MUSEUM[美術館・博物館]大和文華館

鑑賞体験を優先した美術館建築

大和文華館広い前庭をかかえた外観。シンプルな水平基調のラインが近代性を感じさせる。

パブリックな存在として望まれた私設美術館

近畿日本鉄道(近鉄)の創立50周年を記念して開館された大和文華館。近鉄は、伊勢・京都・奈良といった非常に歴史深い地域を沿線に持つことから、5代目社長であった種田虎雄は、日本美術を世界に知らしめるべく、美術館構想を掲げ、戦後まもなく財団法人を設立。当時より国際的な感覚を持っていた美術史家・矢代幸雄を初代館長とし、計画を一任した。

「民間の施設ですが、文化を広めるという公共性の高い美術館、その出自からパブリックな存在だったのです」と大和文華館学芸部長の中部義隆氏は話す。私設美術館の多くが実業家などのコレクションを元にしているのに対し、ここでは美術館構想がまずあり、矢代の理念に基づいた作品収集もゼロからのスタートだった。「美術品は観られて、初めて美術作品たる」との考えに基づき、鑑賞体験のための美術館づくりが進められた。

建築は吉田五十八が手掛け、近代建築と伝統的な意匠の見事な融合が見られる。なまこ壁を始めとした日本建築のモチーフを用いつつ、シンメトリーの平面計画、陸屋根で水平基調の外観やピロティ形式の展示室など、近代建築の要素をふんだんに取り入れている。中部氏は「(吉田は)豊かな空間というものをよくわかっていた人物」と語る。

大和文華館

大和文華館左/本館は高台に位置し、緩やかにカーブした坂道を上がると見えてくる。
上/展示室はバルコニーが回されたピロティ形式。

自然な感性を大事にした鑑賞空間

広大な自然苑の中に建つ本館は、自然との調和を重視したシークエンスが図られている。門をくぐり、緑豊かなカーブの付いた坂道を上がる。中に入ると重厚な木組みの空間で、和らいだ光の差すギャラリー(廊下)。そして展示室中央には竹の庭が望む。更に蛙股池を見渡すバルコニーが建物を囲む。

大和文華館展示室中央には竹の植えられた光庭が配される。ガラス面は紫外線防止の加工がなされ、作品を保護する。間接照明主体の柔らかな光環境。

自然との共生にある日本の文化。美術作品もそうした風土から生まれており、鑑賞自体も自 然の趣を感じながらが、一番美しく、十分に感じられる、というのが矢代の考えだった。

「落ち着いた快適な環境で、気負いなく鑑賞できる。感性が呼び覚まされることで、自然に作 品に引き込まれていく。だから皆さん静かに鑑賞されている」(中部氏)。

開館50年を機に昨年(2010年)リニューアルがなされた際も、当初のコンセプトが継承された。空間 のモジュールは極力変えずに、耐震補強やバリアフリー化を図った。アドバイスにあたって中部氏が最も腐心したのは、照明だ。影溜まりのないフラットで柔らかい光の満ちた空間とアプローチの光壁も特にこだわった成果である。

「吉田五十八は当時としてかなり大胆に西洋的な美術館建築を提案したと思います。ですから、建築自体の作品性はとても大事にしたかったのです」

大和文華館上/壁面および島型の展示ケースは岡村製作所の製作。
右/柔らかな光に包まれたギャラリー。

大和文華館

DATA

所在地
奈良県奈良市学園南1丁目11-6
敷地面積
約2万8050m2
延床面積
約2324m2
設 計
吉田五十八建築研究室
設計・施工(改修工事)
大林組
  • bp vol.2掲載(2011.05発行)