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2016.03.10  取材・文/山下久猛 撮影/早坂正信(スタジオ・フォトワゴン) イラスト/フクダカヨ

美馬森Japanとの関わり

アグリードなるせ(安部俊郎社長・佐々木和彦常務)-美馬森Japan(八丸健・由紀子)-イラスト
東松島市野蒜地区にある「美馬森(みまもり)ヴィレッジ」にて

東松島市野蒜地区にある「美馬森(みまもり)ヴィレッジ」にて

 元々我々は岩手県の盛岡で馬の牧場を経営していたのですが、「馬は人を集める」という馬特有の魅力を活かして、温かい社会の実現を目指して、馬搬(ホースロギング)による森林整備事業や子ども活性事業、ホースセラピー事業などさまざまな活動を行ってきました。震災が起こったときは馬を使って何か支援をしたいと、「馬」と「森」をキーワードに、「馬(ま)っすぐに 岩馬手(がんばって) 必ず 馬(うま)くいくから」という団体を設立。癒しの場と体験学習の機会を提供し、岩手県・宮城県の沿岸被災地の子供たちに笑顔と喜びを届けることを目的とする活動を行ってきました。

八丸由紀子-近影1

由紀子 私たちは元々C.W.ニコルさんと繋がりがあり、ニコルさんが東松島市で森の学校を作る支援活動を行っていたので、それをきっかけとして東松島市との関係ができました。震災後、東松島市は「環境未来都市構想」を掲げ、甚大な被害を受けた野蒜・東名地区の森を整地して住宅地を作り、野蒜・東名の人々を高台移転させる計画を立てました。その東松島市の新たな"町づくり"の構想に共感し、高台移転計画のある野蒜地区の森の中に、多くの人が馬や森に癒される馬の牧場「美馬森(みまもり)ヴィレッジ」を作りたいと東松島市へ提案したところ、東松島市復興事業提案制度に採択されたので、高台移転用地の北部に位置する市有林をお借りして活動を始めました。

 これまで地域の子どもたちを対象に馬を使った環境・情操教育プログラムや、我々と同じく震災復興をきっかけに東松島市を応援している医療機関と連携し、地域住民を対象に行う「セルフケアプログラム」などを実施してきました。

クリスマス馬車。沿道にはたくさんの人々が集まった

クリスマス馬車。沿道にはたくさんの人々が集まった

由紀子 クリスマスの日に馬車でこの地区の沿道を走って、C.W.ニコルさんにサンタさんになってもらって子どもたちにプレゼントを渡すという企画をやったり。そういうご縁でアグリードさんとも知り合って地元の復興のために取り組んでいる活動に私たちも参加させていただくことになったんですよね。

八丸健-近影1

 初めてお会いしたツリーハウスの地鎮祭のときは、盛岡の牧場から連れてきた馬のダイちゃんの世話で手一杯で安部社長や佐々木常務に挨拶する暇がなかったんですよね。あの後、東松島市にも牧場を作りたいと東松島市役所に相談したとき、この地区の認定農家の代表のアグリードなるせさんをご紹介いただいて訪問したんです。

由紀子 佐々木常務にこれから東松島市で支援活動をさせていただきたいと話したら、課題はいろいろあるけど何とか一緒にやっていこうとすぐおっしゃってくださって。そこからアグリードさんとのコラボが始まったんですよね。2013年の夏頃だったと思います。

福幸祭でコラボ

佐々木 「福幸祭(ふっこうさい)」でも協力していただいてね。

安部 福幸祭は東日本大震災の翌年から、この野蒜地域の豊作と震災からの復興を願うことを目的に開催してるイベントです。地元の人たちがたくさん集まる地元のためのお祭りだから、八丸さんたちにも地元との繋がりを作ってもらうためにぜひ参加していただきたいと思って何かできないかなと話したら、馬を使って子どもたちが喜ぶ企画をいろいろとご提案していただいてね。

由紀子 私たちは震災前から、イベントやお祭り以外にも、馬たちが働いていたり、子どもたちやお年寄りが馬と戯れているという風景が日常的に見られる町づくりを目指しているのですが、その私たちの思いと東松島市やアグリードさんたちの思いが近いなとすごく感じました。東松島市の復興のため、我々にも出番をいただいたということですね。そういう活動を通じてアグリードさんや東松島市との関係が少しずつ深くなっていったんですよね。

八丸夫妻による馬耕のデモンストレーション


インタビュー後編はこちら

安部俊郎(あべ としろう)

安部俊郎(あべ としろう)
1957年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ代表取締役社長/のびる多面的機能自治会副会長

宮城県立農業講習所卒業後、いしのまき農協(旧野蒜農協)営農指導員として入組。1992年退職し、地域農業発展を目指し、施設園芸を中心とした専業農家となる。2006年、農地を守り、地域と共に発展する経営体を目指して「有限会社アグリードなるせ」を設立。代表取締役社長に就任。東日本大震災時には自社も壊滅的な被害を受けるも、消防団の副分団長として現場で避難指示、人命救助、行方不明者の捜索、避難所への誘導などの指揮を執る。震災の翌月から津波を被った田んぼの復旧を開始。除塩に成功し、その年の秋には米の収穫も果たすという驚異的な復旧を成し遂げる。現在、東松島市野蒜地区で、土地利用型部門に園芸部門、さらに6次産業化施設を加え、次世代の人材育成や雇用促進など地域農村コミュニティの発展に尽力している。

佐々木和彦(ささき かづひこ)

佐々木和彦(ささき かづひこ)
1959年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ常務取締役/のびる多面的機能自治会執行役員

宮城県立農業講習所卒業後、鳴瀬町役場(2005年から市町村合併により東松島市役所に)に勤務。田畑の塩害対策などに従事。2010年有限会社アグリードなるせ入社。東日本大震災時には安部社長とともに人命救助、行方不明者の捜索、田畑の復旧作業などに従事。現在も安部社長のパートナーとして地域振興に尽力している。


八丸健(はちまる けん)

八丸健(はちまる けん)
1970年鹿児島県生まれ。一般社団法人美馬森Japan監事/80エンタープライズ,Inc.代表取締役社長

地元鹿児島の高校を卒業後、東北大学に進学。入部した乗馬部で馬の魅力にはまり、将来は馬を扱う仕事をしたいとオーストラリア人のホースマンに弟子入り。大学を中退して一関市で競走馬の調教を学ぶ。師匠の乗馬クラブ立ち上げにともない、八幡平市へ移住。

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)
青森県出身。一般社団法人美馬森Japan代表理事/80エンタープライズ,Inc.専務取締役

東京での会社勤務を経て、岩手県内のリゾート総合会社へ転勤。交換研修生としてカナダ・ウィスラーのホテルに4ヶ月出向するも、帰国後1年で勤務先の乗馬クラブが突然廃止となる。その後、大手観光農場を経て、乗用馬トレーニングセンターに勤務。

2000年、同じ勤務先で出会った2人は結婚。2003年、馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指し、80エンタープライズ,Inc.を設立。2004年、八丸牧場を自分たちの手でいちから開墾、オープンにこぎつけた。2011年、東日本大震災発生の翌月、任意団体「馬(ま)っすぐに 岩馬手(がんばって) 必ず 馬(うま)くいくから」を設立。震災直後から、さまざまな子ども支援活動を継続的に行うとともに、馬たちの力を借りて観光体験、地域活性、子どものライフスキル向上などに取り組む。2013年、当団体を法人化し、一般社団法人「美馬森Japan」設立。震災で甚大な被害を受けた東松島市の新たな町づくりの構想に共感し、アグリゲートなるせとともに野蒜地区でのさまざまな復興支援活動に取り組んでいる。

初出日:2016.03.10 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの