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2017.12.26  取材・文/山下久猛 撮影/山本仁志(フォトスタジオヒラオカ)

つらいと感じる点

──素晴らしい活動でやりがいは大きいとは思うのですが、ものすごく大変ですよね。つらいと感じることもないんですか?

岩田雅裕-近影2

そりゃありますよ。お金ないから(笑)。でもそこはうまく切り詰めるしかないのかなと。そのために日本での仕事を増やしていて、日本にいる時はいろんな病院で休みなくずっと手術しています。


──現地にいる間もずっと仕事してますよね。

だから基本的に僕の休みは飛行機の中だけ。あと現地でたまにほっと休める日ができたりするんですよ。例えば手術を予定していた患者さんが急に体調悪くなって中止になるとか。そういう時は近くのホテルに帰って休んでます。


──驚異的な体力、精神力ですね。

もう勢いで行くしかないですね(笑)。今のところはもってますが、これからどのくらい僕自身続けられるかはわからないですけどね。


──そのために体を鍛えたりしてるんですか?

いえ、トレーニングやスポーツなど何も全くしてません。体力だけは元々あったんでしょうね(笑)。


──もういい加減疲れた、嫌だとはならないんですか?

疲れてるんでしょうけど、あんまり感じてはないですね。


──では活動をやめようかと思ったこともないですか?

この活動自体をやめようと思ったことはないですね。

国内での医療活動

──フリーランス医師としての国内での医療活動について教えてください。クライアントの病院ってどのくらいあるんですか?

今、定期的に治療に行っている病院は8ヵ所くらいですね。個人経営のクリニックから、大きな総合病院までいろんな病院があります。それ以外に年に1、2回、手術だけをしにいく病院まで含めるともっとたくさんあります。

活動範囲は僕が住んでる関西圏が中心で、後は名古屋、東京、千葉などにもよく行っています。


──主にどんな治療をしているのですか?

基本的に手術しかしません。例えばクリニックでは腫瘍の切除、親知らずの抜歯、インプラントなど。総合病院ではカンボジアでやっているようなガンの切除手術や顔の骨折の手術などを行っています。

フリーランス医師と勤務医の違い

──フリーランスと病院勤務との違いは?

岩田雅裕-近影3

収入の安定などいろいろありますが、一番の違いはプレッシャーですね。同じ手術でもフリーランスの方が全然重いです。26年間病院勤めをしてきましたが、今から思えばフリーランスと比べると気楽でしたね。いろんな意味で病院に守られていましたから。でもフリーランスになると全部僕1人の責任でやらなければならない。手術で少しでもミスしたら、もう2度と依頼は来ないでしょう。1回1回が真剣勝負。それは途上国でも同じですけどね。カンボジアやラオスで手術してうまくいかなければ次は呼ばれないでしょうから。

そのプレッシャーはすごいものがありますよ。もちろん病院勤めをしていた時も手術は真剣勝負で緊張感をもって行っていましたが、フリーランスになってプレッシャーがより大きくなったし、質も変わったということですね。常にそんなプレッシャーとともに生きています。

でも幸い、これまで手術してきた病院からいきなりオファーが来なくなったことはないので、大丈夫だろうとは思ってますけどね(笑)。

ラオスの医師と一緒に(写真提供:ウィズアウトボーダー)

ラオスの医師と一緒に(写真提供:ウィズアウトボーダー)

──岩田さんほど何千回と手術をやってきた方でもいまだにそのプレッシャーは感じるんですね。

そりゃ感じますよ。手術では毎回あります。よかったのがフリーランスになる前から途上国でフリーランスと同じ立場で手術を重ねていたこと。だから日本でフリーランスになってもやっていけたのかなと思いますね。


──個人で全部やるとなるとスケジュール管理も難しいのでは?

いつもスケジュール帳とにらめっこですね(笑)。国内でも海外でもいかに効率よく病院を回って手術ができるか、頭を悩ませてますが、これも妻が手伝ってくれているので助かっています。


インタビュー第4回はこちら

岩田雅裕(いわた・まさひろ)

岩田雅裕(いわた・まさひろ)
1960年兵庫県生まれ。フリーランス医師

岡山大学歯学部卒業後、個人経営の歯科医院に就職。1年半歯科医師として勤務後、口腔外科を学ぶため岡山大学病院口腔外科へ。臨床と研究に注力し、年間100件以上の手術を行う。1993年、系列の広島市民病院に異動。33歳という異例の若さで口腔外科部長に抜擢。1997年から医療の遅れている中国湖南省で医療支援を開始。2000年に友人の誘いでカンボジアへ。劣悪な医療環境に衝撃を受け、カンボジアでの医療支援ボランティアを開始。唇裂口蓋裂 や腫瘍、顔面骨折、口腔内・頚部などの手術を無償で行う。2013年、より多くの患者を助けたいと、当時勤めていた岸和田徳洲会病院の口腔外科部長の職を辞してフリーランス医師に。以降、より渡航回数は増加。現在はカンボジアに加え、ラオス、ミャンマー、ブータンなど、年間20回以上通っている。18年間で手術をした患者は 3000人を超えた。現地では治療だけではなく、現地の専門医の育成や、妻とともに子どもたちへの健康指導、生活物資の寄与なども行っている。

初出日:2017.12.26 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの