THEATER[劇場・ホール]穂の国とよはし芸術劇場

ファンダメンタルな劇場を内包した駅前型公共施設

穂の国とよはし芸術劇場PLAT北側正面より緑の広場越しに見る。正面中央がエントランスと交流スクエア。左はアートスペースのホワイエ、右は主ホールのホワイエに直通するメインガレリア(通路)。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT北側から見る外観。レンガの壁で挟まれたガラス壁面。

 

豊橋駅から徒歩3分

愛知県豊橋市の豊橋駅から徒歩3分という立地にある「穂の国とよはし芸術劇場(愛称:PLATプラット)」。豊橋駅前では中心市街地活性化のため、官民併せて様々な事業が進んでいる。この施設もその一環として位置付けられ、新たな芸術文化の創造と市民の交流を目指し、PFI事業により整備された。

舞台芸術をメインにした主ホールと、市民が利用できる大小の活動スペース、交流広場などで構成されており、指定管理者として豊橋文化振興財団が運営を担う。開館前(2010年)より芸術文化プロデューサーを招聘し、演劇・ダンスなどの舞台公演を著名なものも含めて、精力的に企画・開催している。

「このような演劇を鑑賞できるホールが、東三河地域にはなかったため、市民からの要望も強いものでした。また鑑賞だけでなく、演劇ワーク ショップなどの育成事業も進めています」と同市文化市民部文化課の村田直広氏は話す。

JR貨物の引き込み線跡を利用した線路沿いで、駅から至近であるロケーションは、この施設を最も特徴付ける。

豊橋駅は新幹線も停車するため、「県外も含めた広域からの集客を想定した」(村田氏)という。豊橋を含む東三河地域はマイカー移動が一般的だが、駅前の公共駐車場の利用を促すことで、「駅周辺の近隣施設を始め、豊橋そのものを知ってもらいたい」と村田氏。高い集客力によって、豊橋のブランディングも担っているこの施設は、一方向の市民サービスだけに留まらず、より広がりを持った公共的な存在であることがわかる。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT

穂の国とよはし芸術劇場PLAT左/1階のアートスペース脇のアートガレリアと呼ばれる通路。スリット状のトップライトから光が差し込む。2階にはアートスペース楽屋と主ホールホワイエを結ぶブリッジが架かる。
上/交流スクエア。誰でも自由に一定の時間を過ごせる、公共空間の本質的な部分を担う。カフェやギャラリー的な機能の他、照明ダクトやバトンなどの舞台装置を備え、ステージとしての利用もできる。右手の銀色のボリュームが創造活動室B。各施設は午後10時まで利用可能。

交流を核にしたプランニング

建築外観も、幾重にも架かる線路に対して強い存在感を持たせるため、量感があり、時間に負けないレンガという素材を採用した。レンガの壁が力強い土台でありつつ、上部は柔らかで軽やかな折板による壁面のボリュームでバランスをとった。

また配置計画も、細長い敷地の形状に合わせて、搬入口や楽屋などを擁したバックヤードを背後に抱える主ホールは敷地奥側へ配され、手前に中ホールであるアートスペースや各種活動室が集められている。更に中心核として賑わいをつくる交流スクエアをその中央に配置し、利用する人々の互いの交流や興味を誘うようになっている。「文化的な広がりを醸成するための提案です」と設計JVで意匠設計に携わった香山壽夫建築研究所の長谷川祥久氏は言う。

活動室はガラス張りで視線が通るようになっていたり、多目的に使われるアートスペースも開かれた劇場として位置づけ、活動室や2階の主ホールホワイエとも有機的な運用ができるプランだ。交流スクエアは、カフェの設置やポスターギャラリーなどの情報発信で各スペースの媒体として機能させる他、それ自体も開放的なステージになる。



穂の国とよはし芸術劇場PLATダンスの練習などを想定した創造活動室B(66m2)。

穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペースは最大266席の多目的可変ホール。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT創造活動室C(37m2)。ガラス越しに交流スクエアが望める。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT創造活動室E(23m2)は窓越しに線路と並ぶ。各創造活動室は、外から見て、使いたくなるような快適性も重視したという。

劇場本来の仮設性を備える

主ホールはいわゆるパフォーミングアーツ系に特化しており、「残響は抑えつつ、生の人声がよく響く」(長谷川氏)設計だ。客席の勾配は強めで、舞台との距離も非常に近い。また、舞台芸術の多様性に対応するため、高いフレキシビリティーが与えられている。奈落と客席前半部の躯体床レベルは同じ高さに仕上げてあり、束立ての可動床によって自由に舞台や客席を構築できる。本花道やオーケストラピットなどいかようにも対応できる仕組みだ。岡村製作所による特注のホールイスは軽量かつ快適性を保ったもので、建築のコンセプトに適合したつくりとなっている。

芝居小屋から始まった劇場は仮設性を本質的に備えたもので、ライブであることの偶発性、その瞬間でしか起こり得ない体験をさせることが主体にある。「その要素を建築にも反映させることができた」と長谷川氏。「建築がすべてを規定してしまうのではなく、演出や演者、あるいは観客も含めたそこで起きていることによって空間が変わる、そういう劇場が出来たと思います」

穂の国とよはし芸術劇場PLAT

穂の国とよはし芸術劇場PLAT

穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールは778席。舞台から最後尾客席の壁までは20m(1階)。客席前半部は束立てによる可動床。岡村製作所によるイスもそれに適した、メッシュのシートバックなどを採用した軽量な仕様。オーディエンスを満足させるべく、快適性も高めている。壁面は、音を拡散させるためにランダムな縦ルーバーを意匠としても取り入れた。豊橋名物である「手筒花火」のイメージが重ねられている。

 



穂の国とよはし芸術劇場PLAT北側の外観夕景。調光調色の照明によって上部の壁面が彩られる。内部はクーリングタワーなど設備関係が集約して収められている。豊橋駅から直結されるペデストリアンデッキが伸びる。

穂の国とよはし芸術劇場PLAT南側から線路越しに駅方向を見通す。外観は車窓からでも印象に残るようなフォルムを意図した。JR東海道本線や豊橋鉄道渥美線などが走る。

DATA

所在地
愛知県豊橋市西小田原町123
開 館
2013年4月30日
敷地面積
約7613m2
延床面積
約8036m2
設 計
豊橋市芸術文化交流施設 香山壽夫建築研究所・大成建設設計共同企業体
施 工
大成・豊田建設共同企業体
  • bp vol.12掲載(2013.10発行)