働く場所は、仕事のあり方をどこまで変えられるのだろう? 2026年6月にリブランディングを行った〈オカムラ〉が取り組むのは、家具という「モノ」を超えて、人の行動や関係まで含めた「場」のデザインだ。東京・紀尾井町のオフィス〈We Labo〉25階では、「まざりつながる」をコンセプトに、部門や職種を越えて人が出会い、一人ひとりが心地よく働ける環境を追求。リニューアルを手がけた空間デザインチームの一人・吉田直人さんに、これからのワークプレイスについて聞いた。
「まざりつながる」を空間から
デザインする。
〈オカムラ〉のラボオフィス〈We Labo〉は、ニューオータニ ガーデンコートの24階から26階までの3フロアに広がる。その中央にある25階は、特定の部門に限定せず、上・下階、他拠点から来た社員やゲストも自由に使える場所。
2025年、このフロアのリニューアルを担当したのが、〈オカムラ〉の空間デザインチームの一人、吉田直人さん。空間を考える出発点になったのは、働き方そのものの変化だった。
「近年は、一つの部門の中だけで仕事が完結するのではなく、部門を横断してプロジェクトを進める機会が増えています。そこで、このフロアでは『まざりつながる』をコンセプトに、組織の境界を越え、気持ちよく一緒に働き始められる場所をつくれないかと考えました」


誰もが心地よく過ごしながら「まざりつながる」ために、吉田さんが参考にしたのは、豊かな自然に囲まれた屋外の街路だ。
「窓のない閉鎖的な会議室に入って、『初めまして』という挨拶から始めるより、屋外のようなオープンな場所で出会ったほうが、やわらかく、腹を割って話せるんじゃないかと思ったんです」
フロアを歩くと、その意図はすぐに伝わってくる。壁で細かく区切られた部屋はなく、視線の先まで空間がつながる。また、床からは植物が生え、頭上には枝葉が広がっている。空間の中心に大きな樹木の幹があると仮想し、そこから枝が伸びるように頭上の植栽を配置。床の植物もプランターを並べるのではなく、床から直接生えているような設計に。
「自然とのつながりが人に安らぎをもたらすという“バイオフィリック”の考え方を取り入れました。室内でありながら、森の中を分け入っているような感覚をつくれないかと思い、広葉樹と針葉樹を組み合わせ、葉の間から木漏れ日を感じるような設計にしています」
さらに、自然光を空間全体で感じられるよう、リニューアル時には窓のブラインドも取り払った。
「自然を感じられる環境のなかでも、特に大切にしたのが光です。窓際の一部の人だけではなく、できるだけみんなが自然光を享受できるようにしました。このフロアでは、時間とともに光が移り変わることを感じられます」
床に使われているのは、国産ナラ材の無垢フローリング。色むらや虫食いなど、一般的な建材では避ける不均質さを、そのまま空間へ取り込んだ。自然に似せた装飾を施すのではなく、光、植物、木という自然の要素を、人が働く環境そのものへ組み込んでいるのだ。
つながる。一人になる。
働く場所を自分で選ぶ。
「まざりつながる」といっても、常に誰かとコミュニケーションを取ることだけが目的ではない。25階には、複数人で集まる大きなテーブルから、一人で腰を落ち着けられる場所まで、異なる性格を持った居場所が点在している。
「”全員にとって快適な場所”という一つの正解があるわけではありません。僕自身『静かに資料をつくりたい』という日もあれば、オープンマインドな気持ちで仕事に向かいたい日もあります。ここでは座る場所によって、人との接し方も変わってきます」
フロアの奥に設けた一人用のスペースも、あえて完全な個室にはしていない。
「仕事には集中できるけれど、周囲の気配は感じられて、声をかけようと思えばかけられる。一人でいることと、人とつながること、その間を行き来できるような環境を目指しました」


新たな働き方を広げるための
家具やツール。


絶妙な距離感を生み出す重要な要素の一つが、《YAA》だ。パーティションのように壁をつくって人と人を区切るのではなく、ゆるやかに囲いながら、人と人をつなげる「ブレンディングファニチュア」として、やわらかい曲線を表現できる特徴を生かし、高さや配置を変えながら、一筆書きのようにフロアを横断する。
「オープンな環境でも、目の前に何かよりどころがあるだけで落ち着けることがあります。完全に遮られていなくても、ちょっと囲われていることで居場所になるんです。このフロアは目線を遮る壁がないので、声をかけられる率が格段に上がりました。自分自身、ここにいると”あ、あの人いるな”と発見するし、自分もよく発見されます(笑)。家具の向きや通り道との関係もあって、自然に声がかけやすいんですよね」
オンラインでは起こりにくい偶然の会話。目的のない雑談。たまたま耳に入ってきた情報。家でもカフェでも仕事ができる時代に、それでもわざわざオフィスへ行く理由の一つは、予定していなかった人や情報との出会いにあるのかもしれない。


25階にはポータブルバッテリー《OC》や《TELECUBE by OKAMURA》など、〈オカムラ〉のさまざまなプロダクトも置かれている。《OC》は電源が近くになくても、仕事に必要な電力を確保できるため、コンセントの位置から自由になるアイテム。
「通常のオフィスでは床の下に電源を通すので、床を剥がしてアクセスできるよう、仕上げがカーペットになることが多いです。でも、ポータブルバッテリーを導入すれば、このようにフローリングを敷くこともできます。空間デザインの自由度がかなり広がるんです」
また、オンラインミーティングなど、完全に閉じた環境が必要な場面もある。25階には優れた防音性能を備えた《TELECUBE by OKAMURA》を採用。このように同じフロアの中にもオープン、半個室、個室まで異なる環境を用意することで、一人ひとりが仕事内容に合わせて場所を選べるようになっている。
つくりながら考える、
24階「We Labo」。




25階から24階へ降りると、空間の表情はがらりと変わる。このフロアで働いているのは、〈オカムラ〉の製品開発やオフィス構築を担う人たち。このフロアのリニューアルでは、デザインチームだけではなく、各部門から選手されたメンバーがワークショップに参加し、残すべき機能は何か、新たに必要な機能は何かを検討した。
「ワークショップを重ねながら、『自分たちにはどんな場所が必要なのか』をみんなで考えました。マテリアルを全部見えるようにしたいとか、こういう設備が欲しいとか、テーマごとにチームをつくって意見を吸い上げていきました。クリエイターが働くフロアなので、自分たちの場所はちゃんと自分たちでつくろう、というコンセプトでした」
家具をデザインする人、空間をデザインする人、働き方を研究する人、マーケティングやプロモーションに携わる人。異なる専門性を持つ人が同じ会社の中にいるからこそ、一つのワークプレイスを多角的に考えることができる。そして、自分たちでつくり、自分たちで使い、また考える。その循環は、クライアントの空間づくりにもつながっていく。
「お客様のオフィスをつくる場合も、たんに場所をつくるだけでは機能しないと思っています。つくる前の段階から、どうプロジェクトに参加してもらうか、一緒につくる人をどう増やしていくか。完成したあとも、その場所が自走していく仕組みまで含めて、お客様と一緒に考えていくことが大切になっています」
空間を設計して終わるのではなく、人が使い続けることで「場」は更新されていく。そこにも、人を起点に考える〈オカムラ〉の姿勢が表れている。
「今後、AIがさらに仕事の中へ入り込むほど、“人を起点に考える”という視点は重要になると思います。たとえば、チームでAIを囲みながらアイデアを出し合う場所が必要になるかもしれない。また、一方で、AIと向き合う時間が増えれば、そこから離れて気持ちを緩めたり、人と直接コミュニケーションを取ったりする時間も、より大切になるはず。小休憩できる場所や、食事をしながらコミュニケーションできる場所など、むしろ人間らしく過ごせる環境の価値が高まっていくのではないでしょうか」
働き方が変われば、必要とされる場所も変わっていく。だからこそ、家具や空間に一つの完成形を求めるのではなく、そこで過ごす人を見つめながら、働く環境そのものを考え続ける。〈オカムラ〉がつくろうとしているのは、一人ひとりが心地よく力を発揮し、その力が自然とまざり合っていく、そんな「人が活きる場」なのだ。