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2014.01.06  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

さまざまな活動に取り組む

──現在取り組んでいる主な活動について教えてください。

メインの活動は2つあります。ひとつは「NPO法人ファザーリング・ジャパン」(以下FJ)。2006年にファウンダーとして立ち上げたのですが、2012年に代表理事を退き、現在は副代表を務めています。もうひとつは2012年に立ち上げた「NPO法人タイガーマスク基金」。FJの代表を退いて、タイガーマスク基金の代表に就任したという形です。

その他は、「パパ's絵本プロジェクト」メンバー、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、内閣府・男女共同参画推進連携会議委員、子育て応援とうきょう会議実行委員、にっぽん子育て応援団団長、社会起業大学の講師などを務めています。本の執筆も多く、これまで共著も含めると10冊ほど出しています。

FJの主要メンバーとともに2013年10月に出版した『新しいパパの教科書』

──FJといえばイクメンブームを巻き起こしたNPO団体としてつとに有名ですが、FJとはどのような団体なのか、改めて教えてください。

「ファザーリング」とは「父親であることを楽しむ」という意味で、ファザーリング・ジャパンは「よい父親」ではなく「笑っている父親」を増やすことで社会をよりよく変革しようとスタートしたソーシャルプロジェクトです。その実現のため「ファザーリング・スクール(父親学校)」「さんきゅーパパ・プロジェクト(男性の育休取得促進)」「ペンギンパパ・プロジェクト(産後うつ予防)」「パパエイド募金(東日本大震災復興支援)」「フレンチトースト基金(父子家庭支援)」「イクジイ・プロジェクト(祖父・中高年男性のエンパワーメント」などなどさまざまな活動を立ち上げ、取り組んできました。その根底には困っているパパ・ママたちの代弁者となるような活動をしたいという思いがあります。

FJは笑っている父親を増やすため、さまざまなシンポジウムやイベントを開催している

──現在のFJの副代表としての仕事・役割は?

講演中の安藤さん

立ち上げから7年間で活動もいろいろと増えてきましたが、その企画を考えたり、新しい代表含め会員たちを統括しアドバイスするのが現在の僕の主な役割ですね。

また、立ち上げ当初から僕のメインの活動のひとつである、ファザーリングという概念を広め、世の父親の意識を変えるための講演活動は現在も引き続き行っています。現在は全国各地で年間200回ほど行っていますが、イクメンブームの頃は年に300回以上行っていました。この7年間で会ってきたパパの数は2万人以上だと思います。


──やはり講演ではご自身の父親としての体験を元に話すのですか?

もちろんです。大学の先生のように論理だけでは聞く人になかなか響きません。僕自身3人の子どもがいるので、育児が始まったころから今にいたるまでの苦労や喜びをバランスを取りながら話しています。やっぱりウケるのは失敗談ですね。

家事や育児が全然できなかった

──例えばどのような失敗談があるのですか?

僕も最初は家事や育児が全然できなかったんですよ。おむつ交換もおしっこはできるんですがうんちは嫌で、よく妻に「おむつ交換はうんちができて一人前なんだからね!」と叱られていました。当時はうんちのおむつ替えなんて男の仕事じゃないとかなんで俺がやらなきゃいけないんだとどこかで思ってたんですよ。図書館で男がおむつ交換をしなくてもいい理由はないかなと調べたけどそんなものあるわけがない(笑)。やらなくていい理由がないからやるしかなかった。

でもこのおむつ交換は2年半くらい毎日続くわけなので嫌々やってたら楽しくないなと。一晩中、紙おむつを握りしめながらどうやったらこの作業をポジティブにできるかと考えた結果、「子どものうんちというのは単なる排泄物じゃなくて健康のバロメーターとなる貴重な情報だ」と気づいたんです。つまり子どもの命を守るのが父親の使命だとしたら、その健康を測る最先端情報をまず毎朝チェックするのが自分の大切な仕事だと思えるようになったんです。それ以来、うんちのおむつ替えが全く苦ではなくなり、気がついたら一人の子どもあたり2200枚、3人で約7000枚のおむつを替えていたんですよ。


──それは安藤さんならではのアプローチですね。講演では他にどんなことを話すのですか?

もう少し大きな視点からワークライフバランスや男女共同参画についての話をしています。現在、自民党のアベノミクスの戦略のひとつとして「女性活用」が叫ばれていますが、女性に社会で活躍してもらうためには当然家事や育児の負担を減らさないとダメで、そのためには父親の家庭回帰と育児参加が不可欠。だからまずは男性の意識と働き方を変えなければならないわけですが、それを大上段から叫んでも男の凝り固まった意識はなかなか変わりません。そこを僕らは当時生まれた「イクメン」という言葉で攻めたわけです。

子育てはこんなに楽しいことなんだ、今は積極的に子育てをするイクメンな父親がかっこいい時代なんだと盛り上げることで男性の意識と社会の見方を変え、男性が働き方を変えて育児にコミットできたり、育休を取りやすい雰囲気を醸成できれば必然的に職場のワークライフバランスもよくなって、女性も仕事と育児の両立ができて離職せずに能力を発揮できる社会になる。それが男性の伝統的な役割からの解放と、真の女性活用に繋がると思うんです。

でもそもそも僕は「女性活用」という言葉自体、上から目線なので嫌いです。「女性を活用する」って、何か違う。女性は道具じゃないんだから。しかもちゃんと活躍している女性はたくさんいますしね。FJを作るときに、ママたちにこれ以上頑張れって言いたくなかったんですよ。たいへんな思いをして毎日育児や家事をやっているし、働く母親は保育園に朝も晩も送迎に行って仕事も家事もこなしてきた。これまで十分頑張ってきたんだから、そろそろ男性たちの番でしょと思ったわけです。

安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。

大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。

初出日:2014.01.06 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの