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2017.11.13  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

新規事業の立ち上げに尽力

──現在の経営者としての安田さんの仕事内容を教えてください。

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昨年(2016年)、株式会社の方は共同社長制にして、元副社長だった人にもう1人の社長になってもらいました。NPO法人の方は僕が理事長のままですが。社長が僕だけだと会議が多すぎて嫌になってきたんです。数字を見て事業をどう伸ばしていくかを考えて戦略を立てるのは得意ではあるものの、好きじゃなかった。

だから今は現場の実務は基本的にもう1人の経営者に任せて、僕は新規事業を立ち上げたり、本を執筆したり、発達障害の研修をやったり、渋谷区と一緒に低所得家庭向けのクーポン制度を作ったり、奨学金付与のため寄付を集めたりということを主にしています。

あと、去年からパレスチナで起業家支援もやっているんです。ガザ地区はイスラエル軍による空爆で町が破壊されて、失業率が高いのですが、復興しようと頑張っている若者がいて。彼らの起業の支援をやっているんです。今は国際機関や民間企業に勤める方々とボランティアでやっているのですが、いずれ何かしらの事業になったらなと思っています。

2016年8月にガザで開催されたビジネスコンテストの様子(安田さん提供)

2016年8月にガザで開催されたビジネスコンテストの様子(安田さん提供)

こんな感じで1、2年後に向けての仕込みが多いですかね。当たるのは半分くらいだと思うので、取りあえず数を撃とうかなと(笑)。

自由な働き方

──働き方としてはどんな感じですか?

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一度、会社の規模がそれなりに大きくなった時、自分のリソースをどこに何%使ってるか稼働管理をしようとしたのですが、そういうのは向いてないのでやめました(笑)。今は好きな時に好きな仕事をして好きな時に休むという感じです。

毎日同じ場所に出社するとかもしてません。それがそもそも苦手なので(笑)。今は家で仕事をしていることも多いです。土日は仕事のスケジュールが入らないので原稿を書いている事が多いですね。

休んでいる時や遊んでいる時も、今後の事業プランを考えていたり、将来的に事業に関連する本を読んでいたりするので仕事とプライベートの区分けは事実上ないですね。

だから働き方としてはストレスがない状態です。でも好きな時に働いて好きな時に休むというのを社員に認めてもらうのが大変でしたけどね。特に大きな会社からうちに転職してくる社員にはなかなか理解されにくい。どうして社長はいつもいないんだとか。最初は自分がおかしいのかなとけっこう悩んだのですが、他の創業社長に話を聞くとみんな同じような感じだったので、今は自信をもって自由な働き方をしています。

生徒が見違えるほど変わるのが喜び

──今、仕事の魅力、やりがいはどんな時に感じますか?

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キズキのWebサイトに掲載されている入塾した生徒たちの体験談

経営者って95%はやりがいなんてなくて、つらいことの方が多いんですよね。確かに会社の売り上げが伸びていくのはうれしかったですが、それも起業して2、3年で、それ以降はあまりうれしさも感じなくなりましたしね。

現場で生徒を教えていた頃はやりがいを見出しやすかったです。例えば元生徒だった子が後に講師になるケースも多いのですが、そういう時はすごくうれしいですよね。支援を必要としていた側から支援する側へ回るというのは素晴らしいことだと思います。

また、困難を抱えている子がキズキに入塾することでがらっと変わることもよくあるんですよ。長年引きこもっていて、最初会った時は手が震えて下を向いて何も喋れなかったんだけど、その後頑張って難関大学に合格したという子は珍しくありません。いじめから学校を辞めた子がキズキを経て大学に行き、アルバイトを始めて貯めたお金でバックパッカーとしてミャンマーやタイを旅するようにまでなった子もいます。その子が旅先のファーストフード店で「自分が引きこもりから脱して、今バンコクにいるのはキズキのおかげだ。それがなければ今頃僕はどうなっていただろうか。まだ薄暗い自分の部屋に引きこもったままかもしれない。いつかキズキのために何かやりたい」とある日Facebookに書き込んでいたり。関わりの少ない生徒からある日「僕が言うのも変だけどキズキを作ってくれてありがとうございました」とメッセージが来たり。やっぱりこういうのはすごくうれしいですよね。

安田祐輔-近影3

今は何ですかね、やりがいって。何かあるかな......。しいて言えば、たまにふらっと代々木や秋葉原の教室に行った時、社員やアルバイト講師や生徒など、たくさんの人々が集まってわいわいやっているのを見た時ですかね。7年前、うつ病になって会社を辞めてひきこもって、そこから何とかしなきゃと思って起業したわけですが、もし起業していなかったらこんなにいろんな人が集まる場は生まれなかったし、起業したから社員とその家族が生活できている。7年前の自分を思うと感慨深いものがありますし、自分がやってきたことに誇りも感じられます。

あとは最近本を書いているのですが、新しいチャレンジなので楽しいですね。来年(2018年)初頭に2冊続けて出る予定です。また、新規事業も「社会にまだ存在していないが、社会が必要としていること」を出す瞬間なので、楽しくやっています。

モチベーションの保ち方

──なかなかやりがいを見出しづらい状況の中で、どうやってモチベーションを保っているのですか?

ダイレクトにやりがいを感じられることを定期的にやるようにしています。やっぱり僕は現場が好きで、社会にとって意味がある事業を新しく立ち上げることがすごい好きなので。

例えばさっきお話したパレスチナでの起業家志望の若者の支援はすごく楽しかったです。彼らを指導したら、見違えるように事業プランがよくなったしプレゼンもよくなった。大変な状況にあるパレスチナで起業していこうという若者を支援することで、彼らの人生ががらっと変わるかもしれない。そういうお手伝いできたというのがすごいうれしくて。

ガザでパレスチナの起業家たちと(安田さん提供)

ガザでパレスチナの起業家たちと(安田さん提供)

僕にとってキズキに来る子の支援もパレスチナの起業家の支援も同じなんですよね。困難な状況の中でもがいている人を支援したいというだけなので。こういうダイレクトにやりがいを感じられることをある程度定期的にやることでモチベーションを保っているという感じですね。

安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)

安田祐輔(やすだ・ゆうすけ)
1983年神奈川県生まれ。キズキ代表

藤沢市の高校を卒業後、二浪してICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科入学。在学中にイスラエル人とパレスチナ人を招いて平和会議を主催。長期休みのたびにバングラデシュに通い、娼婦や貧困層の人々と交流を重ねることで、人間の尊厳を守る職に就きたいと決意。卒業後は商社に4ヵ月勤務したがうつ病で退職。1年のひきこもり生活を経て、2011年キズキを設立。代表として不登校・高校中退経験者を対象とした大学受験塾の運営、大手専門学校グループと提携した中退予防事業などを行なっている。

初出日:2017.11.13 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの