美馬市地域交流センター ミライズ
COMMUNITY SPACE
LIBRARY

美馬市地域交流センター ミライズ

MIMA Regional Exchange Center

商業施設から「市民の居場所」へのコンバージョンphoto:Nacása & Partners

2005年の美馬市誕生以来、図書館は旧町村の既存施設をそのまま使用してきたが、今回、脇町地区の図書館をミライズの2階に移転、美馬市立図書館としてオープンした。約2400m²に及ぶ館内の中心は、大きな丸テーブルを据えた閲覧スペース「読書のハコ」。日本百名山の1つで、地域を代表する「剣山(つるぎさん)」を模したグリーンを囲むように、幅広い世代が自然と集まる。

美馬市立図書館の新刊コーナーから吉野川方向を見通す。8m間隔で並ぶ既存柱を内包した壁で広大な空間を緩やかに分節。さらに、それぞれの壁は厚みを利用し、閲覧・検索コーナーや書架など様々な機能をもたせている。

蔵書の荷重が既存建物の設計積載荷重を超えないよう書架を低層に揃えた分、奥まで見通しが利くのも大きな特徴。

側板をなくし、端まで棚のライン連続する書架デザインが、さらに空間をのびやかに感じさせる。

オリジナルデザインの書架は、竹製の棚板が奥に向かって 4度傾斜。本を手に取りやすく、地震による落下対策としても有効。

地域に愛された商業施設を
市が再生

阿波の国・徳島県の西部、吉野川流域に約3万人が暮らす美馬市。江戸から明治にかけて阿波藍の一大生産地として栄え、藍商や呉服商の家屋や蔵が今なお残る「うだつの町並み」を歩くと、かつての栄華を偲ぶことができる。その脇町の保存地区近くに、2018年5月、オープンしたのが美馬市地域交流センター 「ミライズ」だ。「一般公募で命名された施設名には『ミライ(未来/美来)』+『ズ(図)』、『ミ(me/私)』+『ライズ(rise/上昇する)』など、市民が生き生きと暮らす明るい未来への想いが込められています」と、同センター長であり、運営を担当する穴吹エンタープライズ・橋本一二氏。

 「美来創生のまち」をコンセプトに掲げる同市は、2005年に4町村が合併して誕生。このたび築30年の大型商業施設を買い取り、新たな市立図書館と市民ホールを核に、子育て支援施設、公民館機能、行政窓口機能などを集約し、市民が思い思いに過ごせる複合施設として再生した。

 「1987年に県内資本のスーパーマーケットや地元の小売店が集まって開業し、運営してきたショッピングセンターでしたが、8年ほど前に利活用の相談が寄せられたのがきっかけです。ちょうど市でも、周辺の図書館や公民館、福祉センターなどの公共施設が老朽化し、施設の再編整備を進めようとしていたところでしたので、検討委員会を立ち上げました。様々な検討を重ねた結果、長年市民にも親しまれてきたランドマーク的な建物をコンバージョンしてそれらの機能を集約し、県西部の中核拠点施設として活用することになりました」と、同市美来創生局プロジェクト推進課 課長・西岡英樹氏は今回の経緯を振り返る。

1行目:かつて吉野川に面していた脇町は藍の集散地の1つで、本瓦葺きの大屋根、漆喰仕上げの厚い壁の家屋や蔵が建ち並ぶ「うだつの町並み」は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定。近くに建つ「オデオン座(脇町劇場)」とともに、美馬市の観光名所となっている。

かつて吉野川に面していた脇町は藍の集散地の1つで、本瓦葺きの大屋根、漆喰仕上げの厚い壁の家屋や蔵が建ち並ぶ「うだつの町並み」は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定。近くに建つ「オデオン座(脇町劇場)」とともに、美馬市の観光名所となっている。

3行目:ショッピングセンター時代、駐車場だった屋上は、山々や川を望む、広々とした遊び場に。現在の駐車場は地上と地下のみで、約450台を収容可能。

ショッピングセンター時代、駐車場だった屋上は、山々や川を望む、広々とした遊び場に。現在の駐車場は地上と地下のみで、約450台を収容可能。

5行目:「○○のハコ」と名付けられた活動領域や、思い思いに時間を過ごす居場所を巡る、建物全体に広がる回遊動線。

「○○のハコ」と名付けられた活動領域や、思い思いに時間を過ごす居場所を巡る、建物全体に広がる回遊動線。

2行目:スーパーマーケットと隣り合う貸し音楽スタジオ「奏でるハコ」は、リピート利用率が高い施設の1つ。

スーパーマーケットと隣り合う貸し音楽スタジオ「奏でるハコ」は、リピート利用率が高い施設の1つ。

4行目:1階にエントランスは5箇所あり、写真はエレベーター前のエントランスホール。ロゴと組み合わせたサインは、建物の平面グリッドをモチーフにしたもの。

1階にエントランスは5箇所あり、写真はエレベーター前のエントランスホール。ロゴと組み合わせたサインは、建物の平面グリッドをモチーフにしたもの。

人と人を結びつける「ハコ」

地下1階、地上2階建ての建物は、ワンフロアが約6000m²と広大。市民待望の約500席、建物3層分のホールは、既存の吹き抜け空間を活用しつつ、1階の床を抜いて収めている。1階は以前からのスーパーマーケットが営業しているほか、ホールを中心に、ホワイエ、住民票など証明書の発行を行う脇町市民サービスセンター、交番、観光情報発信センター、貸し会議室や研修室、音楽スタジオを配し、幅広い年代の市民が行き交う。各室の名称もまたユニークで、「市民のハコ」「活動のハコ」「奏でるハコ」など、「○○のハコ」と名付けられているのだ。設計を手掛けたアール・アイ・エーの設計部副参事・辻村一義氏、同主任・大野佑太氏は、「この大空間を広々とした『原っぱ』に見立て、そこに大小の箱を点在させて、市民が活動するイメージで設計しました。箱以外の部分は『ストリート』のようなパブリックスペースで、行き止まりがない回遊動線でもあり、多彩な居場所をしつらえています」と語る。ハコの中を覗いたり、ハコ同士で様子を伺ったり。市民の関心を誘い、交流を促す仕掛けに溢れている。

 2階の約4割を占める美馬市立図書館にも、このコンセプトを展開。新聞・雑誌の書架で囲われた閲覧スペース「読書のハコ」を中心に、児童図書エリアや一般図書エリアを隣接させてゾーニングし、所々に散りばめられた「板間のハコ」や「タタミのハコ」などの様々な閲覧スペースでは、子どもと大人が入り混じって読書を楽しむ姿が印象的だ。「これからの時代、図書館には人と本の出会いだけでなく、人と人、人と郷土を結びつける役割が求められています」と同館長の図書館流通センター・梶浦真子氏。「おはなしのハコ」では読み聞かせイベントだけでなく、地元出身の将棋名人にちなんだ将棋サロンなども開催している。

 行政と民間、そして新旧の柔軟な融合によって生まれた「市民の居場所」。ここからどんな未来が生まれるのか、楽しみだ。

グリッド状に立つ壁と壁の間を縫うように、各ゾーンを回遊できる主動線「ブックストリート」を配置。

途中には、カウンターや淹れたてのコーヒーを楽しめるカフェ「梲(うだつ)珈琲」、様々な閲覧スペースがあり、思わず道草に誘われる。

個人学習用のスペースとは別に用意された、グループ学習用の「学びのハコ」も利用率が高い。

既存柱を内包した閲覧コーナー。絵本エリアには親子で座れるベンチ(左)、郷土資料エリアにはちょっとこもれる寝椅子(右)など、座面形状も様々なタイプを用意。

半屋外の「吉野川テラス」では、飲み物を片手に読書を楽しめる。

1行目:2階には、図書館、小規模保育所、子育て支援施設のほか、料理教室が開ける「料理のハコ」。

2階には、図書館、小規模保育所、子育て支援施設のほか、料理教室が開ける「料理のハコ」。

3行目:壁面にボルダリングを設け、ダンスなどの活動ができる「運動のハコ」。畳敷きの集会所「和のハコ」など、2階には5種10室のハコが点在する。

壁面にボルダリングを設け、ダンスなどの活動ができる「運動のハコ」。畳敷きの集会所「和のハコ」など、2階には5種10室のハコが点在する。

5行目:1階のハコは「会議のハコ」など、8種9室。

1階のハコは「会議のハコ」など、8種9室。

2行目:既存の吹き抜けとトップライトを活用した1階ホワイエ。白を基調とした明るいインテリアのポイントに、「阿波藍ブルー」をあしらっている。

既存の吹き抜けとトップライトを活用した1階ホワイエ。白を基調とした明るいインテリアのポイントに、「阿波藍ブルー」をあしらっている。

4行目:同センターは夜10時まで開館。夜間の利用者も多い。1階のフリースペース「縁側のハコ」は、全開口サッシを開ければオープンエアーになる。

同センターは夜10時まで開館。夜間の利用者も多い。1階のフリースペース「縁側のハコ」は、全開口サッシを開ければオープンエアーになる。

DATA

所在地徳島県美馬市脇町大字猪尻字西分116-1
開館2018年5月12日
敷地面積1万8053㎡
延床面積2万3342㎡(施設全体/うち9500㎡を改修)
規模地上2階・地下1階
ホール客席数501席
図書館座席数185席(テラス・カフェを含む)
図書館収容可能冊数約15万冊
改修設計アール・アイ・エー
改修施工五洋建設
bp vol.31掲載(2019.09発行)