LIBRARY[図書館]小布施町立図書館 まちとしょテラソ

交流するための図書館

まちとしょテラソ書架は館内の中央に置かれ、高さや密度で視線や気配をコントロールする。書架製作は岡村製作所によるもの。

まちとしょテラソ閲覧用の学習デスクのあるスペース。三角形の外周は明るい窓辺の空間が続く。「まわりの環境と溶け合うような景色は、交流の場としてプラスになるのではと考えた」(古谷氏)。

まちづくりにつながる図書館

長野県北部にある小布施町。面積19km2と同県の中で最も小さい町だ。しかし、人口約1万1000人の町に年間延べ120万人の観光客が訪れ、経済波及効果は100億円を超える。

かつてその晩年を過ごした葛飾北斎を始め、地元の豪農商であった髙井鴻山が中心となり、幕末の文人たちが交流する地であった。文化や教育を大事にする風土が残り、それが文字通り、町の源となっている。

新しい町立図書館は、町民への参加を促し、意見・要望を採り入れながら、建設が進められた。設計者そして館長も公募により選定された。

「プロポーザルの要領に、括弧して『交流センター』と書かれていたんですね」。設計した古谷誠章氏(NASCA)は当時を振り返る。

地域のための図書館でもあり、観光客も含めたさまざまな人々が交流する場所。一見、矛盾するような施設の性格に「一層、やる気が出た」と古谷氏は話す。多種多様な人が入り交じることで、暮らしのなかで創造性が高まっていく。それが古谷氏が考える、しかるべき図書館の将来像でもあったからだ。

“交流と創造を楽しむ、文化の拠点”というコンセプトは、当初より基本構想案でうたわれていた。そして「交流」の言葉に惹き付けられたもうひとりが館長の花井裕一郎氏である。

花井氏は、東京で映像作家として活動していたという異色のプロフィールを持つ人物で、2000年に小布施に移住。いわく「図書館のヘビーユーザー」で全く未経験ながらも、25名の応募者の中から館長として選ばれた。

「小布施では、観光も『交流』だと思うんです。結果として、経済的な部分も生み出しますが、外から来た人たちと町民が一緒になって何かを楽しんだり、もてなしたりする。そういう文化がこの町には伝統としてあると思います」

図書館づくりがまちづくりにつながる――その思いが花井氏を駆り立てた。

建物は平屋建てのワンルーム空間で、三角形の頂点の一つに矩形が合わさったような平面をしている。鉤形の敷地に対して、ゆるやかに大きな屋根を架けたことから始まったプランだ。

まちとしょテラソ敷地は、小布施町の役場やホールなど公共施設が集められた一角にあり、図書館は隣接する栗ガ丘小学校の校庭に面している。外観は町の景観条例で屋根の形状や色調などが規定され、周辺環境への調和を求められている。

三角形をゆるやかに仕切る

三角の中心に書架を置き、その周囲三辺を閲覧などのスペースとし、矩形の部分に集密書架や機械室などのバックヤードを当てている。

中央の書架は配置を工夫し、その密度や高さなどで、全体をゆるやかに仕切っている。周囲は多様なソファやテーブルを置くことで、自然にアクティビティーの濃度が生まれる。絵本コーナーや、視聴覚ブース、あるいはちょっとした飲食が許される小さなカフェテーブルもある。子供も大人も、観光客もグループも、タイムシェアすることで全体を使い切れるよう設計されている。

「なんとなく設えがなされているんです。三角のコーナーに置かれたソファはあまり生かされないのでは、と思っていましたが、そこをレクチャーで演壇的に使うと、閲覧席がいい具合に客席になります。おそらく古谷さんは想定していたんでしょうね」と花井氏は感心する。

古谷氏は、設計者として選定された後もどういう図書館であるべきか、というコミュニケーションを町民と重ねた。

「館長が花井さんに決まり、ある責任をもったひとがきちんと判断してくれるようになったので、それはとても大きかった」と打ち明ける。常にオープンなワークショップでのやりとりは、場合によって、図書館をニュートラルで無難なものへと変転させかねなかったからだ。

一方で「古谷先生による建築にほれ込んだ」という花井氏も、古谷氏の描いたものと町民の想像するものとの合致点を見出そうと、町と建築家をつなぐインタプリターとして働き続けた。花井氏からもいくつかのリクエストをし、若干の変更も経つつ、建築のコンセプトは具現した。

まちとしょテラソ絵本と紙芝居のコーナーでは、“読み聞かせ会”のイベントも開かれる。ガラスの壁がカーブを描いた部分は、既存の桜の老木を残すため。

まちとしょテラソ視聴覚ブース。その背後に子供のための絵本コーナーを控えている。

まちとしょテラソ大きなソファが置かれたコーナー部。外の緑もまぶしい。

一つの屋根のもとに

運営面では花井氏の多彩な人脈が奏功した。現役のアーティストを講師としたワークショップ「美場テラソ」などのイベントを開いたり、あるいは小布施の古地図を使って散策のできるiOSアプリを共同開発、はたまた「まちとしょテラソ」のオリジナルキャラクターをつくるなど、既成の枠にとらわれないアイデアを出し続けている。それらの企画も、自分が前に出すぎるのではなく、スタッフを始めとしたさまざまな人々が一緒に作っていくようにしている。「自分の役割はプロセスを引っ張り出し、見えるようにしてあげること」 という映像演出家らしい視点を欠かさない。

「来てくれた人には満足してほしい。僕らは介在しているけれど、それを意識をせずに『まちとしょテラソ』に来て良かったと思ってもらいたい」と花井氏は言う。

“ゆるやかに”“なんとなく”。しかしここでは手段が目的をきちんと達成している。ハードとソフトが一体になったデザインとはこういうことをいうのだろう。大きな一つ屋根のもとに、安寧で 心地良い空気が流れている。

まちとしょテラソ

まちとしょテラソ左/建物の周囲は緑の豊かな散策路となっている。
上/エントランス方向から俯瞰する。エントランス方向から俯瞰する。

DATA

所在地
長野県上高井郡小布施町大字小布施1491-2
敷地面積
約1万511m2
延床面積
約998m2
設 計
ナスカ一級建築士事務所
建築施工
北野・黒崎・小布施建設共同企業体
  • bp vol.4掲載(2011.09発行)