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2014.11.04  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ものづくりにおいて大事にしている点

──クリエイティブ・ディレクターとして大事にしている点は?

aeruの世界観を創造し続けること、ものづくりにおいて妥協しないことです。コストや手間暇がかかるからという、いわゆる"大人の事情"によって妥協した瞬間、aeruではなくなってしまうのです。

例えば、『東京都から 江戸更紗の おでかけ前掛け』の素材は表地と裏地、それぞれ異なる2種類のオーガニックコットンを使用しています。まず機能性の面では、表地はヨダレをよく吸収する生地を使用しており、裏地は大切な洋服に染みにくい、ヨダレをしっかりと受け止める生地を使用しています。そして厚すぎず、薄すぎずほどよい厚さに仕上げました。

デザイン面では、昔ながらの伊勢型紙という型紙を5枚用いて、版画のような感覚で、一枚ずつ丁寧に刷毛で江戸更紗の職人が円の模様を染め上げました。染める際の、原料もこだわりました。前掛けですので、繰り返しの洗濯にも耐えることができて、日光による退色にも強くなければならない。そんな願いを叶えてくれる自然素材をずっと探し続け、ようやくこの条件をクリアする素材が見つかりました。それが、ベンガラという顔料だったのです。

また、前掛けをとめるボタンは、長崎県の波佐見焼の職人さんに作っていただきました。ボタンには、七宝柄の彫込が施されています。"円"がつながってできた七宝柄の紋様は、ご"縁"がつながるといわれており、お子さんが一張羅の洋服に一張羅の前掛けをつけて出かけたときに、素敵な御縁に巡り会えますようにという想いを込めました。ポイントは機能性とデザイン性のバランス。まず機能性をクリアしてそこからどういう意匠性に仕上げていくかというバランスを重視しています。

すべてに意味がある

──すべてに意味があるんですね。

まさにそうなのですよ。なぜこの素材にしたか、なぜこの模様にしたか、なぜこの技術を活かしたか、というさまざまな問いにお答えすることができます。商品の物語を考え抜いて作っているので一貫しているのです。

でも世の中には本当はこうしたいけど、コストや手間暇などのいわゆる"大人の事情"であきらめる、妥協するというケースが多いような気がします。だから和えるでは、商品を作るときに大人の事情で妥協をしない物づくりを心がけています。それは、「"本"当に子どもたちに贈りたい日本の"物"=ホンモノを作る」という信念を持っているからこそ、できるのではないかと思います。

価格は最後に決まる

──でも普通は商品を作るとき、企画段階でおおよその価格は決めますよね?

最初には決めません。価格は最後までわからないんです。商品開発の過程で素材費などがいろいろ積み上がりすぎていくらなんでもこれは現実的ではないよねという価格になったら、生産そのものをやめます。中途半端にどこかを妥協して作るくらいだったら最初から作らないんです。

そのため実はaeruには商品アイディアはたくさんあって、何かしらの事情でお蔵入りになって世に出ていない子(商品)たちがたくさんいるんですよね。先ほどお話した前掛けもベンガラという顔料が見つかったから世に送り出すことができたのです。理想の商品を形作るすべてのピースがそろうまでは出さないという考え方なのです。

矢島里佳(やじま りか)
1988年東京都生まれ。株式会社和える(aeru)代表取締役。

職人の技術と伝統の魅力に惹かれ、19歳の頃から日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。「21世紀の子どもたちに、日本の伝統をつなげたい」という想いから、大学4年時である2011年3月株式会社和えるを設立、慶應義塾大学法学部政治学部卒業。幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、子どもたちのための日用品を、日本全国の職人と共につくる“0から6歳の伝統ブランドaeru”を立ち上げる。また、全国の職人とのつながりを活かしたオリジナル商品・イベントの企画、講演会やセミナー講師、雑誌・書籍の執筆など幅広く活躍している。『青森県から 津軽塗りの こぼしにくいコップ』『福岡県から 小石原焼の こぼしにくいコップ』が2014年度グッドデザイン賞を受賞。 2013年3月、慶應義塾大学院 政策・メディア研究科修士課程卒業。2013年末、世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・シェイパーズに選出される。2014年7月、書籍『和える-aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』を出版。

初出日:2014.11.04 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの