WAVE+

2015.03.09  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

原発避難白書の作成

──現在、河﨑さんはSAFLANの共同代表として具体的にどのような活動をしているのですか?

SAFLANでは、2週間に1回くらいのペースで主要メンバーが集まって、運営会議を行っていて、その場での情報交換や議論がSAFLANの活動の一番の基本となっています。また、年に数回の総会や合宿は、より広い範囲でメンバーが参加して情報交換する貴重な機会となっています。原発被災地での無料法律相談会も継続して行ってきていますが、事故発生当初に比べると回数は減ってきましたね。一方で、さまざまな環境団体や市民団体、当事者団体などとの情報交換の場への参加は増えてきたという印象です。

共同代表といっても何か特別なことをしているわけではありませんが、個性の強い法律家が集まって活動しているので、みなが自由に持ち味を発揮できるように、調整役の役回りを意識しています。

現在も被災地での無料法律相談会を実施し、悩める人びとの話に耳を傾けている

この数年力を入れてきた活動としては大きく2つあります。1つは「原発避難白書」の編集作業です。原発事故から丸4年経っていろんなことがわかってきました。その中で大きな問題点は、原発事故にともなう避難の全体像を数字を含めて正確に把握している人が誰もいないということなんですよ。国すらも正確に把握していません。もちろん国は避難者人数を発表していますが、それは各都道府県から上がってきた数字を合計したものです。各都道府県は各市区町村から、その大元の各市区町村も避難者数をきっちりと調べて報告しているわけじゃないんです。

問題を解決するためにはまずその問題の実像を正しく認識しなければなりませんが、その大元のデータがあやふやでそれを集めて統計処理したって出てくる結果は当然あやふやなまま。それを使っても適正な対応策は打てませんよね。

だから僕らは国に原発避難者に総合的に対応する部署を作ってちゃんと調査をして正確な数字を出してくださいと何度も繰り返しお願いしているんですが、なかなかそうしてくれません。ならば、先に僕ら民間でやろうということで、SAFLANと関西学院大学の災害復興制度研究所、それに日本最大の震災支援のボランティアの連合団体である東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)の三者が共同して、原発避難白書の編集委員会を組織し、現在編集作業を進めています。今年(2015年)の6月21日、支援法ができて3年の節目を出版目標にしています。

これだけの大きな事故があってこれだけ多くの避難者が発生しているのにも関わらず、国は被害者の意見を聞いて政策を練るということをしないんですね。それがそもそもの間違いなんです。当事者抜きに問題解決ができるわけがない。逆にいえば、問題解決をする気がないから、当事者を政策形成にかかわらせないんだと思います。私たちは一貫して政策形成の過程に、被害当事者を参加させてほしいと要求しています。

福島県外の被災者の支援

──もう1つの活動は?

原発事故によって広範囲に拡散した放射性物質によって汚染されたのは福島県だけじゃないんですね。福島県の北にも南にも汚染されている地域がある。例えば宮城県の南端、飯舘村の隣にある丸森町は福島市よりもさらに放射線量が高いのですが、宮城県というだけで全く賠償の対象になってきませんでした。これはおかしいですよね。だから丸森町も損害賠償の対象にすべきというADR(代替的紛争解決手続)を一昨年(2013年)裁判所に申し立てました。こうしたADR申し立てには、SAFLANのメンバーである弁護士が、弁護団を組む形で取り組んでいます。このときは丸森町在住者の9割以上にあたる700人近くが参加して行政ぐるみで損害賠償請求を行い、去年全面的に勝ちが確定しました。福島県外でも原発事故の被災地と被災者がいるということを認めさせたわけです。

現在、同じような申し立てを栃木県の北部で行うことを考えており、その準備作業に入っています。こちらもすでに申し込みが2000世帯を越えています。このように福島県外の原発被災者支援も行っており、その範囲を広げるための活動もしているんです。

だからSAFLANは「"福島の"子どもたちを守る法律家ネットワーク」というよりも「"福島原発事故によって被害を受けた"子どもたちを守る法律家ネットワーク」という方が正確な名称という感じになっています。必ずしも福島県内の問題に限って扱っているわけではないのです。


──SAFLANとしてどのような思いで活動に取り組んでいるのですか?

僕らはこれまで原発事故の避難者にできる範囲で寄り添っていこうという思いで活動してきました。SAFLANが扱っている原発事故による「自主」避難の問題はこれまで日本に存在しなかった新しい問題です。極めて広範囲にわたって、目に見えない汚染物質が拡散し、被害は確率的なものである、という状況の中で、それを市民社会が自分の問題として受け止めてルールづくりをすることはこれまでなかったので、その1つのトライアルケースという位置づけができると思います。

現在の政治情勢では原発は再稼働する可能性が極めて高いですよね。そうすると国内で今後また原発事故が起こる可能性もあるということになります。また、国内だけではなく中国や韓国でも原発事故が起こる可能性もある。そうした近い外国での原発事故も、風向きなどを考えると決して他人事ではないですよね。私自身は、長期的なスパンで見たときには、かなりの確率で何らかの原発事故は起きるだろう、と考えています。

その懸念が現実のものとなり、日本が再び放射能に汚染されたとき、僕らが今取り組んでいるプラクティスは1つの先行事例になると思うんです。放射能という何だかよくわからない脅威に対して社会がどう対応するのかという議論そのものですから。そういう意味では過去に対するものとしてというよりも将来に対するものとしてしっかり形に残していかなきゃいけないなという意識もあって、原発避難白書などの作業に取り組んでいるという面もあります。

今後の目標というか課題という意味では、活動が長期化してきているので次の世代をどう育てるのかといった、継続して活動を続けていく上での組織づくりですね。


──SAFLANの仕事は河﨑さんの全体の仕事の中でどのくらいの割合を占めているのですか?

だいたい2~3割といったところでしょうか。残りが本業の弁護士としての仕事ですね。


インタビュー後編はこちら

河﨑健一郎(かわさき けんいちろう)
1976年埼玉県生まれ。弁護士/早稲田リーガルコモンズ法律事務所共同代表/福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)共同代表

早稲田大学法学部卒業後、1999年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)入社。経営コンサルタントとして人事や組織の制度設計などに従事した後、2004年に退社し、早稲田大学法科大学院(ロースクール)に入学。2007年、同大学院修了、同年司法試験合格、新61期司法修習生に。2008年、弁護士登録(61期)東京駿河台法律事務所に勤務。議員秘書も経験。2011年3月11日の東日本大震災発生直後から現地にボランティアに赴く。7月には「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」を共同で設立し、原発事故に伴う避難者の方々への支援活動に取り組んでいる。2013年3月 早稲田リーガルコモンズ法律事務所を設立。経営の仕事のほか、弁護士としても活動中。得意分野は中小事業者の経営相談全般、および相続や離婚、子どもの問題などの家事事件全般。特定非営利活動法人山友会の理事を務めるなど、生活困窮者支援にも積極的に取り組んでいる。日弁連災害対策本部原子力プロジェクトチーム委員、早稲田大学法科大学院アカデミックアドバイザーなど活動は多岐にわたる。『高校生からわかる 政治の仕組みと議員の仕事』『避難する権利、それぞれの選択』『3・11大震災 暮らしの再生と法律家の仕事』など著書多数

初出日:2015.03.09 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの