LIBRARY[図書館]山梨県立図書館

県立図書館に都市空間を持ち込む

山梨県立図書館吹き抜けを中心とした交流エリア。1階右手がPC・AVコーナー。交流エリアに置かれたテーブルやソファは自由に利用できる。

賑わいが求められた図書館

「『これは図書館ではないんじゃないか』と思えるような場をつくろうと思っていました」と久米設計の野口秀世氏は振り返る。

野口氏は同社執行役員・設計本部設計長として公共文化施設を数多く手掛けている。「北上市文化交流センター・さくらホール」では、劇場・録音スタジオなどの施設とともに、創作・練習する人々と観覧に訪れる人々とを同居させる空間をつくった。交流する人々同士で新しい影響や作用を生むことを意図したものだ。野口氏は、この作品で日本建築学会作品賞(2006年)を受賞した。

「ここは県立図書館として重要な機能を担うとともに、甲府駅前という立地から中心市街地活性化のためにも、注目を集め、多くの人を呼び寄せる必要があったんです。またプロポーザル時に提示されたプログラムも、イベント系の施設の比重が高かった」。図書館でありながら、賑わいを創出することも期待されていたという。

野口氏は大学や研究所などで採り入れられているアクティブラーニングの考え方をこの図書館にも導入することを提案。書物や端末からの一方向の情報だけではなく、人と人が交流し、会話や議論の中で理解や認識が深まっていく。「公共図書館にもそれが必要になるだろう」と思い、ラーニングコモンズ的な空間をつくることにした。書架がある空間と利用者同士がコミュニケーションできる場を同居させるのだ。ハードルになるのは、既成の図書館に対する人々の意識だ。それを乗り越える必要があった。

山梨県立図書館 2階通路からメインのエントランス方向に見返す。2階の多目的ホール(200席)は建物角に位置する。

山梨県立図書館 2階閲覧エリアを俯瞰する。9mおきにトップライトの設けられている天井は、弧を描いたトラスが支える。外部を覆うラティス同様、県産物であるぶどうの棚やカゴをモチーフにしたという。

都市のような自由さを与える

「都市のアクティビティをそのまま持ち込めばいいのでは、と考えました。場の雰囲気というものは人の行動や心理に非常に作用します。訪れた人のモードが変わる、あえて図書館らしくない空間に設えました。都市空間では本を読んだり、話をしたり、それぞれが自由に振る舞っている。それをそのまま持ち込むことで互いに寛容になれるのでは、と考えたのです」と野口氏は話す。

メインのエントランスから建物を貫通するオープンで広い通路状の空間は、いろいろな人を受け入れ、自由度の高い、いわば都市における街路や広場だ。吹き抜けを通じて上下にも左右にも視線が通い、そこに配されたカフェや交流ルーム(貸しスペース)、テーブルやソファなどがあることで、他の人のアクティビティへ思いもよらない遭遇がある。「ショッピングモールや空港のコンコースのようにも見えるはず」(野口氏)。この貫通通路を中心にした交流エリアと、1階奥や2階に書架のある閲覧エリアは、区別して運用しているものの一切仕切りはない。静寂が必要な利用者向けには申込制の「サイレントルーム」を2~3階に設けた。

山梨県立図書館

山梨県立図書館左/2階閲覧エリアを見通す。3階に横たわるのは最大の広さを持つサイレントルーム。サイレントルームの近くには外部のオープンテラスを設けている。
上/3階サイレントルーム。


全体は、倉庫のようなワンボリュームの大空間だ。「ICT技術の進歩は著しい。将来的な"情報の取り扱い"というものが読み切れない時代です。床荷重なども考慮した上で、レイアウトが自由にできるようにしてあります」(野口氏)。

また、PC・AVコーナーにはCDショップのようなカラーリングを施したり、児童向けのコーナーには内照式で「まるで宝石のショーケースのように」(野口氏)興味を引くようにつくるなど、利用者の意識を誘導するような仕組みを随所に取り入れた。

「空間がタガをはめないようになっていれば、人間はどんどん自由になっていく。ここでは知的創造活動につながるのであれば、どんなことでもできる、そんな建築です」と野口氏は言う。

山梨県立図書館直径1.8mの「絵本の観覧車」と、奥に読み聞かせのコーナー。「子どもたちが嬉々として来る場をつくらないといけない。児童図書のコーナーはより質の高いつくりとした」(野口氏)。

山梨県立図書館児童図書の書架は一部、ショーケースのように内照式としている。

山梨県立図書館ミニ展示や情報発信をする「情報サテライト」。司書が利用者をサポートする拠点とするなど、「人がメディアとなる情報拠点としてイメージした」(野口氏)。

山梨県立図書館 2階の交流エリア。

影響を与える存在に

「運営に当たり、図書館の組織を変えました」と同図書館次長・深沢修氏は言う。既存の図書館機能に加え、新たに多くの交流スペース・機能を持つ新図書館。施設管理・貸しスペースイベント企画・駐車場などを指定管理者制度によって民間に委託しており、 一つの施設を民間と県で運営を分けている。「自治体の公共施設としては非常に珍しいと思います」(深沢氏)。そのため、交流エリアは、閲覧エリアとは異なり、午後9時まで開館。年末年始を除き、休館日もない(年間340日を開館)。

昨年11月に開館して、半年強で入館者数は50万人を突破した。県が目標とする倍のペースだ。館長に作家の阿刀田高氏を迎え、講演や連続セミナーを催している。映画のロケにも使われるなど、全国的にも耳目を集め、図書館の新しい姿を示したという点で影響力は業界内外に広がった。

駅前の県立図書館という大きな枠組みの中での大胆な試み。「司書の方々とも30回近く打ち合わせを重ね、図書館の定石やルールも守りながら、その隙間でチャレンジさせてもらった。交流エリアと閲覧エリアがもっと渾然一体となれば、より進んだ、面白いことが起きてくれるはずだが、一足飛びにはいかない。まずは、ここから新しい成果が生み出されれば」と野口氏は今後の広がりに期待する。

山梨県立図書館南側正面外観。甲府駅前に立地する。1階右手にイベントスペース、2階左手が多目的ホール。どちらもガラス張りで外部に開いて、活動への興味を促す。奥に山梨文化会館(設計/丹下健三)と隣接する。

山梨県立図書館
西側の外観。ラティスの緑化カー
テンウォール越しに内部が透けて
見える。山並み状の屋根は太陽光
発電と採光を両立する。


DATA

所在地
山梨県甲府市北口2丁目8-1
開 館
2012年11月11日
敷地面積
約4530m2
延床面積
約1万555m2
収蔵可能数
約110万冊
設 計
久米設計・三宅建築設計事務所共同企業体
建築施工
清水建設・早野組・国際建設共同企業体
  • bp vol.12掲載(2013.10発行)