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2013.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

新しい子育て支援の形を

子どもにも大人にも大人気の「asobi基地」。イベントの告知をするとすぐに満員になることが多い

──今後の目標は?

現在「asobi基地」は毎回場所を変えてイベントを開催していますが、そろそろ固定の場所がほしいなと思っています。そういう場所があった方が私たちのビジョンを社会に訴えかけやすいと思うので、どこかに「asobi基地カフェ」を作りたいですね。そのためクラウドファウンディングで資金調達を募るなどした結果、10月5日と6日に期間限定ですが念願の「asobi基地カフェ」を開催できました。今後は、期間限定ではなく、常設の「asobi基地カフェ」ができるように動いていきたいと思っています。

そこでは、今まで実施していたルールを常に実行し、子どもをひとりの人間として尊重し、また自分の子どもだけじゃなく他人の子どもも大事にしながら、みんなで子どもを育てていけるような子育て支援の場所にしたいですね。あとは、「楽しむ」ということを大事にして、大人たちが好きなことをやる場所にもしたいなと思っています。例えば、アーティストがふらっと来て絵を描いたり、音楽を奏でたり、外国の人が来て言語や文化を教えてくれたり。そんな生きることを楽しむ大人たちも出入りできるような場所が理想です。そして、「子どもを遊ばせておしまい」ではなく、親も一緒に勉強しながら子どもを育てていけるようなサポートやコンテンツも持ちたいです。勉強会や親同士の親睦会といった機会をたくさん設けて「子どもと大人がフラットでいられる場所づくりを家庭でも実現しましょう」と発信し続けていきたいです。2、3年後の設立を目標に頑張っていきたいですね。

また、育児相談、子ども部屋の環境設定相談などもかなりニーズがあると思うので、保育士の視点を活かしながらいろいろなサービスを手掛けていきたいと思っています。

新しい保育士の働き方を追求

──インタビューの冒頭でおっしゃっていた小笠原さんのもうひとつのテーマである「新しい保育士の働き方の追求」に関してはいかがですか?

保育士として働き始めて間もない頃に、保育士として培った知識や技術、視点が社会問題の解決のために使えるんじゃないかと思いました。保育士として自分のできることの中に、新しい可能性が秘められているかもしれないと。特にまた最近、親になった身近な友達からの相談で社会の問題点を気付かされることが増えました。

例えば、昔は仕事で子どもを預けたいときは、親戚や近所の人が預かってくれていました。家族や親戚関係のみならず、昔なら村で近所の子と触れ合い、一緒に育てる「関わり」が日常の中にありましたよね。しかし、現代の都市部ではめったにありません。答えのない育児に加え、相談できる人がいない環境はどんな人にとってもつらいものだと思います。これを回避するために考えられるアイディアとしては、保育士の経験をもっている人たちが保育園だけでなく、授乳室、駅、お店、マンションなど街中にいれば、そこで相談し、仲間ができ、人が触れ合い、心がつながるコミュニティとなっていき、昔あった家族の機能が他の関係性によって補うことができます。

また、今は大人にとって便利なものが増えているなと感じています。忙しい生活の中で便利なものを使うことは否定しません。でも、もし、それが人と人とが触れ合う機会を奪い、人が育つ上で大事なものを奪っているとしたらどうでしょうか。いじめや幼い子どものうつ病、自殺などが増えているのは、子どもたちからの何かのサインかもしれません。

たくさんの子どもや家庭を見る保育士だからこそわかること、できることがあるんだと現場で感じています。保育士って、未来を担う子どもたちと関わる大切な仕事であり、さらには社会の課題を解決でき、社会をよりよく変えられることができる仕事なんです。そのことをもっと世の中に伝えたいと思っています。


──確かに保育士といえば保育園というイメージがありますが、育児のプロとして保育園以外でも活躍の場はたくさんありそうですね。

そうなんです。このように保育士が保育園以外でその職業の専門性を活かして活躍するというのは、まだほとんど実現していないと思います。だから余計やりがいがあるんですけどね。私が「asobi基地」を作った目的のひとつもそこにありますし、今までお話してきた活動もすべてはそこにつながっています。「こどもみらい探求社」でも今後保育士が活躍できる場をどんどん創出していこうと思っています。


──小笠原さんご自分のプライベートな夢は?

「asobi基地」や保育園の子どもはみんな私の子どもだという感覚なので、今すぐ自分の子どもがほしいというのはあまりないんです。みんなに早く作りなよとか言われるし、もちろん妊娠したら産みますし、子育てはしたいですよ。保育士の経験と親の経験の違いを味わいたいと思っています。そのころには、子育て支援として固定の「asobi基地」をつくって、自分の子どもを産み、そこでたくさんの子どもや大人と関わりながら育てたいですね。

「最高」のその先へ

──では公私共に今後が楽しみですね。

私はいたって感覚的な性格なので、あれもしたい、これもしたいと思うばかりでなかなか具体的に実行できない人間でした。ところが、「asobi基地」のようなオリジナルの場をもってからいきなり目の前が開けたんです。現場で見えたことや自分が体験し、感覚として備わったものが、次につながっていくという手ごたえを感じたんですよね。しかも自分がこうしたいとひらめいたことをどんどんカタチにできるから、それが心地いいんです。思い立ったらやらないと気が済まないので(笑)。

保育士の新しい働き方としての「こども未来プロデューサー」を軸にして、手法としての「asobi基地」「こどもみらい探求社」があります。繰り返しになりますが、究極の目的は「子どもたちにとって本当にいい社会をつくる」ということ。こう見えるまでに時間はたくさんかかりましたが、シンプルになり動きやすくなりました。1つのラインを走ればいいので、とてもスピードも上がりました。

だから多分、この先収入がついてきたり、新しい「asobi基地カフェ」ができたら、さらにテンションが高まっていくと思っています。今は人生の中で一番いい状態ですが、これからまだまだ上昇していけるなという感覚なので、この先どうなっていくのか、自分の未来がとても楽しみですね。

小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社「こどもみらい探求社」共同代表。

大学卒業後、数社を経て、2010年、子どもたちの素敵な未来を創るために、「オトナノセナカ」(2013年6月にNPO法人格を申請)の立ち上げに関わる。2011年、「まちの保育園」の保育士としてオープニングから勤務。2012年6月には、子ども視点で社会にイノベーションを起こそうと「Child Future Center」を立ち上げる。同年7月には新しい子育て支援の形として「asobi基地(2013年8月にNPO法人格を申請)」をスタート。2013年6月、「オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子どもたちにとって本当にいい未来を探求するために奮闘中。

初出日:2013.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの