THEATER[劇場・ホール]岡山大学 Junko Fukutake Hall

重なり合う屋根の下で周りとつながるホール

岡山大学JunkoFukutakeHall円柱の林立するエントランス前から西側へ見通す。奥に見える解剖実習棟は新棟へ移転・解体の予定でより広がりのある場となる。

岡山大学JunkoFukutakeHall南側より俯瞰する。ガリバリウム鋼板の屋根がそれぞれ異なる反り方をしているのがわかる。

開かれたキャンパスづくりのために

『合理的で寛容でボーダレスな出会いの場/自由で愉快なコミュニケーションを誘発する場/セレンディピティを生み出す場』

壁面に貼られた細いプレートには、寄付をした福武純子氏のこの建物のコンセプトというべき思いが綴られている。

岡山大学医学部では2020年に創立150周年を迎える。その記念事業の一環として、開かれた大学となるための新しい連携、そしてキャンパスの整備を掲げている。森田潔学長曰く「美しく気品あるキャンパスづくり」だ。

福武氏が副理事長を務める公益財団法人・福武教育文化振興財団は岡山県内の教育・文化振興のための活動を支援しており、「瀬戸内国際芸術祭」などのサポートでも知られる。福武氏からは10億円分の寄付がされることになり、「Jプロジェクト」として医学部のある鹿田キャンパスにホールが、本部のある津島キャンパスにカフェテラスが建てられることになった。設計者はともに妹島和世氏と西沢立衛氏によるユニット建築家、SANAAが選ばれた。

岡山大学JunkoFukutakeHallコモンズスペースと呼ばれるエントランスエリア。外部の大きな庇も「日差しを避けて話ができるような場として考えた」(妹島氏)。

 

岡山大学JunkoFukutakeHall小ホールとなるホール2から最も大きいホール1を通して見る。右手にさらに小ぶりなホール3がガラス越しに見える。カーテンによって全体でも部分でも使うことが可能。

岡山大学JunkoFukutakeHall北側から見た全景。手前にトイレや控室などのガラス張りでない部分がある。鹿田キャンパスは岡山駅からも近く、敷地内は大学病院もあり、多様な人が行き交う。

広場のようなホール

大学ではどういうホールにするかという点で議論を重ね、実際にSANAAの設計した建物を視察・研究し、プランのあり方、運営上の問題などかなり細かい部分まで話し合いがなされたという。

妹島氏は、「もともと(津島キャンパスには)きちんとしたホールもあったので、こちらはより開かれたものにしようとスタートしました。紆余曲折を経て学会発表でも使えるようにしようと。普段は150~200人くらいで使うときが多いけれども、ときには500人とかあるいは50人くらいで使いたい状況もあるというお話から、いろんな人がいろんな風に使える"広場のようなホール"を考えました」と振り返る。「周囲に対して、完全に閉めきってしまうのではなく、緩やかにつながっていくようにしたんです」

7枚の大きな屋根が架けられた空間は、ガラス張りで気配を伝えるだけでなく、周囲から入ることができるようになっている。更に大空間のモノボリュームではなく、小さな平面が寄り集まることで可変的な空間とした。同時にそれぞれの小さなボリュームが周囲とのつながりをいざなうような形状をしている。構造的にも自立しており、「私たちとしても初めての試み。どこかをつなげていこうとすると一つの形になってしまう。それぞれの場所が独立的でありながら、一体的にも感じられるということは今後も考え続けていきたい」(妹島氏)。

前述のキャンパス整備が進む中で、ホールの北側に隣接する医学資料室・研究棟は将来的な移転が計画されており、内部には昭和初期の趣を残した大講堂もあることなどから、改修し補完機能として連携させる構想になっている。

岡山大学JunkoFukutakeHall中庭からホール1を見る。緑や空、外の気配、あるいは街の空気を感じながら、多くの人が場所と時間を共有している。岡山大学では岡山シンフォニーホールと包括的連携協定を結び、コンサートなどを開催している。ともに教育や文化などを通じた豊かな地域づくりを目指すという。

好きになってもらう

「最初は抵抗感を持たれていた先生たちも、出来てみると開いていた方が気持ちいいとおっしゃてくれてます。(舞台で)発表する側も気持ちいいんですよ」と妹島さんはにこやかに竣工後の様子を語る。「(機能が特化、限定されていないので)自分たちでつくっていかなくてはいけない場だから慣れが必要ですけれど、うまく適応していろんな使い方を考えてくれています」。 同大総務課総括主査の石井利明氏は「岡山大学らしい地域との関わり方ができるはずですし、公開講座やセミナーなどでも活用していきたい」と話す。

地域に開いてつながりをつくるということは、ただオープンであればいいわけではない。どうやってその空間を気に入って、使ってもらえるか。妹島氏の言葉がそのヒントを示唆する。

「まわりとつながっていく場所を用意する、サーキュレーションを常に意識しています。何となくその人なりにこうも巡れるという状況をつくっておく。また外が見えるということは完全にコントロールできない部分があるということ。それを取り込んで偶発的なことが起こり得るスペースを考える。そういうことが空間や建築を好きになってもらうきっかけになるかな、と思うんです」

岡山大学JunkoFukutakeHallホール2からステージ方向を見る。

 

岡山大学JunkoFukutakeHall

岡山大学JunkoFukutakeHall左/ホール1の客席床は勾配が付けられており、天井高は最も高いところで9.7m。ホールイスは通常固定されていて、メンテナンス時に外すことができる。
上/岡村製作所によるホールイス。勾配に応じて脚の長さは変え、固定方法も視覚的にわからないよう工夫した。前から3列はタブレット(サイドテーブル)が備えられ、スチールで補強もされている。

岡山大学JunkoFukutakeHall南側正面から見た外見夕景。


DATA

所在地
岡山県岡山市北区鹿田町2丁目5-1
建築面積
約1320m2
延床面積
約1397m2
席 数
ホール1/210席 ホール2/99席 ホール3/45席
設 計
妹島和世+西沢立衛 / SANAA
施 工
鹿島建設
  • bp vol.14掲載(2014.05発行)