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2016.09.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

日本キリスト教団 新宿コミュニティー教会とは

──現在の活動を教えてください。

中村吉基-近影1

大きくわけて、日本キリスト教団 新宿コミュニティー教会の牧師としての活動と、フリーランスの編集者・ライターとしての仕事の2つがあります。


──日本キリスト教団 新宿コミュニティー教会とはどのような教会なのですか?

日本国内のプロテスタント33教派が「合同」して成立した日本キリスト教団に属する教会で、2004年に私が牧師の資格を取得すると同時に設立しました。私自身のセクシュアリティがゲイだということもあり、一般の方々はもちろん、性的マイノリティの方々も歓迎しています。現在、会堂は持っておらず、礼拝などの集会は新宿5丁目にあるビジネスホテルの会議室の一室をお借りして行っています。礼拝に来てくださった方々に、こちらからセクシュアリティについてお尋ねすることは決してありませんが、感覚としては性的マイノリティの方々とその他の方々の比率は半々といったところでしょうか。


──何となくキリスト教は同性愛を禁じているというイメージがあったのですが、そうではないのですね。

確かに今でもカトリックを中心とした大多数のキリスト教は同性愛に対して嫌悪感を持っていて、特に右派や保守派の中には、聖書では同性愛を禁じていると固く信じている人たちが多いんですね。だから、「ゲイの牧師って大丈夫なの?」と疑問に思う人もたくさんいます。でも私たちはそのように聖書を読みません。事実、聖書には現代の同性愛について指すような記述が一切ありません。にも関わらず、少しでも関連のありそうなことを全く違う文脈で同性愛のこととして抽出して、「聖書では同性愛を禁じている」と読み違えをしているんです。

日本キリスト教団に関しては、そもそも第2次大戦中、国の政策によっていろいろなプロテスタントの教派がひとつにまとめられた教団なので、リベラルで同性愛に関して寛容な人たちもいれば、ガチガチの保守派で絶対ダメだという人びともいるので、教団としての公式見解はありません。だから私たちの教会は教団から何となく容認されているという感じで、ある意味恵まれているような立場です。

ただ、おそらくカトリック、プロテスタント含めて日本のキリスト教の中で、LGBT(レズビアン〈女性同性愛者〉、ゲイ〈男性同性愛者〉、バイセクシュアル〈両性愛者〉、トランスジェンダー〈性同一性障害など心と体の性が一致しない人〉の頭文字を取った性的マイノリティを表す言葉)が自分のセクシュアリティを公言して活動できるのは、かなり限られた教団・教会だと思います。自分がLGBTだと発言しただけで牧師の資格を剥奪されたり、排除される可能性もあります。

私は教会を設立してからも、自分がゲイであることを社会に対して積極的に公言していたわけではなかったので、あまり注目を浴びていませんでした。しかし2014年頃から、社会で少しずつ「LGBT」や「性的マイノリティ」という言葉が認知されるようになってきたことで、LGBTの当事者、しかもそれを公言している牧師はほとんどいないので、いろいろなメディアから取材依頼が増えてきました。2015年には東京・世田谷区と渋谷区で同性パートナーシップ条例が施行されたことで世の中の関心がより高まり、取材依頼がもっと増えました。その背景にはその他にも、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、社会のダイバーシティ化をより推進したいという自治体や政治家の思惑があり、私だけではなくてLGBTであることを公にしているさまざまな人たちがメディアに登場し始めた年だったと思います。


──現在、教会のメンバーはどのくらいいるのですか?

私たちの教会に籍を置いているのは私を除いて12名です(2016年8月現在)。教会員になると教会への経済的な支援、いわゆる献金をします。その額は自由で、牧師1人の活動を支えるためには、最低でも20人くらいは必要だと言われています。当教会のように小規模だと、牧師が副業しなければならないということになります。

私は他に出版関係の仕事をしているのですが、私のようにキリスト教と全く関係ないところで仕事をしているという牧師は少なく、たいていは教会付属幼稚園の園長を兼任しているとか、キリスト教系の学校で教えているとか、牧師という職業の延長線上で仕事をして副収入を得ているという人がほとんどですね。

"副業"ではなく"複業"として

──編集者としてはどのように働いているのですか?

中村吉基-近影2

現在は週日の3日間フルタイムで、通信社で勤務しています。最近までは資格試験のテキストを出版する会社で校正の仕事と、在宅でキリスト教の月刊誌の編集をしていたのですが、牧師としての仕事は毎週日曜日の礼拝と月に1度の「学びと祈り」以外は、時間が決められているわけではなくて、お葬式や来会者の相談など、急に入ってくるものが多いんですね。そういう時にフルタイムで仕事をしていると対応が難しいので少し減らそうと、現在の働き方に変えたわけです。

二足のわらじ状態なので「どちらが本業でどちらが副業なんですか?」とよく質問されるんですが、実は編集・ライターの仕事は牧師になる前から20年以上しているんです。牧師給を補うかたちで編集・ライターの仕事を継続して行っているというのが正直なところです。でも、編集・ライターも大切な仕事ですし、それなりのニーズもあります。牧師としての仕事以外でも自分ができることで社会に貢献していきたいので、「私にとってはどちらも本業で、"副"業ではなく"複"業です」と答えるようにしています。

牧師としての仕事

──牧師としては具体的にどのような仕事をしているのですか?

定期的に行ってる仕事としては毎週日曜日の午前中に開催している礼拝があります。先ほどお話したとおり、私たちの教会には専用の建物がないので、会場を借りています。礼拝の内容はそれぞれの教会によって微妙に違うのですが、基本的にクリスチャンが聖書に書かれてあること、つまり神様の言葉に耳を傾ける日なんですね。それを牧師がわかりやすく噛み砕いてお話しします。基本的には聖書の話なのですが、それに絡めて今社会で起こっていることや、自分の経験談や出会った人の話などいろんなエピソードを話します。聖書は数千年前に書かれたものですが、悩みや問題を抱えた人たちがその話を聞いて癒やされたり、励まされるのです。

教会の日曜日の礼拝の様子

教会の日曜日の礼拝の様子

礼拝は毎週行っているので、説教の内容も同じ話ばかりというわけにはいけません。それがけっこう大変ですね。私の場合は説教の内容を前日までに4000字ほどの原稿にまとめているのですが、お恥ずかしいことに他の仕事で忙しい時は日曜日の朝にようやく完成するということもあります(笑)。その原稿は礼拝で話し終わったらメンバーのメーリングリストで配信しています。その他に賛美歌を歌ったり、お祈りをしたりします。トータルで1時間程度ですね。

その後、参列者の皆さんでお茶をともにしながら談話をします。礼拝にはクリスチャンでなくても誰でも歓迎していますので、初めて参加したという人や教会自体に初めて来たという人も多いんですね。他の教会では初めて来た人に来会者カードを渡して住所、氏名などを記入してもらうこともありますが、私たちの教会では一切していません。聞くとしてもお名前くらいです。昨今は個人情報の扱いが厳しくなっていますし、話せない事情を抱えた人もいらっしゃるからです。先ほどもお話しましたが、もちろんこちらからセクシュアリティのことについても絶対にお尋ねしません。そんなことをしたらこの教会に来にくくなるし、そもそも失礼ですからね。

中村吉基(なかむら よしき)

中村吉基(なかむら よしき)
1968年石川県生まれ。日本キリスト教団新宿コミュニティー教会牧師

幼い頃から教会に通い、高校1年生の時に洗礼を受ける。大阪芸術大学卒業後、郷里の金沢に戻り、高校教師に。上京後は農業系の新聞社で整理記者、キリスト教系の出版社で編集者として勤務。同時にキリスト教系の中学や高校で聖書を教える宗教科の教員免許を取得するために上智大学で聴講し、教員免許を取得。1995年、観光で訪れたニューヨークでエイズ患者が教会から排除されている事実を知り、エイズ患者やLGBTに開かれた教会を設立することを決意。2000年、牧師になるために神学校に入学、2004年、神学校を卒業し、牧師になると同時に日本キリスト教団新宿コミュニティー教会を設立。現在は週日の3日を通信社の編集者として勤務し、日曜は牧師として礼拝を行うほか、結婚式の執行、相談者のカウンセリング、教育機関での講演・講義などの活動を行っている。

初出日:2016.09.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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