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2016.01.12  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

インディアンに会いにアメリカへ

──事務所をたたんだ後はどうしたのですか?

川崎直美-近影10

ネイティブ・アメリカン、いわゆるインディアンに会いたくてアメリカに行ったの。


──なぜですか?

イルカ・クジラ会議の実行委員長をやってるときにインディアンにハマっているメンバーの男の子と知り合ったのね。彼のインディアンに関するいろんな話を聞いていると、そういえばインディアン好きだったなあって思い出したの。よく西部劇の映画を観てたんだけど、カウボーイよりもインディアンの方が好きだった。あの派手な衣装に惹かれたの。それで実物のインディアンに会いたいと思ったのが最初のきっかけかな。

あともう1つは、日本でインディアンの支援活動をやってる人たちと繋がって、いろいろ情報をもらってたのね。ある日、その活動をしてる人から電話がかかってきて、こんな話を始めたの。アメリカ中西部のインディアンの聖地でイギリスのエネルギー会社が石炭を掘るために、インディアンたちが強制的に移住させられている。そのイギリスの会社の石炭を日本の商社が輸入しているから、その商社の本社前に一緒に行って反対のデモをしようと。

その話を聞いた時、どこまで本当なのかなと疑問に思ったから彼に「その情報って正確なの?」と聞いたら、あやふやだった。署名レベルならまだしもいち企業に対して体を使って反対するなら明確な根拠がないとできないと思ったからデモには参加しなかったの。だったら実際に現地に行って、本当にインディアンの人たちがイギリスの企業によって強制移住させられているのか、自分の目で確認したいと。そういうのもあって1994年の7月、アメリカに渡ったの。


──それからどういうルートで回ったんですか?

まず、インディアンの解放運動をしているデニス・バンクスという活動家のイベントに参加しようと思ってワシントンDCに行ったのね。そこからアルバニー、ニューヨークを経由して飛行機でサウスダコタ州の首都のラピッドシティまで行って、そこが旅の出発地だったからそこでまず車を買ったの。1976年製のボロボロの中古車でね。400ドルだった。

当時、運転免許も失効して6、7年経ってたから、現地の運転免許試験場で免許を取ったのね。ちなみにサウスダコタ州ってすごい田舎で車がないと生活できないから14歳から免許が取れるの。だから筆記も実技も超簡単で30~40分くらいで免許がもらえたの。しかも費用はたったの8ドルだった(笑)。サウスダコタ州から車に乗って、ネブラスカ、ワイオミング、コロラド、ユタ、ニューメキシコ、アリゾナと7つの州を2ヶ月半掛けて1万6000km旅して、スー族やナバホ族などインディアンの居留地を転々と訪ねました。

インディアン居留地にて(撮影:川崎さん)

インディアン居留地にて(撮影:川崎さん)

現場で確認することが大事

──イギリス企業にインディアンが迫害されているという話の真偽は確かめることができたのですか?

現地にもインディアンの支援活動をしている人のつてはあったんだけど、彼らを頼ったら偏った情報しか得られないと思って、あえて誰にも連絡しないでいきなり行きました。そこでたまたま出会った現地の人にいろいろ聞いてみたら、「確かに強制移住の部分もあるけど非常に少数の人間で、この村の人間は大勢、自分含め兄弟も親戚もその企業で働いている。もしこの企業がなかったらみんな食べていけない」という話だったの。それを聞いてやっぱり片方の情報だけですべてを判断してはダメだし、実際に現場へ行って自分の目と耳で確かめないといけないと思ったのね。それにこれって正に沖縄問題と同じじゃん、基地はいらないけど、基地がないと雇用もない。

でもごく少数とはいえ虐げられている現地の人がいるのは事実だし、彼らを支援することに自分が本気で関わるなら何千キロも離れた日本で何かやっても意味ないからここに住んで彼らと生活を共にしないとダメ。でもそれは私にとって現実的じゃないし、日本国内にもいろんな深刻な社会問題があるのに他国の問題に首を突っ込んでいる場合じゃないと思ったのね。


──宿泊や食事とかはどうしてたんですか?

川崎直美-近影11

基本キャンプよ。ラピッドシティでテントと寝袋、調理器具などキャンプ用具を一式買ったの。キャンプ場に着いたらテントを張ってごはん作って寝袋で寝て。何日もキャンプしてると疲れちゃうから週に1回くらいは安いモーテルに泊まったりしてた。あとは現地で知り合ったインディアンの家に泊めてもらったり、いろんな人にお世話になりました。


──旅行中、危ない目には遭わなかったのですか?

特には遭いませんでした。会う人みんなすごく親切だった。トラブルといえば最初に買ったオンボロ車が2日で壊れて買い替えたのと、2回荒野でガス欠になったことかな。そのときは私1人じゃなかったからなんとかなったけどあのときは焦ったわ(笑)。


──現地のインディアンの人たちとはけっこう交流したんですか?

各地で行われるパオワオっていう現地の人たちのお祭りではたくさんの人が集まるからいろんな人と交流したよ。

現地の人たちのお祭りにて(撮影:川崎さん)

その後の人生が変わった

──一番印象に残っていることは?

日本では「アメリカ・インディアンの教え」みたいなスピリチュアルな本が出回ってるじゃない? だから現地に行くまで彼らはスピリチュアルな暮らしをしていると思い込んでいたんだけど、みんな一般的なアメリカ人と同じだったの。それが一番印象的だったわ。というかショックだった(笑)。


──では、夜、満天の星空の下、焚き火のそばで村の長老のインディアンから昔から伝わるインディアンの教えみたいな話をしてもらって感動した、というようなことはなかったんですか?

ないない(笑)。もちろんそういう経験をした人もいると思うけど、私はあまりそういうのを求めていなかったのかなぁ。スエットロッジや人里離れた荒野の真ん中での儀式に招かれたこともあって、確かに満天の星空の下で、焚き火をたいてシャーマンといわれる長老がいて、儀式を執り行っていたりしたけど、いまいち何を言ってるかよくわかんなかった(笑)。それは私が英語が分からないからとかではなく、年寄りだから何を言っているのかよく分からなかったんだよね(笑)。その上儀式の時はインディアンの言葉だったと思う。彼らとはスピリチュアルなことというよりは日々の暮らしやお祭りのことなど、普通の世間話をしました。相手がシャーマンだからとかではなく、ただ地元の人と訪問者として接したという感じ。でもアメリカに行ったことがその後の私の人生を大きく変えるような体験になったのは確かです。


──それは具体的にはどのような体験ですか?

アメリカ中西部の雄大な風景(撮影:川崎さん)

アメリカ中西部の雄大な風景(撮影:川崎さん)

日本では絶対に見ることのできない、現地の雄大な風景に感動したこと。とにかくアメリカの中西部はものすごく広大で地平線の果てまで平らな荒野が広がっててね、地平線から日が昇るのが見えて地平線に日が落ちるのが見えるの。色も赤茶けた土の色と青い空の色の2色しかなくて、時々遠くに竜巻が見えたり。朝焼け、夕焼けもものすごくきれいで、刻一刻と変わる空の色は言葉では言い表せないくらいきれいだった。その大地の美しさ。雄大さ。それに魂を揺さぶられたの。滞在中は1000枚くらい写真を撮りました。そういう景色を見て、この美しい地球を守りたい、そのために環境保全に繋がる活動をしなきゃいけないと強く思ったの。

じゃあ私にできることってなんだろうといろいろ考えたんだけど、まずはみんなが生活する上でなるべく環境に与えるダメージを少なくするものを使うべきだと。でも当時はまだエコロジカルな生活用品ってそんなに出回っていなかったし、いろんな店を回らないとそろえられなかったの。それじゃあいくらエコロジカルな生活を実践しようという気持ちがあってもなかなか難しいから、ここに来れば生活に必要なエコ製品は全部手に入れられるというお店をやりたいと思ったの。


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川崎直美(かわさき なおみ)

川崎直美(かわさき なおみ)
1951年神戸市生まれ。レパスマニス店主/地域活動家

神戸に暮らしていた10代は、ヒッピー文化の影響を受け自由な生き方にあこがれる。16歳で高校中退後、アルバイト生活。大阪万博のアルバイトで知り合ったスウェーデン人の女性に触発されて20歳のとき世界一周の旅へ。途中で立ち寄ったバリにハマり、バリを拠点に生活スタート。23歳のときタイで出会ったアメリカ人男性と恋に落ち、24歳で娘を出産。生活拠点をハワイに移し、バリとハワイを行き来する暮らし。28歳のときパートナーと離別、日本に帰国。様々なアルバイトを経験後、東京で外国人タレントのマネジメント事務所で働くようになる。計2社で約4年勤務した後に自ら外国人タレントのマネジメント事務所を起業。バブル景気に乗り、大成功を収めるも、12年経営した後に廃業。1994年単身、アメリカに渡り古い中古車を購入し、中西部のネイティブアメリカンの土地をめぐる。半年間で1万6000キロを走破。帰国後は逗子に移住。渋谷に自然生活雑貨店「キラ・テラ」を開店。2年後、大手自然食材企業に吸収、社員となり、横浜の店で勤務。12年勤めた後、退社。地域活動にのめり込む。2011年に葉山に移住、自然生活雑貨店「レパスマニス」開店。現在はレパスマニス店主を務めるかたわら、葉山町をみんなが暮らしやすくする町にするために様々な活動に尽力中。

初出日:2016.01.12 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの