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2014.07.22  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

一生の仕事とは

──鮫島さんは美術学校を卒業して最初に就いたデザイナーの仕事で、シーズンごとに商品が変わり、ものづくりへの愛着が感じられない仕事に疑問を感じるようになったと思ったとのことですが、そこからどのようにキャリアを切り開こうと考えたのですか?

私は具体的にどういう仕事であれば人生をかけてやれるのか、満足できるのかと考えたのですが、なかなか答えが見つかりませんでした。やりたいことは、本当にいいもの、長く大切に使ってもらえるものをつくること、そして好きなことは、デザイン、アート、クリエイション、イノベーティブなこと。デザインという仕事そのものは好きで、やりたいことでしたが、今の化粧品のデザインという仕事は一生の仕事じゃないということは分かっていました。しかしどうすればいいかわからず、その頃は日々悶々としていました。


──その突破口はどのように開いていったのですか?

自分一人で悩んでいても埒があかないので、NPO関係やビジネス、デザイン、アート系の勉強会に参加したり、いろんな人と会って話を聞いたり、いろんな本を読んで自分で考えたりしました。そういうことを繰り返していく中で、表現やアートは、哲学や価値観を発信し、それが誰かの心に響き、生き方に対する考えを変える可能性やイノベーションを秘めていること、デザインは、それらを一般の人々が享受しやすいよう、製品など目に見える形に落とし込まれた結果であるということ、すなわち、ものづくり自体は、上記要素をもちうるおもしろい仕事であるはずで、尊く、価値がある行為だということに気がつきました。そして私の場合、作る人、売る人、買う人みんなが幸せになるようなものづくりをしたいと強く思えるようになりました。ここまで来るのに1、2年ほど悩みました。

決定的だったのが、ある勉強会で出会った元青年海外協力隊員の方のお話です。彼から青年海外協力隊の仕事の中にデザイン系のものもあると聞いて、デザインの仕事で何か人の役に立てるのであれば、そこに私が求めているもののヒントがあるかもしれないと思い、入社して3年3カ月が経った頃に会社を辞めて青年海外協力隊のデザイン隊員として、エチオピアに渡りました。

エチオピアへ

──英語は堪能だったのですか?

いえ、子どもの頃、父の仕事の関係で海外で生活していたので、苦手ではなかったのですが、堪能というレベルでもなかったです。ただ赴任前に英語研修もあるとのことでしたし、なんとかなるだろうと思い、応募しました。

デザイナーという職種では3カ国からの要請がありました。その中にエチオピアもありましたが、エチオピアはアフリカの貧困国であり、何かと大変そうだなと、最初はむしろ敬遠していました。

しかし、今となっては「呼ばれた」としか思えない出来事がありました。青年海外協力隊に申し込んだ後実際に赴任するまで、好きな国を周ろうと、会社を辞めて海外旅行に出かけました。南米に2カ月、東南アジアに1カ月、計3カ月間旅行して、その間にJICAから青年海外協力隊選考の合格通知が来ていました。その後、たった一週間の間に、見ず知らずの、それぞれ全くつながりのない3人の外国人に、「エチオピアはいい国だ」と言われたんです。しかも3人とも私の方からエチオピアの話はしておらず、普通の会話の中で彼らの方からエチオピアの話が出てきたのです。実は青年海外協力隊でエチオピアからオファーが来ていてという話をすると、みんなからぜひ行くべきだと勧められました。

当初はエチオピアではない国にしようかなと思っていたのですが、こんなに短期間の間にこれだけエチオピアの話が出てくるのは普通ではありえない、これも何かの思し召しなんだろうと、JICAにエチオピア赴任を承諾するメールを送りました(それ以降、帰国するまでエチオピアの話は誰からも出ませんでした)。そして2002年2月、青年海外協力隊のデザイン隊員としてエチオピアへ赴任しました。

鮫島弘子(さめじま ひろこ)
東京都出身。株式会社andu amet(アンドゥ・アメット)の代表取締役兼チーフデザイナー。

学校を卒業後、化粧品メーカーにデザイナーとして就職するが、大量生産、大量消費のものづくりに疑問を感じ、3年後に退職、青年海外協力隊に応募してエチオピア、続いてガーナへ赴任。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドに入社し5年間マーケティングを経験。2012年2月、世界最高峰の羊皮エチオピアンシープスキンを贅沢に使用したリュクス×エシカルなレザー製品の企画・製造・販売を行う株式会社andu ametを設立。2012年、日経ウーマンオブザイヤーキャリアクリエイト部門賞、2013年APEC若手女性イノベーター賞等、多数受賞。近年は新しいタイプの若手起業家として注目を集め、人気テレビ番組や大手新聞、ネットなどで取り上げられ、講演・イベントの登壇も増えている。

初出日:2014.07.22 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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