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2018.02.21  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

仕事とはやりたいこと

──仕事観についてお聞きしたいのですが、吉藤さんにとって仕事とはどういうものですか?

吉藤健太朗-近影4

やりたいことです。それだけですね。やりたくなかったら仕事しませんよ(笑)。だって人生ってやりたいことをしたいじゃないですか。だから仕事といっても趣味と同じ感覚です。やりたいこと、趣味をしてるといつのまにかそれが仕事になってる、という感覚ですね(笑)。


──それによって助かる人がいたら最高ですよね。

それが単純に私の生きがいですね。


──やりたいことがお金になるかどうかは関係ないのでしょうか。

関係ないですね。ただ、お金がある事で仲間も生活できていて、新たなチャレンジができるので決して無視はできません。先程お話した通り、私が作った会社なのに、会社は私の自由研究に対してお金をくれないんですよ(笑)。だから自分のポケットマネーを使うしかないんですよね。それで製品を作って発表してると講演に呼ばれるようになって、その講演料の半分を会社に入れて半分をポケットマネーにして、それを再投資して新しいものを作り、会社でビジネス化してるのが現状です。私の財布なのでだれも文句は言わないし、制約も受けないから私のペースで研究できる。収入も増えてるけど、どんどん自由研究に投資するという繰り返しなので、私の貯金は常にゼロ。でも、30歳で貯金なんかいらないと思ってるので問題はないんです

"孤独の解消"の先にあるもの

──孤独の解消がミッションということですが、その先に実現したいことはありますか?

これから最も重要となるテーマは、「人が死ぬまで、生き生きと人生を謳歌ができるかどうか」しかないと思っています。

現代日本では第一次産業、第二次産業がロボットによってどんどん効率化して生産性が上がり、安価でおいしい食べ物が世の中に溢れ、食べることには困らない社会が実現しています。さらに生活保護などの社会保障の充実で何もしなくても生きていけるという時代が到来しています。本当にすごい、ついに人類がここまで到達したかと感嘆せざるをえません。

また、医学によって寿命がすごく伸びています。これも素晴らしいことです。ただし、我々の体はいつかは動かなくなってしまう。いくら健康寿命を伸ばそうと食事に気を配ったり、しっかり運動しても限界はある。身体が動かくなってしまっても呼吸器をつけることで延命自体はできる。そうなった時、どうするか。認知症になるのを待つだけなのか。これはつらいですよね。

でもどうするべきか誰も答えを持っていない。つまり、身体を動かせなくなった後、どう生きるべきかという哲学や人生論が医学の進歩に追いついていないんですよ。

オリィの社員で、OriHimeを駆使して盛岡の自宅から業務をサポートする番田雄太さん

オリィの社員で、OriHimeを駆使して盛岡の自宅から業務をサポートする番田雄太さん

ただ確かなのは、働かなくても、寝たきりになっても生きていける時代になっても、何かの役に立ちたいと思ってる人も大勢いるということなんです。事実、入院しているALSの患者さんは何もせずに生きていくのはつらいから誰かに必要だと思われたい、働きたいと言うんですよ。

今、労働力の減少が深刻な社会問題だと叫ばれていますが、それは間違いで、働きたいと思ってる人はたくさんいるんですよね。ただそれが今の労働のシステムに合わないから働けていない、つまり労働力としてみなされてないだけなんですよ。なぜなら今は寝たきりの人は寝かせておいた方がいいという社会だから。特別支援学校の生徒や身体が動かない患者さんに与えられる仕事はほぼない。

この現状をなんとか変えたい。そういった人たちが社会に参加できるように、つまり寝たきりになっても死ぬ瞬間まで誰かに必要とされ続けられる人でありたいという望みを叶えたい。やっぱり人として生まれたからには惜しまれつつ死にたいではないですか。その実現が私の人生を賭して取り組みたいテーマなのです。

次のテーマは就労支援

2017年に開発スタートした新型OriHime。何年後かにはカフェでこのOriHimeが働く姿が見られるかも
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2017年に開発スタートした新型OriHime。何年後かにはカフェでこのOriHimeが働く姿が見られるかも
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2017年に開発スタートした新型OriHime。何年後かにはカフェでこのOriHimeが働く姿が見られるかも

そのための第一歩として、昨年(2017年)2月に大型で自由に動きまわれるOriHimeを実験的に作りました。これなら、例えば育児中のお母さんが家にいながらにして自分の会社のパンフレットやティッシュを配ったり、会社に来たお客さんをエントランスで迎えて訪れたい部屋まで案内したり、ほうきを持って掃除ができたりするかもしれない。この大型OriHimeはまだ実験段階ですが、製品として完成すると家にいながらにして肉体労働も可能となることで働ける人が増え、よりテレワークが広まるでしょう。

その先には、ALSなど重度難病の方々が介護士として自分で自分を介護できるかもしれないし、お客さんのオーダーを取って配膳するようなカフェも実現可能かもしれない。こういう物を作って初めて世間は寝たきりになっても働けるかもしれないと認識し始めるんですよね。

そのために、今年(2018年)1年はALSなどで身体を動かせなくなった人たちを社会参加させるというような、就労支援に力を入れたいと思っています。当社でもOriHimeで働く人を増やす予定です。

とにかく、彼らが自信を取り戻すためにも、働けるようにサポートしていきたいと思っているんです。今、OriHimeが使われているのは特別支援学校や病院、テレワーク領域なのですが、私の中では全部同じなんです。普通に会社に通勤して働けていた人が病気や事故や親の介護、出産・育児などで身体を会社に運ぶことができなくなったとしても仕事を辞めてしまうのではなくて、OriHimeを使うことによって、通勤していた時と同じように、自分の役割をもって、同僚と楽しく働ける。そのようなツールとして全部つながっているんです。

そして、最終的には病気で生まれてきた子も特別支援学校の子も、OriHimeによってプログラミングや接客や語学など自分の得意領域を探して伸ばしていくような勉強をしながら、しかもインターンシップにも参加できて、会社の中の様子を知ることができて、このOriHimeの形で就職していくということを目指しているんです。

自分で役割を作ることのできる人を育成したい

──他に今後の目標があれば教えてください。

吉藤健太朗-近影5

今までの人類社会では、「自由・便利=豊かさ」という方程式が成り立っていました。しかし近代化にともなっていろんな便利な製品が出てきて、今はある程度のところまで到達しているので、その方程式は成り立たなくなってきているんですね。

だから今、我々は特異点に立っていて、自分の豊かさとは何かを自分で考えなくてはいけない時代になりつつあります。これが極めて重要なポイントで、そのために必要なのが役割をもつこと。その役割は今までは他人や企業が与えてくれたけれど、どんどん簡単な仕事が人工知能に奪われていくとしたらそれも難しく、役割難民が出てくるかもしれません。みんな私の役割ってなんだろうと悩み始める。

だからこれからは、自分で役割を見つけたり、作ることが重要で、それができる人を育成したい。その先に、仲間を集めるなどして人に役割を与えられる人を増やすところまで目指したいと思っています。


吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)

吉藤健太朗(よしふじ・けんたろう)
1987年奈良県生まれ。ロボットコミュニケーター/株式会社オリィ研究所代表取締役所長

小学5年生から中学2年生までの3年半、学校に行けなくなり自宅に引きこもる。奈良県立王寺工業高等学校で電動車椅子の新機構の開発を行い、国内の科学技術フェアJSECに出場し、文部科学大臣賞を受賞。その後世界最大の科学大会Intel ISEFにてGrand Award 3rdを受賞。高校卒業後、詫間電波工業高等専門学校に編入し人工知能の研究を行うも10ヵ月で中退。その後、早稲田大学創造理工学部に入学。2009年から孤独の解消を目的とした分身ロボットの研究開発に専念。2011年、分身ロボットOriHime完成。2012年、株式会社オリィ研究所を設立。青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表、ほかAERA「日本を突破する100人」、米国フォーブス誌「30Under 30 2016 ASIA」などに選ばれ、各界から注目を集めている。2018年、デジタルハリウッド大学大学院の特任教授に就任。本業以外でも19歳のとき奈良文化折紙会を設立。折り紙を通じて地域のつながりを生み出し、奈良から折り紙文化を発信。著作『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)にはその半生やOriHime制作秘話、孤独の解消に懸ける思いなどが詳しく書かれてある。

初出日:2018.02.21 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの