持続可能なものづくりを考える。MATERIUMオープニングイベント
- 2026年4月9日
当イベントにご来場いただき、誠にありがとうございました。
2026年4月9日、オカムラの新たな素材ライブラリー「MATERIUM(マテリウム)」のオープニングイベントを開催しました。
サステナブル素材・インテリア素材への理解を深めてもらうMATERIUM見学ツアーを実施。トークプログラムには家具デザイナーの小泉誠さん、持続可能な森づくりに取り組む宮城県登米町森林組合の會津浩幸さんが登壇。「日本の家具と森の循環」をテーマに、デザイン思想と現場における実装というそれぞれの視点から、これからの家具づくりと森の未来を巡る熱く深い議論が交わされました。
触れて、知って、交流する
イベントの前半では、オープンしたばかりのMATERIUMへと参加者をご案内しました。MATERIUMでは、床材、壁紙、天井材、ガラス、ファブリック、石、タイル、カーペット、フローリング、再生材などの多彩な内装材とインテリア素材を収蔵。環境負荷や循環性に配慮した素材を厳選しています。
参加者は、大判のサンプルを並べて見比べたり、照明の照度・色温度を変えて異なる光環境下での見え方を確認したり、ライブラリアンの説明に耳を傾けたりしながら、思い思いの時間を過ごしていました。素材一つひとつ手に取り、質感の違いを確かめるように見つめる参加者の姿が印象的でした。
光の当たり方や表面の仕上げによって、素材の表情は様々に変化します。同じ色に見える素材も、まったく異なる印象になることもあります。
ひんやりとした温度、ざらっとした手触り、ずっしりとした重量感。見て、触れて受け取るニュアンスは、空間に組み込んだときに人の心に大きく作用します。
見て、触れて、素材を選べるMATERIUMの魅力を体験いただきました。
MATERIUMツアーの後は、オカムラ赤坂のライブオフィス「We labo 25F」を見学。部門の垣根を越えたコミュニケーションを生み出すことを目的に、植栽やナラ枯れ材のフローリングなどの自然素材を用いた、屋外のような働く環境をご案内しました。
人と環境に寄り添うデザイン
イベントの後半は、「日本の家具と森の循環」をテーマに、家具デザイナー小泉誠さんの基調講演と、登米町森林組合の會津浩幸さんを迎えたトークセッションを行いました。
MATERIUMのライブラリアンである甲斐は、記念すべきオープニングイベントで誰の言葉を聞きたいのかを考え続け、家具デザイナーでありながら空間設計も手がけられていて、20年以上にわたりサステナブルな思考と実践を続けている小泉さんに辿り着き、登壇を依頼しました。
小泉さんは、森に関わる人や家具職人とのよりよい関係づくりにつながるイベントにのみ登壇されるという考えをお持ちでした。甲斐は小泉さんの著書をいくつか読み返し、「ナラ枯れ材の椅子」について書かれたコラムを発見します。課題のある素材に価値を見出すという点が、MATERIUMが目指す姿と重なり、ぜひ小泉さんをお招きしたいという思いが強くなりました。
「じっくり売れ続けるデザイン」を考える
基調講演では、小泉さんが「じっくり売れ続けるデザイン=いいデザイン」と捉え、それを満たす条件として3要素を挙げました。

小泉さん
家具デザイナー
いいデザインの3要素
1つ目は「物理的なタフさ」。単に長持ちするだけではなく、木材や紙などの素材の経年劣化も活かして、持続的に使い続けられるものがいいデザインだと考えています。
2つ目は「機能が十分」であること。多機能過ぎず、機能不足でもない「十分」を追求することで、結果として無駄のないシンプルで洗練されたデザインが生まれます。
3つ目は「気持ちを作る」こと。使い心地がいいな、美しいなと人の心を動かし、自然と愛着が湧くデザインを意識しています。
さらに、デザインの対象を「抽象的な消費者や社会」に据えるのではなく、「目の前で一緒にものづくりをする職人や製造者」のためにデザインをする姿勢が重要だと語ります。
現場の職人が誇りを持って作り続けられるか、製造現場が持続可能かを重視し、作り手に寄り添うことで現場の意欲向上や技術継承につながり、長く愛される質の高い製品を生み出す循環がつくられるのです。
日本の林業を継続するために
トークセッションでは、登米町森林組合の會津さんと共に、日本の森林環境と林業の課題について議論が交わされました。
日本の国土の約7割は森林で、そのうち約45%が人工林(針葉樹)、約55%が天然林(広葉樹)です。戦後多く植林されたスギなどの針葉樹は収穫期を迎えていますが、安価な輸入材との激しい価格競争により、採算が取れない状況に陥っています。

會津さん
登米町森林組合
将来を見据えて、再造林のあり方を見直す
50年〜60年かけて育てたスギの原木1本が約1万円にしかなりません。そのため森林組合の主な収入源は、再造林(木を伐採した跡地に再び植林すること)による補助金に頼りきっている状況です。
人口減少が進む中で、将来そのスギが使われるかどうかの需要を十分に考えないまま伐採し、植林を続けてしまう構造的な問題を抱えています。
単に補助金が出るからと一律に再造林するのではなく、各地域の山に関わる人たちが思いを持って山を育て、100年後に継承できるように守っていかなければと考えています。

小泉さん
家具デザイナー
デザインの力で伐採木に新たな価値を
針葉樹だけでなく、森林の半分を占める広葉樹も、真っ直ぐに育たないため加工が難しく、採算が合わないという理由で活用されていない課題があります。
じつは広葉樹の重く、硬く、強い特性は家具の材料に適しています。それを活かすために、私と登米町森林組合が協働して、家具ブランド「kitakami」を設立しました。
広葉樹をリビングチェアに、社会課題となっているナラ枯れ材を成形合板に加工してワークチェアに再生するなど、課題のある素材にデザインの力で新しい価値を与えます。
一度伐採しても切り株から自然に芽吹いて再生する広葉樹の特性を活かし、持続可能な循環を目指しています。
家具ブランド「kitakami」により、使い道が決まっていなかった伐採木の新たな需要が生まれました。
森の課題をデザインの力で解決し、地域資源を無駄なく循環させる試みが行われています。
ものづくりは、人づくり
小泉さんは、2015年に北海道旭川市の家具メーカーと地域材を使った家具開発プロジェクトを立ち上げました。プロジェクト始動前の家具メーカーはオリジナル家具が少なく、物件家具やOEMの製造がメインだったため、職人は「下請けで作らされている」という意識で働いていました。
そこで小泉さんは、「家具を作りたい」と職人が思える環境整備に着手しました。

小泉さん
家具デザイナー
家具開発の前にやることがある
最初にスローガンを作り、「ものづくりで大切なこと9箇条」を職人の方々と共有しました。そしてみんなでジンギスカンを食べ、人間関係と場の空気づくりに取り掛かりました。
次にショールームやトイレの掃除・改修を行い、同時に家具開発も進めて展示会に出展。ここまでで約2年かかっています。
10年目には職人自らアイデアを出して新製品を開発・展示するまでに成長し、「家具を作りたい」に留まらず「作ったものを伝えたい」という思いも醸成できました。
時間をかけてじっくり関係性を築くことで、私も職人たちも成長できました。ものづくりは「人づくり」ともいえるのです。
持続可能なものづくりを目指して
今回のイベントを通して、森林をはじめとする自然環境の重要性や地域資源の可能性を再認識する機会となりました。私たちの身の回りにある家具や、それらに使われている素材にも、さまざまな物語が隠れているのかもしれません。
MATERIUMでは今後も、素材をきっかけに、新たな視点や出会いが生まれるイベントを開催していきます。人・素材・知識がつながり、より良い選択につながる場を目指しています。
- 編集
- ノオト、オカムラMATERIUM
- 執筆
- 水上アユミ(ノオト)
イベント概要
- 開催日時
- 2026年4月9日(木) 18:00〜20:00
開場:17:30 懇親会:20:00〜21:00 - 申込締切
- 2026年4月9日(木) 16:30まで
- 場所・会場
-
東京都千代田区紀尾井町4-1
ニューオータニガーデンコート3F
Open Innovation Biotope "Sea" Google MAP - 定員
- 100名
- 参加費
- 無料
- プログラム
-
16:30 MATERIUM & オフィスツアー 18:00 オープニング 18:10 小泉氏 / 登米町森林組合 會津氏
講演20:00 懇親会

小泉 誠 氏(家具デザイナー)
建築から家具、日用品、空間設計まで幅広い領域を横断し、日本のデザインを牽引してきた日本を代表するデザイナー。
1960年東京生まれ。木工技術を習得後、原兆英・原成光に師事し、1990年にKoizumi
Studioを設立。2003年に「こいずみ道具店」を開設し、建築から箸置きまで生活に関わるデザインを手がける。現在も全国のものづくりの現場で地域と協働。2015年に一般社団法人わざわ座を設立し、手仕事の復権を目指す活動を開始。武蔵野美術大学名誉教授、多摩美術大学客員教授。毎日デザイン賞(2012)、日本クラフト展大賞(2015)、JIDデザインアワード大賞(2018)、IF
DESIGN AWARD(2023)など受賞多数。

會津 浩幸 氏(登米町森林組合)
1972年宮城県生まれ。
2010年から登米町森林組合 木材利用開発課に在籍して、
認証材・広葉樹材の加工・製品開発に従事。 認証材・
地域材を使用した建築のモデルとなるような様々な事例を重ねている。 また 「kitakami」
家具ブランドを立ち上げ「森林組合が家具メーカーになりました!」をスローガンに、地域の製造者と協働して活動を続けている。
2024年には電動マウンテンバイクで広葉樹伐採跡地を走るツアーを立ち上げ、
登米のまちから森林へつながるコースでまちの観光と森林の多目的利用をつなげる事業を行っている。

甲斐 蓉子(株式会社オカムラ スペースデザイン部 MATERIUMセンター ライブラリアン)
武蔵野美術大学卒業。オカムラでデザイナーとして勤務後、タイで約7年間、イベント企画やフォトグラファーとして活動。世界50か国以上を訪れ、多様な文化に触れる。帰国後は共創アンバサダーを経て、CMFライブラリー「MATERIUM」の立ち上げに参画。現在はライブラリアンとして、素材とデザインをつなぐ活動に取り組む。
イベントレポート
甲斐
ライブラリアン
貴重な講演が実現するまで
私が武蔵野美術大学に在籍していた頃、小泉先生の授業を受けていました。優しい語り口の中に、ぶれない信念や考え方が見られ、その姿勢に深く感銘を受けた記憶があります。
MATERIUMのオープニングイベントで、小泉先生にぜひご登壇いただきたいと考え、丁寧に準備を重ねて依頼をしました。快くお引き受けいただき、登米町森林組合の會津さんもご紹介いただきまして、本日のイベントが実現しています。
貴重な講演を、皆様一人ひとりの中に持ち帰っていただき、これからの仕事や人生観に繋がればうれしく思います。