは他界しても許してない部分はありますしね。「過ぎたことなんだからもういいじゃないか」「そんなに親父さんのことを悪く言うなよ」という人もいますが、そんな簡単なものではない。父は僕の幼少期に母親を毎日あんなにいじめていた、それだけは許せないんです。だから親に同じような感情をもつ人には無理に自分の親を許さないでいいんだよと言いたい。

そしてそのネガティブな感情をどうプラスに変えられるか。自分を含めそうした親との関係で今も苦しむ人に少しでも楽になってほしいという思いでこの本を書いたんです。タイガーマスク基金の仕事を通しても、つたない親子関係の連鎖で、今つらい思いをしている子どもも多いと感じるからです。

単著、共著合わせて著書多数

安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。

大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。

初出日:2014.01.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの