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2013.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

独自の働き方

──働き方についておうかがいしたいのですが、小笠原さんはさまざまな活動をしていますよね。現在はどのような感じで日々働いているのですか?

現在の仕事のメインは保育士です。月~金曜日の7時半から16時半まで勤務しており、勤務後と土日に「asobi基地」や「こどもみらい探求社」の仕事をしています。ですから1週間、いわゆる休みはありません。


──すごくハードですね。ストレスはたまらないんですか?

楽ではないですが、全部必要なことだし、私自身やりたいことなのでストレスはなく、毎日楽しいですよ。いろんなことをやっていますが、軸は「子どもたちにとって本当によい社会をつくること」の1つなので。今の活動に取り組むことで自分の存在意義を感じられるし、それをしている自分が一番バランスが取れているので、心地よく、幸せだと感じています。だからこそ続けていられるんだと思います。私は極端な人間で、やってみてつまらないと思うと1分も続けられないんですよね。働き方と自分のやりたいことのバランスで本当にストレスフリーになったのはつい最近ですが。

保育士としては、現在働いている「まちの保育園」は2010年のオープニングからお世話になっていて、初年度に担当した子どもたちが1歳だったので、3歳になりました。まだハイハイをしていた子が立って歩くことや、喋ることができなかった子たちが言葉を獲得することなど、人間として大切な発達段階に関わることができたのはとても貴重な体験でした。日々、同じ子どもたちと触れ合い、毎日を積み重ねることの大事さや影響力を学んでいます。一方で、「asobi基地」では毎回違った子どもたちが参加してくれていますが、毎日一緒にいなくても友だちとすぐに仲良くなったり、物の貸し借りをしたりと、すぐに仲良くなる力を見ることができます。子どもの力を知るためにどちらの経験もなくてはならないものなんです。

覚悟を決めてやるしかない

──新しいチャレンジをどんどんしていますが、将来に対する不安はないのですか?

会社を軌道に乗せるまでには、まだまだ時間がかかると思います。不安は全くないというのは嘘になりますが、ただ、これまでなんとか行動を起こしていく中で、自分らしくいられる場所を見つけたし、自分らしくいられる生き方に近づいてきているし、そんな私を認めてくれる仲間もたくさんできました。支えてくれる人や声をかけてくれる仲間の中には、ときには叱ってくれる人もいます。現在の活動に取り組むようになって、そういった人の声にきちんと耳を傾けられるようにもなりました。

幸か不幸か、私は子どもたちのために新しいことにチャレンジするという選択肢しか選べない人間のようです。あとは覚悟を決めてやるしかないという感じです。

もっと自分らしい働き方を

──現在の多くの日本人の働き方に関しては思うところはありますか?

みんなもっと早く家に帰ればいいと思います(笑)。私も新卒で会社員として働いていたので、その時から思っていました。カナダに視察に行ったときに驚いたのは、毎日15時くらいにお父さんが保育園に迎えにきていたこと。その後はベビーシッターを活用して家で仕事をするというワークスタイルを知りました。同じ時間帯に街にお父さんと子どもの姿をよく見かけもしました。

カナダ・トロントでの視察のひとコマ。現地の行政・福祉関係者と子育て支援についてディスカッション

欧米の真似をするべきだと言うつもりは全くないですが、究極のところ、一人ひとりがもっと自分らしい働き方を追求していけば、自分らしい子育てもできると思うんです。男女ともに、キャリアを考えるときに、「子育て」についてイメージができるようになるといいなと思っています。実際に、「"働く"と"子育て"」についての講義を大学でさせていただいたりもしました。この日はたまたま全員女性だったので、学生たちは2つの両立について真剣に考えていましたよ。「そんなことを考えたことがなかったから、今考えられてよかった」「ちゃんと就職の後のことも考えようと思った」などの声をいただいたので講義してよかったと思いましたね。

私自身、就職活動をしていたときには、大企業か中小企業かのニ択という考え方しかもてませんでした。でも今思えば、それだけじゃないんですよね。きっとその人に一番合う働き方は結婚したり、子どもが生まれたりとライフステージによって変わるので、女性も男性も、その時々で働き方を含めたライフプランを常に更新する必要があります。その幅をもつことが大事なんだと思うんです。

そして、もう1つ大事なのはバランス。夫婦間のバランスや仕事と育児のバランスなどいろいろありますが、もう少しその選択肢のバリエーションを増やすべきなんじゃないでしょうか。一人ひとり価値観も異なるので、他人のケースを参考にしつつ、最後は自分の心地いいバランスを考えていく必要があると思います。

例えば結婚して妻は専業主婦になって育児と家事を担当し、夫が収入面を担当するという分業もひとつのパターンですが、子育てもチームワークで取り組むという考え方もあります。結婚後も共稼ぎにして収入の割合は夫対妻が6対4、家事は4対6というふうに話し合ってそれぞれの家族ごとにルールを作ればいいと思うんです。一番よくないのは固定観念にとらわれ過ぎること。当たり前の夫婦のカタチなんてひとつもないのですから。自分との対話、夫婦との対話が子育てにも大きく関わってくるのだなと、これまで多くのご夫婦のお話を聞いてきて、そう思うんです。こういうお話をリアルに聞けるので、私自身も勉強になっています。

小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社「こどもみらい探求社」共同代表。

大学卒業後、数社を経て、2010年、子どもたちの素敵な未来を創るために、「オトナノセナカ」(2013年6月にNPO法人格を申請)の立ち上げに関わる。2011年、「まちの保育園」の保育士としてオープニングから勤務。2012年6月には、子ども視点で社会にイノベーションを起こそうと「Child Future Center」を立ち上げる。同年7月には新しい子育て支援の形として「asobi基地(2013年8月にNPO法人格を申請)」をスタート。2013年6月、「オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子どもたちにとって本当にいい未来を探求するために奮闘中。

初出日:2013.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの