WAVE+

2017.08.29  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

乗船予定が急になくなることも

──シフト制ってことは船に乗る予定はけっこう前からあらかじめ決められているんですか?

東京湾水先人会の事務所で先輩水先人と楽しげに話す西川さん。和気あいあいとした雰囲気

東京湾水先人会の事務所で先輩水先人と楽しげに話す西川さん。和気あいあいとした雰囲気

大まかには決まっているのですが、最終的には前日の夕方17時に船舶会社からの水先業務のオーダーに対して水先人を割り振るオペレーション部から、翌日に乗る船、乗り込む場所、スケジュールなどの連絡が来ます。

でも予定されていた水先業務がなくなることもあるんです。例えば海が時化て船が東京湾に入ってこられないとか、海難事故が発生した時など。先日アメリカ海軍のイージス艦と衝突したコンテナ船は、パイロットが乗る3時間くらい前に事故を起こしているので、急にキャンセルになりました。また、原料を運ぶ船は雨が降ると荷役ができなくなるので直前で予定が変わったりします。小麦や綿花は雨に濡れるとダメになるので荷役を止めちゃうんです。理由はいろいろですが、スケジュール通りにきっちり行くことはあまりないし、乗船予定がなくなることもしょっちゅうあるんです。

逆に、以前、入港してくる船が多かった時は1隻終わった後、2隻目の予定が急に変わったので15分後に乗ってくださいと言われることもよくありました。特に行ったことのないバースに着ける場合はそれなりの準備が必要なので、その時間がない時はベテランの水先人を捕まえて教えてもらったりしてました。いきなり言われてもやるしかないので、今は難しいバースはいつ当たってもいいようにあらかじめ資料をストックするなど準備をしてます。こんな感じで勤務時間は日によって全然違うし、突然変わったりするので、勤務の日は予定を入れられないんですよ。

シフト制なので休みは決まっててほぼその通りに休めるんですが、ごくまれに休みの日に水先人が足りないから出勤してくださいと言われることもあります。すべては船が何隻入ってくるかで決まるので。

水先人は個人事業主

──現在の働き方は気に入っていますか?

西川明那-近影3

性に合ってると思います。確かに生活は不規則になりがちですが、それが大変だとも感じません。むしろ多くの人が働いていない時に働いたら、多くの人が働いている時に休めるのでいいですね。旅行も空いてる時に行けますし。ただ、一般的な企業で働いている友だちと休みを合わせるのが大変です。デメリットとしてはそのくらいですかね。


──長期休みも取りやすいのですか?

取りやすいと思いますよ。ただ、私たちは会社員じゃなくて個人事業主なのでいわゆる有給休暇というものがありません。収入はパイロット業務を行う船の数で決まるので休んだらそれだけ収入が減るのであまり休みたくないんですよね。先程お話したように、急に乗船予定がなくなったらその分収入が減るから痛いんです。だから月によって収入は全然違います。報酬は乗る船によっても違っていて、大きい船の方が多くいただけるんです。


──学校を卒業して企業・団体に属さず、いきなり個人事業主として働くことに関して不安はなかったのでしょうか。

全然なかったですね。親が個人事業主だったので、サラリーマンの方が想像がつかなかったです(笑)。

好きなことを仕事にできて幸せ

西川明那-近影4

──西川さんにとって仕事とはどういうものでしょうか。

働かないと生きていけません。だとしたら、少しでも興味のあること、好きなことで生きていきたいと思い、水先人という仕事を選びました。

また、日本は資源を船で大量に輸入して製品を作る国なので、水先人がいないと日本の経済は成り立ちません。水先業務はなくてはならない公共サービスに近い仕事なので、それに携わることができるのはうれしいですよね。

今は自分がやりたいことを仕事にして、楽しく働いて、世の中の役に立ち、人から感謝してもらっているのでとても幸せだなと感じています。だからいろいろ大変なことも多いですが、水先人の道を選んでよかったと思っています。たまたま入った大学がよかったんでしょうね。ちょうどうまくハマった感じです(笑)。

目指すは東京湾のスペシャリスト

──今後の目標を教えてください。

2015年に試験に合格して二級水先人に昇格したのですが、その先、一級の資格を取ることですね。一級にならないと何のために水先人の免許を取ったのかわからないので。

西川明那-近影5

──どういうことですか?

東京湾の水先人って東京湾のことなら何でも知ってて何でもできるスペシャリストなんですが、一級にならないとそうとは言えないので、まずは一級を目指しているんです。


──そのために今から勉強しているのですか?

ただ、二級から一級に上がるための期間や試験内容などはまだ国交省が決めていないので、勉強というよりも、今は毎日の水先人としての仕事をきちっとこなして、経験を積むことに注力しています。そしていずれは東京湾のスペシャリストになりたいと思っています。


西川明那(にしかわ あきな)

西川明那(にしかわ あきな)
1985年京都府生まれ。水先人(東京湾水先区水先人会所属)

高校卒業後、東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科に入学。当初は航海士を目指していたが、大学3年生の時に水先人養成コースが創設されるのを知り、水先人を目指して養成コースに入学。2年半の課程を修了し、2011年、国家試験に合格。東京湾水先区水先人会の3級水先人となる。2015年、2級水先人の試験に合格。現在は1級水先人を目指して奮闘中。

初出日:2017.08.29 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの