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2014.01.06  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

支えあってパパとして成長

──仲間ができるというのは大きいですよね。

パパ同志が繋がれる、親子で参加できるイベントも開催している

育児ではいろいろなことが起きます。男性は「自分のやり方が正しい」と固執しがちですが、困ったり悩んだりしたら独りよがりにならず、FJの講師や一緒にスクールに参加しているパパ友に相談すればいい。今はSNSの時代なので情報を共有して多様なアドバイスをもらえます。または家族のお出かけ、花見やピクニックに「一緒に行こうよ」と誘いあえる仲間ができる。一緒に行けばお互いの育児の仕方が見えたりコミュニケーションも増す。そうすると育児が楽しくなって次第に「笑っているパパ」として成長していきます。こういうポジティブなパパコミュニティを僕らは作りたかったわけです。

ママたちからも感謝のメールが多数届いています。「私がいくら言っても夫は全然変わらなかったのにファザーリング・スクールに通い始めて、安藤さんの話を聞いて変わりました」という内容が多いですね。

パパのための料理教室も

FJ立ち上げの経緯

──安藤さんはなぜFJを立ち上げて現在のような活動をしようと思ったのですか?

父親を嫌っていた僕が笑顔のパパになれた理由』(廣済堂出版)では父親との葛藤を軸に安藤さんがFJを立ち上げた理由が詳細に描かれている。これまで語ってこなかったエピソードも満載。嫌いだと思っていた親を乗り越え、そしてわが子に対して「笑顔のパパ」になるために、やさしくも頼もしいメッセージを具体的な方法とともに紹介している

自分自身が父親になってしばらくはうまくいかなかった。でもOSを入れ替えて仕事と家庭を両立できるようになってラクになってきたのでそれを悩める日本の父親たちに伝えつつ一緒に成長したい、というのが主な動機ではあります。しかし、もっと大元にあるのは3年前(2010年)に亡くなった実の父親の存在です。僕の父親は男尊女卑的な思想の持ち主で、母をいつも精神的に追い詰め、言葉の暴力で支配していました。そんな父を間近に見ながら、将来は絶対にこういう夫・父親にだけはなるまいと心に誓っていました。

実はFJの立ち上げメンバーの中にも子どもの頃に父親から虐待を受けていた者や、父親が家を出て行った者など、自分の父親との葛藤を抱えているメンバーがたくさんいます。FJを立ち上げるときに、「自分たちの子どもに俺たちが味わったような思いをさせてはならない。この負の連鎖を俺たちで止めよう。世の中に"笑っている父親"を増やそう」と話し合ったんです。


──そうだったんですか。安藤さんの過去のインタビューや著作を読みましたがこういったことは書かれてなかったので驚きました。

当初はより多くのパパに参加してもらうために、ポップかつライトに活動したかった。こういう重い話をすると当事者団体みたいになって多くの人が入ってこれないと思っていたので、これまであまり語ってきませんでした。でももう会員もだいぶ増えたし、3年前に父親が亡くなったのでその禁を解いたわけです。このあたりの詳しい顛末は昨年(2013年)11月末に出版した『父親を嫌っていた僕が笑顔のパパになれた理由』という本に書いています。

娘の誕生でOSを入れ替えた

──反面教師にして自分は絶対にああはならないぞと思う一方で、もしかしたら自分も父親と同じことをしてしまうんじゃないかという恐れはないですか?

ありますよ。ご存知のように、成育環境は子どもに多大な影響を及ぼします。小さい頃に親から虐待を受けた子どもは、自身が親になったとき、子どもを虐待してしまうケースが多いと言われています。いわゆる「虐待の連鎖」です。

これもこれまであまり話していなかったのですが、僕は1度結婚に失敗しているんですよ。25歳の時に結婚して4年で離婚しました。子どもができなかったのでよかったのですが、当時はまだ家族とは何か、夫婦とは何かということがよくわかっていませんでした。とても幸福とはいえない両親の姿しか見ていないので...いや、それは言い訳にしかならないですね。

2回目の結婚は35歳のときで、妻のお腹の中にいるのが女の子だとわかったとき、父親になるということについて考えました。そのとき脳裏にあったのが自分の父親のことです。ああいう父親にならないためにどうすればいいか考えた結果、無理矢理にでも自分は父親になるんだというスイッチを入れようと思いました。父親のOSにアップデートしようと。でも生まれてくる子が女の子らしい。どうすればいいかいろいろ考えたのですが、当時書店の店長だったので絵本を100冊買って娘が1歳の頃から毎晩読み聞かせました。僕は父親に絵本など読んでもらった記憶はない。つまりこの絵本読み聞かせという行為を通じてまずはパパOSをアップデートできたのです。出来事としてはこれがFJ誕生の原点です。

パパ's絵本プロジェクト

──そこからFJの立ち上げにどうつながるのですか?

娘が生まれて6年の間に、Web書店をオープンさせたり、ネット書店「bk1」やNTTドコモの電子書籍事業の立ち上げに事業リーダーとして関わったりしました。その間も家では毎日絵本の読み聞かせを行っており、ある日、仕事で知り合った2人のパパ友と一緒に居酒屋で自分の好きな絵本やそれぞれの育児論について熱く語り合いました。そしたら予想以上に盛り上がって、草野球チームやバンドを組むようなノリで「この3人で絵本の読み聞かせチームを作ってライブをやろうぜ」ということになったんです。チーム名は「パパ's絵本プロジェクト」と名づけました。そのうちプロのミュージシャンも加わり、ただ読むだけでなく絵本に曲をつけて、ギターやカホンなどの楽器を演奏しながら歌うというライブスタイルへと変わっていきました。

2003年に日本橋の丸善で初めて絵本の読み聞かせライブを開催したときには約40人の親子が参加してくれました。その様子が全国紙で報じられたのですが、予想以上の反響があり、全国の図書館や自治体や書店などから読み聞かせの依頼が来て、週末は「パパの出張絵本ライブ」で全国を回るようになりました。これがFJの前身ですね。この活動は現在でも続けていて、昨年(2013年)10周年を迎えたので、「パパ'sがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!~ パパ's絵本プロジェクト☆マジカル全国ツアー2013」と題して全国ツアーを展開中です。

現在も各地で絵本の読み聞かせライブを行っている

安藤哲也(あんどう てつや)
1962年東京都生まれ。NPO法人ファザーリング・ジャパンファウンダー、副代表/NPO法人タイガーマスク基金代表ほか。

大学卒業以来、出版社の書店営業、雑誌の販売・宣伝、往来堂書店のプロデュース、オンライン書店bk1の店長、糸井重里事務所、NTTドコモの電子書籍事業のディレクター、楽天ブックスの店長など、9回の転職を経験。2006年11月、会社員として仕事をする傍ら、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、代表を5年間務める。2012年7月、社会的養護の拡充と児童虐待の根絶をめざす、NPO法人タイガーマスク基金を立ち上げ、代表理事に就任。地域活動では、娘と息子の通った保育園、学童保育クラブの父母会長、公立小学校のPTA会長を務めた。2003年より、「パパ's絵本プロジェクト」の立ち上げメンバーとして、全国の図書館・保育園・自治体等にて「パパの出張 絵本おはなし会」を開催中。タイガーマスク基金のハウスバンド「タイガーBAND」ではギター担当。社会起業大学講師、にっぽん子育て応援団共同代表、(株)絵本ナビ顧問、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進チーム顧問、東京都・子育て応援とうきょう会議実行委員なども務めている。 『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由~親を乗り越え、子どもと成長する子育て』『パパ1年生』『家族の笑顔を守ろう!~パパの危機管理ハンドブック』など著書多数。

初出日:2014.01.06 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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