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2016.12.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

大きな転機となった「会津 漆の芸術祭」

関昌邦-近影6

そんな時、大きな転機となったイベントがありました。2010年に福島県主催で開催された「会津 漆の芸術祭」です。福島県立博物館の学芸員が中心になって、初開催のイベントの成功に向け、膨大な業務をこなして準備を進めていました。当時、会津漆器協同組合は、芸術祭の運営協議会には名を連ねているものの具体的な運営には特に関与しない方針のようでした。会津漆器は産業でビジネス。いきなりアートといわれても作家活動をしている職人は別として、どのように組合組織を機能させればいいのか困惑もあったのかもしれません。そんな状況の中、会津漆器協同組合から我が青年部に対して、芸術祭の趣旨説明と興味があれば何かアクションを起こしてみてはどうか、とお誘いをいただく機会がありました。「漆」が冠についているアートフェスティバルは、国内初、つまり世界初。そこで、せっかく福島県が漆をアピールするために従来の枠組みとは異なる切り口で地域を盛り上げるための新しい土俵を作ってくれているのだから、青年部だけでも漆器業界として積極的に動いてみよう、アートなんかわからなくてもいいからとにかく何かやろう、と漆器組合青年部の仲間に呼びかけ、特別委員会を組織して、漆の芸術祭チームを作って動き始めたんです。

青年部員みんなでさまざまなアイディアを出し合い、一般参加型の漆壁画の製作を企画しました。従来は小学校での蒔絵教室など一般参加型イベントの際には、時間の制限やかぶれの心配などから漆を使わず、ウレタンなどの合成塗料を使用するのが通例。しかしこの芸術祭ではあえて漆を使用してみないかと提案しました。最初は参加者の漆かぶれのリスクを懸念する意見もありましたが、できない理由を並べるんじゃなくて、リスクを回避する手立てを尽くそうよと説得しました。


──実際にやってみていかがでしたか?

この時の壁画はまだうちの店の駐車場に残っていますが、6年の時を重ねた風合いがまた学びにもなっています。とにかくこの芸術祭を通したさまざまな経験はとても素敵でした。中でも、商売や儲けとは全く違ったアートという視点で取り組む中、県立博物館の芸術祭をサポートするために、ボランティア参加してくれる漆ラブな町の人たちとの接点が生まれたことは有意義でした。また町全体がアート会場になったことで、町のみんなの間に新しい協力関係ができたり、販売目的の事業ではなかなか経験できない、利害関係のない地域コミュニティの和、みたいなものに触れることができ、参加できて本当によかったと思いましたね。

そして1つ大きな気付きとなったのは、実は市内に散在する漆器店のほとんどは、マーケティングが観光客向け、旅の思い出に買って貰うことを最大目的にした品ぞろえと店構えになっているお店が多いということ。つまり町の生活者の普段使いの暮らしの中で地元の人たちに愛されるような会津漆器を作ったり売ったりしようという意識はあまりなさそうだ、ということ。もちろん、我々が新しい視点で作っていたBITOWAにしてもその点では同じだったと思います。新聞にはパリで行ったBITOWAの展示会が大成功だったと大きく載っているけれど、地元の人たちの日々の暮らしの中で楽しんで使って貰えている事例はあまり聞かない。需要の多くはプレゼント用でしたし、そもそも製作に関わっている自分たちすら暮らしの中に取り入れているアイテムが少ないという現実。今まで数年間、BITOWAでやってきたことはなんだったんだろうと......。この気付きは大きな衝撃でした。

芸術祭に関わったおかげで、地元の人たちに愛され、使ってもらえる会津塗とはどんなものなのかということに考えを巡らせる機会が生まれましたが、丁度、その頃と前後して、アウトドアで気兼ねなく使ってもらえるような漆器ブランド「NODATE」の試作を繰り返していて、第1回の芸術祭の翌1月、NODATEの製品発表を都内のギフトショーで行いました。芸術祭で感じたこの思いは、このNODATEの誕生から発展の中で大切な核になっていったと思います。

アウトドア用の漆器ブランド

──NODATEとはどのようなブランドなのですか?

関昌邦-近影6

NODATEとは「漆のある暮らし・遊び」をコンセプトに新しく生まれた、アウトドア用の漆器ブランド。NODATE=野点(のだて)です。野点とは外での茶会のことで、ブランド名に織り込みました。その第1号として2011年1月にリリースしたのが、ノダテマグ。木製の漆塗りのマグカップです。その後、大小のサイズ展開や皿類、お重、そして折畳みできる超軽量の卓袱台など、お客様のニーズに支えられ、アウトドアで使うための漆製品群がこの5年でどんどん拡充してきました。

──NODATEが生まれたそもそものきっかけは?

私はキャンプやフェスが好きでプライベートでも家族で参加していたのですが、アウトドア用品として売られているアルミ製やプラスチック製のカップや器が味気ないと常々思っていたんです。自然の中に行ったら自然の恵みを道具として用いたい、という単純な思いです。かといって陶磁器だと重いし壊れる心配があり、アウトドア利用には向きません。そこで漆器で作ったらどうだろうと。木は軽くて丈夫だし、熱を通さないから中に熱いものを入れても取っ手がいらない。だからまずは木製のマグカップを作ることにしたんです。つまり自分が使いたいものがないから自分で作ろうというところから出発してるんですよ。

実は構想段階では木製のアウトドアグッズということだけ決まっていて、漆にこだわっていたわけじゃないんです。でも漆の芸術祭の経験で漆じゃなきゃ意味がない、地域のものづくりコミュニティや歴史としっかりリンクした製品を作らないといけないと強く思ったのが「NODATEは漆にこだわろう」と意識したベースなんです。

ノダテシリーズ

NODATEシリーズ

──NODATEの評価は?

ノダテマグは2010年に開発して、2011年1月のバイヤー向けの商談会であるギフトショーで初めて世の中にデビューさせたのですが、想定以上に高評価をいただけました。特に洗練されたインテリアの月刊誌『ELLE DÉCOR(エルデコ)』の目に止まって掲載されたのはすごくうれしかったし驚きました。自社セレクトショップのお手本にしてきたあこがれの雑誌でしたから。それが雑誌に掲載された第1号で、以降、さまざまな雑誌で紹介されました。最初は『サライ』や『BE-PAL(ビーパル)』などアウトドアやネイチャー系でも読者の年齢が高めの雑誌でしたが、徐々に『mono magazine(モノ・マガジン)』や『BRUTUS(ブルータス)』に、そしてアウトドア系ファッション雑誌の王道、『GO OUT(ゴーアウト)』や『ランドネ』などにも掲載されるようになりました。もともとの商品開発ターゲットがファッション好きの青年・女子を想定した商品だったので、このメディア掲載の波はとてもうれしかったですね。

関昌邦-近影10

こんな素敵なうねりが生まれた背景として、アウトドア業界で有名なスタイリストやコーディネーターの方々がノダテマグを見つけて、購入して愛用し、いつの間にか雑誌にさらりと手にして登場してくれたりしていて、その影響はかなり大きかったと思っています。そして、メディア掲載の影響は、多くの方の認知度を高めてくれたので、取扱い店舗の拡大や、アウトドアイベントでの販売拡大に大きくつながりました。

リリースから5年、地元や国内、そして海外の多くの方に支持していただいて、アウトドアといってもピクニックやキャンプだけでなく、古来日本で楽しまれてきた花見などの需要も含め、さまざまな場で楽しんでいただけるブランドとして商品群も充実してきました。

NODATEは、BITOWAの商品開発や海外展示会での経験、漆の芸術祭での気付きなどがあったからこそ、そのブランド方向性が明確に定まり、多くの方々に支えていただけるようになりました。そして今度はNODATEの経験が、逆にBITOWAの新たな商品展開にフィーバックされたり、当社オリジナルで屋内需要に向けて2015年10月にリリースした漆器ブランド「urushiol(ウルシオール)」に受け継がれたりしています。当社が関わる会津塗のアタラシイカタチは、会津の伝統産業である天然の木と漆の素材と刻まれた歴史を活かしながら、今の時代や地域との関係性を深めながらじりじり広がってきていると感じています。


関美工堂の主な受賞歴

  • 日本ロハス大賞2016ノミネート(NODATE tanagocoro)
  • J-Wave デザインアワード2015ノミネート(NODATE Chabu)
  • 経産省The wonder 500 2015・2016年 選出(BITOWA、NODATE)
  • 現代茶湯アワード弐〇壱参 特別賞「利休にたずねよ」賞(NODATE One)
  • グッドデザイン賞2012(しぶいち漆グラス)
  • 国土交通省観光庁 魅力ある日本のおみやげコンテスト2012 シンガポール賞(漆塗りiPhoneカバーcavre)
関 昌邦(せきまさくに)

関 昌邦(せきまさくに)
1967年福島県出身。株式会社関美工堂代表取締役

子どもの頃に観たテレビ番組などの影響で宇宙関係の仕事を志す。会津の高校卒業後、明治学院大学法学部に進学。1992年、衛星通信・放送事業を行う宇宙通信株式会社(現スカパーJSAT株式会社)に就職。DirecTV(現スカイパーフェクTV)の立ち上げなどに従事。2000年、宇宙開発事業団/NASDA(現宇宙航空研究開発機構/JAXA)に出向。将来の通信衛星をどのように社会に利活用できるかを目的としたアプリケーション開発に従事。2003年、会津にUターンし、父親の経営する株式会社関美工堂に入社。2007年、代表取締役社長に就任。BITOWA、NODATE、urushiolなど新しい会津漆器のブランドを立ち上げ、会津塗りの新境地を開拓。その他、自社製品を含めた会津の選りすぐりの伝統工芸品や、世界各地から取り寄せたデザイン性にすぐれるグッズを扱うライフスタイルショップ「美工堂」などの運営を通して、会津の地場産業の素晴らしさを国内外に発信している。

初出日:2016.12.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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