MUSEUM[美術館・博物館]高志の国文学館

富山ふるさと文学の体験型サイト

高志の国文学館南側正面外観。片持ちの屋根部分は積雪の荷重を考慮して、50mm程度のたわみ量を想定した納まり。

高志の国文学館北側より俯瞰する。右手が旧知事公館で、内部は事務室などのほか、東京のレストラン「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」が出店している。

高志の国文学館
北側エントランスまわり。アルミパネルの統一された外壁がスクエアな"蔵"の存在を引き立てている。

「土間と蔵」という明解なコンセプト

富山市の中心部、県庁にも程近い位置にある「高志の国文学館」。県ゆかりの作家や作品を紹介する「ふるさと文学」をテーマにした展示・文化施設だ。「若い世代が精神文化を振り返れるような、郷土の文化、歴史を伝えるための施設が元々の出発点です」と同館の事業課長・山形隆氏は話す。

「なるべく多くの人に来てもらえるよう、文学作品に限らず、映画やマンガ、アニメなど幅広い分野の先人にちなんで、展示や企画をしているのが大きな特徴です」

敷地内に整備されたランドスケープに加え、旧知事公館とその庭園が隣接し、木々の多い、全体にゆったりとした佇まいだ。皺の寄ったような独特な表情を持つ外壁が目を引く。県内主要産業の一つにアルミ精錬関連があることを受けて、アルミ鋳造のパネルをあえて用いているのだ。建物内外1900枚に及ぶパネルは、越中万葉で詠まれた15種類の植物の葉が鋳込まれている。

自然との調和を感じさせる外部周りに対し、室内は「土間と蔵」というコンセプトが貫かれている。展示室や収蔵庫などは、空調や照明をコントロールできる閉じた"蔵"となっており、その合間をつなぐ"土間"は開放的な通過・滞留、あるいは交流する空間として企図されている。屋内外で統一されたアルミ壁面は"蔵"としてのプレゼンスを明解にし、また"土間"は南北に建物を抜ける動線ともつながり、通り庭のような存在として自由なアクセスを助ける。

展示空間は、乃村工藝社が設計を担当し、大型ディスプレイやプロジェクター、センサー技術などを駆使したマルチメディア型の体験展示も売りとなっている。

高志の国文学館テーブル越しに庭園方向を見る。天井のルーバーは県産材の杉を使用。家具は藤江和子アトリエのデザインによるオリジナル。幅7mのガラスは国内でも最大級のサイズで、空気層12mmを挟んで46mmの厚さを持つペアガラスだ。重量も1枚で2tある。

高志の国文学館ライブラリーコーナー。大テーブルはガラスやアクリルを用いて、配架や展示ができるようになっている。手前側に壁面いっぱいの書架とコーヒーカウンターを備える。

 

最もパブリックで贅沢な空間

「この建築の中心的な空間がライブラリーコーナーなんです」と建築設計を手掛けたCAn(シーラカンスアンドアソシエイツナゴヤ)の井原正揮氏は話す。

庭園との間に水辺を配し、片持ちの大きな庇で視界を広げ、更に高さ3m×長さ7mという大尺のガラス壁によって室内からの贅沢な眺望をつくり出した。庭園の四季の移り変わりを存分に楽しめる。

家具デザインの藤江和子氏も積極的にかかわり、誰でも気軽に立ち寄れて、読書や交流などに利用できる多目的な空間となった。文字通りパブリックな、最も人の集まる場所でもある。藤江氏の提案から始まったこのスペースによって「建築の空間としての価値が高まった」と井原氏は言う。

高志の国文学館展示室内部。富山産の蛭谷(びるだん)和紙を用いたパーティションには、シルエットが投影されている。その内側は「万葉とばし」と称されるインタラクティブ型の体験展示だ。巨大な壁面書架やガラス展示ケースは岡村製作所による。

高志の国文学館作家ごとに著作、ゆかりのある資料などが紹介されている。

高志の国文学館
展示室をつなぐ"土間"にあたる通路部分。日照時間が少ないため、ハイサイドライトで採光し、明るさを得ている。

既存リソースを活用

2008年の県民アンケート調査で、ふるさと文学の振興およびその拠点施設の整備への期待が高まっていることを県では認識。県の会議室や文化団体への貸出などをする施設として利用されていた旧知事公館に、増改築を施して活用する方針を決定した。また、コンテンツの基礎となる収蔵品は、初代館長に就任予定だった故・辺見じゅん氏や県内の文学研究者、篤志家を始めとして、県民から寄贈された書籍・資料がベースとなっている。

こうしたリソースを有効活用しながら、建築や展示技術などの新しいクリエイティビティも取り入れた。前述したパブリックなスペースもリピート来館を見据えて、当初より検討されていた。関連性が希薄な話題優先のコンテンツや、デザインが浮き足立った空間では決してなく、実直だが現代的な公共施設と言える。

延べ来館者は開館約7カ月で10万人を達成。「文学館という施設の性格を考えればハイペースだと思います」と山形氏。企画展示は3カ月ごとに更新する予定で、息長く愛される施設を目指す。

高志の国文学館小さい子どもも読書を楽しめる親子スペース。内装デザインは藤江和子アトリエ。球形の照明器具には蛭谷和紙が使われている。

 


DATA

所在地
富山県富山市舟橋南町2-22
開 館
2012年7月6日
敷地面積
1万3760m2
延床面積
3070m2
建築設計
CAn
家具デザイン
藤江和子アトリエ
展示設計
乃村工藝社
  • bp vol.10掲載(2013.03発行)