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2016.08.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

経営者としての仕事

──鯉渕さんは社長として日々どういう仕事をしているのでしょうか。

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私は当社の代表取締役なので、他の企業と同様、経営方針の策定や経営計画の立案、経営課題の解決、あらゆる局面での最終判断、取締役の意見調整など経営全般に関わる業務を行っています。

現在の経営課題の1つに、「まごころサポート事業のさらなる拡大」があります。そのためにわかりやすいマニュアルづくりや動画作成、研修サービスメニューの作成が重要になってきます。私自身は新聞販売業界については未経験ですが、前職で7年間、法人向け社員研修に携わってきたので、スタッフの育成やマニュアル作成、メニューの拡大といった分野においては、私が責任者として制作のマネジメントをしています。また、新規事業の立ち上げなども行ってきた経験を生かして、この事業を他業界に広めるために、新聞販売店以外の企業とのパートナーシップを生み出すための営業活動や対外交渉も行っています。


──今のMIKAWAYA21の経営者としての仕事のやりがいはどういうところにありますか?

一人ひとりの生活に、直接のインパクトを与えられることですね。まごころサポート事業の1つひとつの案件は草刈りや掃除といったニッチで些細なことなんですが、それらを通して地域の中でいろんなエピソードが集まってきます。例えばある地域に住んでいるおじいちゃんが、最近すごくおしゃれになったと町で評判になったんです。恋でもしたのかな? と噂されるくらいに(笑)。

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そのおじいちゃんのまごころサポートへの依頼は、おばあちゃんが亡くなられて以来、家の整理整頓ができないままになっていたので、片付けを手伝ってほしいというものでした。そこでスタッフがおじいちゃんのお家におうかがいし、綺麗に整理整頓してあげたところ、おじいちゃんのおしゃれな洋服や帽子がたくさん出てきました。実は、おじいちゃんは元々おしゃれな方だったのですが、部屋の中がぐちゃぐちゃの状態になっていたので、好きなお洋服や帽子を身につけられなかったんです。それをきれいに整理整頓して、いつでもすぐに手の届くところに置いてあげたら、元のおしゃれなおじいちゃんになった、という話なんです。


──すごくいい話ですね。おじいちゃんの人生がよりよく変わったわけですからね。

はい。ちょっとしたサポートで、おじいちゃんの人生にすごくいいインパクトを与えられました。こういうことを感じられるのが今の仕事の最大のやりがいであり喜びですね。このおじいちゃんのようにまごころサポートを頼んだ人たちがよりよく変わるということがもっと全国に広がって、1人ひとりが元気になって、より長く自分の家に住んで幸せな生活が送れるようになればいいなと思っています。

しかも、それだけではなくて、まごころサポートのスタッフにも変化が見られるようになります。新聞販売店の方々は今まで仕事をしていてもお客様からありがとうなんて言われたことがないんです。それが、まごころサポートでお年寄りから庭の草むしりを頼まれた時、最初は暑いしつらいなぁと思いながら草むしりをしていたのですが、行く先々の家で休憩や終わった後にお茶菓子を出していただいたり、今まであまり言われなかった「ありがとう」という感謝の言葉を直接聞くことができるようになります。

これによって、販売店のスタッフの方々は、自分自身の仕事にやりがいや喜びを見出せるようになります。さらに、自分は手先が器用だからもっとこういうことがやれると、網戸障子の張替えを自らやり始めたり、得意な大工仕事を生かした新しいサービスを始めるスタッフも出てきます。このように、新聞販売店のまごころサポートのスタッフが初めて自分の仕事を好きになって、どんどん自分からできることを見つけてやり始めたという変化が見られるようになります。これらの現象はまさに、販売店のスタッフの方々自身が、自分たちで新しい街づくりを始めたと言っても過言ではないと思います。新聞業界は厳しいと思っていたけれど、こういういい変化によってまだまだ大丈夫、できることがあるんだという明るい未来が見えるようになってきます。まごころサポートは、受ける方だけでなく、提供する方にもメリットや喜びがあふれているサービスなのです。

さらに、5年後も10年後もこのサービスを継続していくために必要だと感じているのが、「まごころサポート」のさらなる新サービスの開発です。その1つがドローン宅配事業です。

ドローン宅配事業

ドローン宅配事業

──ドローンはここ最近、テレビや新聞、雑誌、Webなどのさまざまなメディアで取り上げられて、すごく注目されてますね。

はい。ドローンの可能性は広く、一時は毎日テレビで見ない日はないというほど注目されていました。またそのおかげもあり、私たちのサービスもうれしいことにたくさんのメディアに取り上げていただき、多くの方から共感の声をいただくことができました。ただ、ドローンはあくまでも「まごころサポート」をさらに広め、継続できる仕組みとするための1つの選択肢だと考えています。


──とはいえ、ドローン宅配事業には興味をもっている人も多いと思うので、詳しく教えてください。そもそも誕生した経緯は?

まだ日本でドローンが注目される前の2014年末に、役員メンバーで話していた時に出てきたアイディアです。それまでまごころサポートの依頼件数は、月に5件から10件ほどだったのが、30件、50件と増えていったことで新聞販売店の配達員だけでは人手が全然足らなくなりました。地域のサポーターを募集したのですがなかなか集まらない。そこで、何らかのテクノロジーの力で、この労働力不足を解決できるのではというのが発端でした。いろいろ検討する中で、家に届けるだけならドローンでできるのではというところから、ドローン宅配サービスは生まれたのです。

とはいえ、ドローン宅配サービスといっても、ドローンが何なのか、またどういうことができるのか、言葉で説明しても伝わりづらい。それであれば、言葉で伝えなくても、この世界観をわかってもらうため、イメージ映像をつくろうということになりました。なので、ドローンをやろうと決めて一番最初に取り組んだのが、当社のWebサイトにアップされているドローン動画なんです。

実は、この動画を撮影した一週間後にドローンが首相官邸に落ちるという事件が起きたんです。このおかげでドローンの説明が一切いらないほど日本中にドローンが知れわたり、私たちにとっては追い風になったかもしれません。特に、ドローン首相官邸落下事件が起こってからの注目度は高く、法律改正やサービス開発なども、官民一体となってすごいスピードで進むようになりましたね。


──ではあのドローン落下事件で、ドローンは危険というイメージが大きくなったり、規制が厳しくなったりして逆風が吹くとは思わなかったわけですね。

そうは思いませんでしたね。確かにあの後、航空法の規制もいろいろできましたが、正しい知識を持った人が、正しい使い方をできる環境を整え、間違った使い方を防ごうというのが今の流れだと思います。例えば、航空法でも「国交省の許可を得ている場合を除き」という一文をあえて入れているので、正式に使用を申請して、安全性の審査さえ通れば何でもできるような環境になっています。逆に言えば、倫理に背いたドローンの使い方をして被害が大きくなるというようなことを未然に防ぐ仕組みになっています。また、世間一般の認知度も上がり、サービスの説明もしやすくなったことを考えると、あの一件は、私たちにとってはプラスだったと思います。

鯉渕美穂(こいぶち みほ)

鯉渕美穂(こいぶち みほ)
1977年東京都生まれ。MIKAWAYA21代表取締役社長

雙葉学園中学・高校卒業後、東京理科大学経営工学部へ。卒業後、外資系大手コンサルティング会社入社。 国内大手製薬会社や公団民営化に伴うプロジェクトに会計コンサルタントとして参画。外資系ソフトウェア会社を経て、人材育成コンサルティングに入社し、法人向けの教育研修事業部のマネジャーとして部署を統括後、シンガポール現地法人のディレクターとして海外拠点を立ち上げ、新規事業推進に従事。2014年10月、シンガポール駐在時代に知り合った友人に請われ、地域密着で子供からシニアまで安心して暮らせる社会の実現に取り組むベンチャー企業「MIKAWAYA21」株式会社の代表取締役社長兼COOに就任。2014年12月に長女を出産。現在は経営者、一児の母として仕事と育児の両立に励む日々。趣味はテニス、ゴルフ、車、茶道。

初出日:2016.08.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの