瞬間・熟成・歴史
——I IN照井洋平が描く「時間の気配」を感じる空間
- 2026年9月1日
当イベントにご来場いただき、誠にありがとうございました。
オカムラの素材ライブラリー「MATERIUM(マテリウム)」にて、第3回のイベントを2026年9月1日に開催しました。
本イベントでは、「時間の気配」をテーマにトークプログラムを実施。デザインオフィスI IN(アイ イン)共同代表でインテリアデザイナーの照井洋平さんが登壇しました。
時間に対する捉え方、空間に「時間の気配」を落とし込んだプロジェクトの事例を通して、空間デザインの可能性について深掘りします。
デザインの質を高める「時間」の捉え方
私たちは普段、日常の中で何気なく時間を過ごしています。設計・インテリアの現場においても、意識される「時間」は納期や進行状況といったスケジュールの枠組みにとどまりがちです。
目に見えない「時間」は、どのようにクリエイティビティや空間表現に作用するのでしょうか。この問いを探求するべく、オカムラと縁が深く、今を輝くデザイナーのひとりである照井さんに登壇のオファーをしました。
感情のない「クロノス」と、熱量が支配する「カイロス」
魅力的な空間を生み出し続ける照井さんは、「時間」をどう捉えているのでしょうか。照井さんはギリシャ神話に登場する2人の時間の神様「クロノス」と「カイロス」を例に挙げます。
クロノスは、機械的・客観的・一定に流れていく感情のない時間で、時計の語源でもあります。対して、カイロスは人の感情や思いが深く関係する主観的な時間で、同じ1分1秒であっても、没頭や感動によって感じ方がまったく変わる「熱量を持った時間」を指します。
時間の流れを可視化し、ルーティンで「カイロス」を生み出す
日常の中でカイロスの時間(熱量を持った時間)を生み出す鍵は、1日の中で最も集中できる時間をルーティンとして固定することにあります。

照井さん
I IN共同代表
アスリートのようにリズムを整え、クリエイションの土台をつくる
僕の場合、思考が最もクリアになる時間は朝の8:30〜11:00です。だからこそ、デザインの核を考える時間は必ずこの時間に固定させています。
アスリートが毎日決まった時間に練習して身体にリズムを染み込ませるように、自分にとって最も価値の高い集中時間を死守すること。他人にコントロールされがちな日中の時間帯とメリハリをつけ、自分のルーティンを維持することこそが、強いクリエイションを生み出す土台になっています。
続いて、プロジェクト単位でカイロスの時間を生み出す方法を紹介。約6カ月におよぶプロジェクト期間において、照井さんが最もエネルギーを注ぎ込むのは、プレゼンまでの最初の1カ月。全体を通して均等に時間を使うのではなく、デザインのベースとなる考え方を定める一番最初の段階でクリアな脳のパフォーマンスを全投入する。意識的に集中する時間を作ることこそが、日常の時間を「濃密な時間」へ高める方法なのです。
I INが掲げる組織と育成の哲学
こうした照井さんの哲学は、I INでの組織づくりや若手デザイナーへの向き合い方にも表れています。
従来のピラミッド型組織は上層の層が薄くなり限界が生じがちです。これに対し照井さんは、過去在籍経験のあるNYのデザインオフィス「DS+R (Diller Scofidio + Renfro) 」をモデルに、スタッフが昇格して層を厚くする多軸な組織を目指しています。
育成においても、20代での濃密な時間投資を重視しつつ、萎縮せず意見がしやすい風通しの良い環境を徹底。「若い頃の失敗は当然」とし、思い切ってやってほしいと語ります。
3つの空間が語る「瞬間」「熟成」「歴史」のデザイン
照井さんは「時間」を空間デザインの要素として取り入れています。どのように表現しているのか、過去に手掛けた3つのプロジェクトから紐解きます。
「瞬間」わずか4時間のイベントに刻む、光と風の動的な表情
1つ目は、パリで開催されたカネボウの新商品発表イベント「Floating Moment(フローティング モーメント)」です。
プロジェクトのコンセプトである「瞬間」と、製品の特徴である繊細な泡をモチーフに、極薄のファブリックに風と光をあてて刻一刻と表情を変える動的なインスタレーションを設計しました。

照井さん
I IN共同代表
限られた時間だからこそ体現できる価値
「一瞬の動的な美」を成立させるため、事前検証を徹底。高天井の部屋を借り切った風と光の実験をはじめ、演出会社との無数のファンの制御テストや現地での迅速な施工手順の考案など、試行錯誤を重ねました。現地パリでの徹夜同然の作業を経て完成させた空間は、わずか4時間ほどの限定イベントとして公開されました。
「熟成」思考と試作を重ね、時間をかけて深めた空間と素材
2つ目は、大阪にある「ブルーボトルコーヒー 梅田茶屋町店」のプロジェクトです。
ブランドカラーの青を取り入れた、ブルーボトルコーヒーらしさを感じられる空間になっています。青をどう配置するのか、約6カ月かけて丁寧に熟成しながら最終的なデザインに落とし込みました。

照井さん
I IN共同代表
時間をかけて客観視することで、デザインと素材が成熟する
「The Blue」というコンセプトを掲げ、当初は階段の空間に青を表現する計画でしたが途中で大きく舵を切りました。
コーヒーパックをロゴの形に並べる、缶や青いコーヒー豆を壁に埋め込むアイデアなど試行錯誤を繰り返した末、青の空間をあえて2階の中心へシフト。コーヒーを味わう体験と青い風景が一体となる空間構造へと昇華させました。
また、店内の家具に使われているオリジナルのテラゾー(人工大理石)も、地元の職人と何度も試作を繰り返してつくられています。つくった直後は「これで良さそうだ」と思っても、数日経って時間をおいて客観視してみると「何か違う」と気づく体験がありました。デザインや素材を何度も検証できたこと、焦らずに時間をかけて思考や素材を成熟させたことが、結果として空間全体の質を飛躍的に高める「熟成」へとつながりました。
「歴史」100年後も残る石で、過去と未来をつなぐ
3つ目は、東京の「ブルーボトルコーヒー 高輪カフェ」のプロジェクトです。テーマとなったのは歴史という時間軸でした。
高輪という土地に刻まれた石垣や水門といった歴史的文脈に着目し、素材には100年後も残り続ける「石」を選定。開放的になりがちな現代のカフェ空間において、あえて重厚な石の「ゲート(門)」を配置した設計がなされています。

照井さん
I IN共同代表
重厚な「石」を通して、日常の立ち振る舞いを特別な体験へ昇華させる
高輪という土地に刻まれた石垣や水門といった歴史的文脈に着目し、素材には100年後も残り続ける「石」を選定しました。
開放的なカフェが多いなか、あえて重厚な石のゲートを設けることで、対面してコーヒーを受け取る日常の行為そのものを特別なシーンにしたいと考えました。100年後も残り続ける『石』という素材を通して、土地の歴史と現代の空間体験を未来へつないでいます。
人・素材・知識がつながり、次なるクリエイションの芽へ
時間の構造から、「瞬間・熟成・歴史」を体現した具体的な事例まで、1時間にわたりお一人で熱く語っていただいた照井さん。
思考の整え方やデザインへの真摯な向き合い方は、今後の空間づくりや日々の働き方にも大きなヒントを与えてくれました。
講演終了後の質疑応答では、「プロジェクト初期において具体的にどこに力を注ぐのか」といったデザインアプローチの話から、「個人の世界観や視野の広げ方」などの実践的なテーマまで多くの質問が寄せられ、会場全体がひとつになる強い一体感が生まれました。
トークプログラム後は懇親会が開かれ、会場のあちこちで語り合う姿が見られました。
なかでも印象的だったのは、以前からお互いの存在を知りつつも、このMATERIUMという場を通して初めて直接対面を果たされた照井さんと吉田さんの出会いです。吉田さんは
6月のイベントに登壇いただき、今回のイベントにも足を運んでくださいました。
デザインや空間に対するそれぞれの想いを共有し、新たな繋がりや対話が生まれていく光景は、まさにMATERIUMが目指す場所を象徴しているようでした。
MATERIUM では今後も、時間や素材をきっかけに、新たな視点や出会いが生まれるイベントを開催していきます。人・素材・知識がつながり、より良い選択につながる場を目指しています。
- 編集
- ノオト、オカムラMATERIUM
- 執筆
- 西村重樹
イベント概要
最近、個人的に「時間」というテーマについてよく考えています。デザインや日常の営みを横断しながら、この見えない存在がどのように空間や体験に影響を与えているのかを、多角的に捉えてみたいと思っています。時間は単なる尺度ではなく、空間に奥行きやリズムを与え、人の感覚や行動を静かに導く力を持っています。一人のデザイナーとして、その内在するエネルギーや重なりを丁寧に紐解きながら、時間と共鳴するようなデザインのあり方を探っていきたいと考えています。
- イベント名
- Shape of Time 「時間の気配」
- 開催日時
- 2026年9月1日(火) 18:00〜20:00
開場:17:30 懇親会:19:15〜20:00 - 申込締切
- 2026年9月1日(火) 13:00まで
- 場所・会場
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東京都千代田区紀尾井町4-1
ニューオータニガーデンコート3F
MATERIUM Google MAP - 定員
- 50名
- 参加費
- 無料
- プログラム
-
18:00 トークイベント 19:15 トークイベント終了予定 20:00 懇親会

照井 洋平 氏(I IN共同代表)
1982年神奈川県生まれ。明治大学商学部を経て、2008年アメリカNYのパーソンズスクールオブデザイン、インテリアデザイン学科を卒業。NYではGabellini SheppardとSHoP Architectsで経験を積み、2009年〜2017年の間株式会社CURIOSITYに在籍。グエナエル ニコラのもと国内外数多くのプロジェクトを担当する。2018年 I IN設立。

甲斐 蓉子(株式会社オカムラ スペースデザイン部 MATERIUMセンター ライブラリアン)
武蔵野美術大学卒業。オカムラでデザイナーとして勤務後、タイで約7年間、イベント企画やフォトグラファーとして活動。世界50か国以上を訪れ、多様な文化に触れる。帰国後は共創アンバサダーを経て、CMFライブラリー「MATERIUM」の立ち上げに参画。現在はライブラリアンとして、素材とデザインをつなぐ活動に取り組む。
イベントレポート
甲斐
ライブラリアン
時間とともに深まる空間づくり
オフィス家具の国際見本市『オルガテック東京2026』にて、オカムラブースの設計をI INさんにご協力いただいたご縁から、今回のイベントが実現しました。
MATERIUMでは、素材の色や質感だけでなく『時間とともに深まる、人と人との出会いの中で育っていく価値』を大切にしています。照井さんの真摯な思考と実践から得た学びを、ぜひ会場の皆様の仕事や空間づくりにつなげていただければ幸いです。