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photo & portrait: Nacása & Partners
Interview_Case 02
凸凹のままで、
未来に向かえばいい
横石 崇
株式会社&Co.代表取締役
「Tokyo Work Design Week」オーガナイザー
新しい働き方を支援するプロジェクトである「Tokyo Work Design Week」という祭典の発起人かつオーガナイザーであり、7年間でのべ3万人以上を動員した、稀代の活動家、横石崇さん。渋谷スクランブルスクエア東棟の15Fにあり、横石さん自身がメンバーにもなっている「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」という共創施設でお話をうかがった。
今のオフィスの中には
「Why」を語れる場所が減っている
—横石さんが書かれた「自己紹介2.0」という本、自分と向き合う楽しさと発見にあふれていて、とてもためになりました。自己紹介の中で、まだ成し得ていない自分の未来について語ってもいいんだという視点も、大きな気づきでした。
そもそも僕は自己紹介が苦手でして、優れたビジネスパーソンのみなさんの自己紹介を研究していたのです。そこで気づいたのは、自分も含めて多くの人は肩書きや役職といった現在や過去に縛られて自己紹介をしがちだということ。でも、人を惹きつけるリーダーたちは、未来を語っていることが分かりました。そして、未来→過去→現在の順で自己紹介をして共感を得ているという原則も発見しました。未来というのは「Why」に当たり、「どんな未来をつくるのか。なぜそうするのか?」という目的意識のある視点です。過去は「How」に当たり、「どうやるのか?」という方法論や工夫の蓄積。そして現在は「What」に当たり、「何をすればよいか?」という具体的な行動になります。ところが、このモデルをオフィスに置き換えて考えた時、「Why」を語れる場所って、どんどん少なくなっていると感じています。
—すごく新しい視点ですね。面白いです。
「人生とは〜」や「そもそも働くとは〜」といったような、社内の喫煙室や居酒屋で語っていたような「Why」と出会う機会は減っていますよね。これは働き方改革の名のもとに、より合理的にスマートにやろうとした結果、空間も働き方も「How」と「What」が中心に進んだからかもしれません。成長する組織には必ずチームで「Why」を交換できる場があります。それは広さや予算は関係ありません。また、会議室の使い方が15分単位で決められるようなパフォーマンスを求められる働き方の中でも、さらに「Why」が狭められていく。
—なるほど。横石さんは以前、オフィスの島型対向式のレイアウトが悪いわけではないというお話もされていましたね。それは、居酒屋三昧みたいなものでしょうからね(笑)。
居酒屋の宴会レイアウトですよね(笑)。先日、勢いのある新興企業の入社数年目になる女性社員から相談を受けました。「会社はフルリモートワークで、いつ出勤してもいいし、ずっと家にいてもいい。ただ、それを1〜2年続けた結果、自分が成長したかどうか分からない」と言うんです。ミレニアル世代ならではの贅沢な悩みですが、仕事の成長実感が湧かないというのは理解できます。
一方、島型対向式というのは、要は「盗めよ」というレイアウト。隣の先輩の所作や、細かい部分だと電話応対する際の声のトーンも、盗んで自分のものにできる絶好の機会ですし、無意識のうちに吸収できますよね。リモートワークだと、そこを感じ取るのは難しい。ですから、昭和を象徴するようなあのオフィスレイアウトは「人を学ぶ」には適していたんじゃないかなと思います。
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「SHIBUYA QWS」は、年齢や専門領域を問わず、渋谷に集い活動するグループのための拠点。コミュニティコンセプトは「Scramble Society」。利用するメンバーが黄色いパネルに自分の「問い」を書いて可視化するしくみによって、お互いに対する興味も湧き、話しかけやすく、偶発的なつながりが生まれている。
オフィスは必要? という問いが
生まれて当然だと思う
—今のお話は、横石さんが鎌倉に開設している「北条SANCI(ほうじょうさんち)」というコレクティブオフィスにもつながる気がします。単なるコワーキングスペースではない、コミュニケーションや学びを盛り込んだオフィスという考え方です。
「北条SANCI」は、「〜さんち」という名前にしているように、家のようなシェアオフィスです。リラックスできて居心地もいいけれど、少し緊張感もある。友達の家に近い感覚かもしれません。鎌倉という場所ですし、お庭も込みで一人100m2くらい広々と使ってもらっているのですが、いいアイデアやクリエーションを生み出すための環境づくりに徹しています。太陽を浴びて、広々とした緑に囲まれた自然環境づくりも大切ですし、入居メンバーを招待制にすることで、周りに知らない人や何やっているか分からない人がいたりしないよう、心理的安全性を担保した居場所づくりを試みています。
—「北条SANCI」は、人が集まるオフィスとリモートワークのそれぞれの良さを、絶妙なバランスで兼ね備えている気もします。
オフィスではなく、ワークプレイスとしてどういう場にしていくべきかを念頭に進めた結果です。今回、新型コロナウイルスの問題が拡大し、人が集まることのリスクも取り上げられています。そこで、働くことにおいてオフィスが絶対的な必要条件ではないことも、多くの人が体感的に分かったはずです。僕らも働き方や働く場所を振り返った時、まずはオフィスというカタチにこだわるのではなく、オフラインとオンラインを融合させた場のあり方から考えたことが出発点です。そして、冒頭の話のように「Why」を語れる場の設計が、オフィスではますます重要になります。というのも、「Why」を話すことが積み重なって企業文化になっていくわけですから、文化構築をしないままにデジタル・トランスフォーメーションだ、リモートワークだと言っても、残念な結果になるのは目に見えています。なんなら、オフィスはお互いの信用を育むために雑談をする場だ、という割り切りがあっていいかもしれません。
自分自身のダイバーシティを
知る機会がもっとあってもいい
—横石さんは「Why」を中心に、なぜ仕事をするのか、何のために未来があるのか、もっと人は楽しく働くことができるんじゃないかということを考えていますよね。
楽しく働きたいですよね。最近、日本人が楽しく働けない根本の原因が分かったんです。僕は「Why」を語れなくなった社会の根源は、一括採用にあるんじゃないかと睨んでいます。一括採用というのは「What」「How」を中心にしたコミュニケーションが主流になり、「Why」を奪うわけです。その会社にとってどのような戦力になるかが問われ、本来学生や若い人たちがもともと持っている凸凹の才能や考え方は、会社というシステムに入っていく際に削ぎ落とさなければいけない。凸凹というのは自分の好きなことや苦手なこと、自分にとっての人生の傷みたいなものを含みますが、それらは就労の論理においては問答無用なわけです。でも、これからの終身雇用が崩壊した世界でツルツルにされた状態で働かされ、先行きが見通せない時代で会社や上司も成長の支えにならないのだとしたら、そこには何が残るのでしょうか。ですから、自分のキャリアにハッシュタグを付けるように、自分の凸凹を可視化させることが大切です。例えば、エンジニアであれば「♯エンジニア」以外にも「♯趣味のサッカーゲームで優勝経験あり」「♯町内会のリーダーを3期連続」といったように複数の自分のキャラや役割を持てれば、その人の幅はグッと広がります。だからこそ僕は、自己紹介においても肩書きやステータスに囚われるのではなく、その人の凸凹は、凸凹のままであってほしいと思うのです。
—今の横石さんのお話で、なぜダイバーシティが大切なのか、なぜ今これほど多様性が注目されているのか、その本質がちょっと分かったような気がします。
人種や属性のダイバーシティというのは当然ですが、その前に、自分自身のダイバーシティを知る機会が、あまりにも少なすぎる気はします。学生だったらSPIみたいな適性検査はありますが、社会人になってからの経験を踏まえて、自分を知る機会はほとんどない。そこは今後、ビジネス・プラットフォームやAIテクノロジーなども相まって変わっていくところかなと期待しています。
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これからは「重なり」に意識的な
オフィスが生まれたら面白い
—横石さんは、何をやるかの「What」も大切だけれど、誰と仕事をするかの「Who」が大切だと言っていますよね。
計画を立てて上手くいく世の中ではもうありませんからね。人と人とが掛け合わさって、新しい価値が生まれてくることにもっと期待していいと思います。今まで企業においては、何をつくるのかという視点ばかりで商品やサービスを開発してきたと思うのですが、これからは商品よりも従業員やパートナーを大切にすることから始めてみる。自ずと組織における働きがいや仕事のつくられ方、人との向き合い方が問われてきますし、今までとまったく異なった視点の事業を生み出すこともできるかもしれない。この場合は、従来のピラミッド型の組織構造よりも、制度やシステムで縛られない自律分散型のほうが、人の凸凹を引き出しやすいですよね。
—凸凹が顕在化していれば、それだけ人と人との組み合わせのバリエーションが生まれるかもしれませんね。
空間、時間、人間という大事な言葉の中にはすべて「間(あわい)」という漢字が入っています。この「間(あわい)」というのは余白のことではなく、何かと何かがつながり重なり合う部分のことを表します。ここに新しいアイデアやイノベーションのヒントがあるはずです。ですから僕は空間を創る時、できるだけ敷居や仕切りを取り払い、境界線を溶かすようなカタチを考えます。逆に、「重なり」をどう創るかがすべてを決めると言っても過言ではない。
—今のお話でハッとしたのですが、多くの会社がオフィスにフリーアドレスという働き方を導入するのは、もしかしたら「重なり」を生み出したいからかもしれませんね。
今までのオフィスは、「重なり」に対してあまり意識的ではありませんでした。例えば会議室でもパーティションや壁で分けがちですが、そのことによって企業らしさみたいなものを奪ってしまいます。経営の透明化が問われ、企業文化が求められる時代になりましたが、空間が生み出す作用って大きいと思うんです。cultureの語源には「耕す」とか「培養」の意味もあると言われますが、管理する発想ではなく、戦略的に放置することで生まれてくる状況を大切にする方法もある。もっと自然に人が動き回れたり、話せたり。もっと「人間らしさ」を考えるところから企業文化を生み出すためのオフィスが、これからどんどん増えてほしいです。
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「SHIBUYA QWS」には小上がりなどの多様な空間が用意され、働く場所を自由に選んで使い分けることができる。
従業員のマインドに
どう寄り添っていくかが大切
—オフィスづくりのキーワードが「重なり」だと思いながら取り組むと、もっといろんなことも見えてきそうですね。
「オフィスって、見た目や機能性だけじゃないよね」ということには、もうみんな気づいていると思います。これからのオフィス空間が従業員に対してできることは、心や価値観など、目に見えないものにどう向き合うかにかかってきます。well-beingという発想が広がっていますが、従業員一人ひとりの幸せから、オフィス空間や組織をつくっていく時期にきています。ある会社では、ユニットチームごとに椅子も雑貨もレイアウトもすべて本人たちの自由に使える空間を貸し出しているところもあって、面白いなと感じました。チームによって使い方に個性が出て、それが流動的に変化していきますから、「オフィスは常に変化するもの」だという意識がみんなに芽生えていくんです。ある研究では、自分たちで空間や内装を選んだチームの生産性は高くなるといったものもありました。一人ひとりの従業員のマインドに、どう寄り添えるか。それはテクノロジーが進み、1人1台の高機能な情報端末を持ち歩ける今となっては難しい話ではありません。
「一日一会」のうれしい変化へと
スニーカーで外に出る
—横石さんご自身の働き方に対する姿勢みたいなものは、何かありますか。
いいアイデアと移動距離は比例するとでも言いますか、できるだけ外に出て、お客さんやパートナーと接するようにしています。よく散歩もするので、靴はいつもスニーカーですし。あと、もう10年近くになる根っからのリモートワーカーです。誤解されやすいのですが、リモートワークの福音は在宅ワークだけではありません。現場に行って直接お客さんの悩みに出会える機会が増えることなんです。僕の場合は働き方をテーマに活動しているので、ニュースや目に見えることだけではなく、現場感覚や裏側にあるものを大切にしています。リモートワークを効率のためのツールにするのではなく、創造性のエンジンとして捉えること。「オフィスの外にあるオフィス」をどうやって構築していくかが僕の当面の課題です。
—最後になりますが、横石さんの個人的な信条は、どういったものですか。
「一日一会(いちにちいちえ)」を日課にしています。勝手につくった造語なんですが、それっぽいですよね(笑)。現場へ行くという話にもつながりますが、1日1回は必ず新しい出会いや出来事があるように、自らに課しています。正直言うと、毎日毎日、変化を起こすのは意外とたいへんなんです。でも、小さな変化が大きな変化につながっていくと信じているし、そうやって今までもやってきました。ちなみに今日はこれから「うどんアーティスト」を名乗る方のキャリア相談に行ってきます。僕にとっての仕事のご褒美は、新しい出会いなんですよね。
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よこいし・たかし
1978年、大阪府生まれ。多摩美術大学卒業。広告代理店、人材コンサルティング会社を経て、2016年に株式会社&Co.(アンドコー)を設立。ブランド開発や組織開発をはじめ、テレビ局、新聞社、出版社などとメディアサービスを手がけるプロジェクトプロデューサー。さまざまなプロジェクトを実施し、「六本木未来大学」アフタークラス講師を務めるなど、年間100以上の講演やワークショップを行う。毎年11月に開催している、国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では、のべ3万人以上を動員した。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。法政大学キャリアデザイン学部非常勤講師。編著書に「自己紹介2.0」(KADOKAWA)、「これからの僕らの働き方」(早川書房)がある。