LIBRARY[図書館]天津図書館

大きな余白を積み上げた図書館

天津図書館壁面によるグリッドが多層にずれつつ重なり合う巨大空間。ラーメン構造的な柱梁は存在せず、中国の構造家には理解の範疇を超えていたという。

国会図書館並みの規模

天津市は北京より直線距離でおよそ100km、高速鉄道で30分程度の距離にある港湾地帯で、中国主要都市の一つ。19世紀末期から20世紀初頭に欧米諸国が租界を置き、現在でも街並みはその空気を色濃く残す。

天津図書館は、遊園地があったという90haの巨大な敷地に計画された「天津文化センター」の一角にある。人工池を中心にしたランドスケープに、博物館や美術館、自然科学館、音楽ホール、更にはショッピングモールまでが建ち並ぶという壮大なプロジェクトだ。

天津図書館グリッドで切られたボリュームが図書館の要素を構成する。壁面のサインは廣村デザイン事務所による。白い壁面は、厚みの異なるアルミパネルで表情をつくっている。

天津図書館高さ約6m、長さは全体で約90mという巨大な書架は、空間の象徴的な存在だ。



山本理顕設計工場では、図書館とマスタープランの設計コンペティションに招待され、天津市都市計画設計研究院と共同で参加した。環境性能に配慮した、大小さまざまなボリュームをダブルスキンのガラスボックスが覆うという提案が評価され、当選。しかし、黄砂の影響を受けるという理由でガラス建築は認められず、大幅に設計変更をすることになる。同時に建設される二つのミュージアムと歩調を合わせるように、石の外観に変更を求められた。「コンペではよくあることです」と主宰の山本理顕氏は苦笑いする。

「まったくゼロから設計をやり直したことで、我々ももう一度整理することができました」

蔵書数600万冊というスケールは、日本ならば国会図書館クラス。しかも、一般の市民が貸出利用し、自由に閲覧もできる普通の図書館だ。「中国でしか考えられない」(山本氏)。

天津図書館 1階のエントランスロビー。左手はインフォメーションカウンター。トップライトが白い空間全体を明るくさせている。

天津図書館 5階から吹き抜けを見下ろす。円形のカウンターやベンチが見える。

天津図書館壇状になった書架と閲覧室。

巨大空間と家具が一体に

建築全体を成り立たせているのは、鉄骨トラス構造による壁面。10.2mスパンでモジュールとなり、更にそれらが多層に重なり合うグリッドで空間が構成されている。そのため、明示的な柱が存在せず、切り取られたモザイクのように、高さ27mの吹き抜けを中心にしながら、余白だけがボリュームをつくっている。

1階の南北を抜ける広場状のコリドーからは、多岐に及ぶ奥行きを感じつつ、目を引くのは、巨大な書架がそのまま壁梁となり、30mにわたって上空を走っている光景だ。膨大な蔵書の存在を感じながらも、この場所でしか得られない空間体験がある。「建築の構造と家具を一体に表現することができた」と山本氏も満足げだ。

また、1階にある円形のカウンターやベンチは、藤森泰司氏(藤森泰司アトリエ)によるもので、大空間のエントランスロビーを街路的なスケールで捉えてデザインしており、グリッド状の建築との対比も意図した。藤森氏は書架や内部壁面に貼られたアルミパネルのデザインも手掛けている。

天津図書館
円形のカウンターのディテール。腰はφ12mmのスチールロッド、天板は人造大理石貼りで構成。ロッドはアールを、天板のエッジ部分には勾配を付け、柔らかい存在感にしている。家具や書架の設計・製作に岡村製作所が携わっている。

天津図書館
大型のタッチパネルスクリーンで電子化された新聞を見ることができる。UI(ユーザーインターフェース)もなかなか良好だ。

豊かな環境があるということ

図書館は1階から5階まで、閲覧室や学習室、資料室など多様な機能を備えている。蔵書数やスケールの大きさだけでなく、電子タグによるセルフ貸出や検索はもちろんのこと、大型タッチパネルで全国の新聞が閲覧できるなど、最新の技術も導入されている。

この巨大図書館は、中国の経済発展の勢いを感じさせるものだが、一般市民の文化的成熟度やリテラシーを測ることもできる。

これだけ創造性のある優れた環境で、読書や学習ができることの意味。物質的な豊かさのみならず、精神的、文化的な豊さまでもすでにこの国は得ようとしている。

天津図書館書架で囲われた空間となる閲覧室。

天津図書館
1階幼児向けの読書室。

天津図書館天津図書館外観。外装は花崗岩のルーバーで構成される。「天津文化センター」は一帯が公園のようになっている。

 


DATA

所在地
中国天津市河西区平江道文化中心
建築主
天津港(集团)有限公司
敷地面積
3万7800m2
延床面積
5万8154m2
規 模
地下1階 地上5階建て
建築設計
山本理顕設計工場+天津市都市計画設計研究院建築分院
  • bp vol.8掲載(2012.09発行)