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2016.07.01  取材・文/ミノシマタカコ 撮影/守谷美峰 イラスト/フクダカヨ

会社とのかかわり

古澤 月に1回くらい全社の会議があるけど、普通の会社とは違いますよね。

島田 クレームや事故の報告とかね。あと社長から今月の目標。冠婚葬祭のお知らせとか。

古澤 今の会社の会議はわかりやすい気がします。前の会社でも会議はあったけど、粗利が○○で目標に対して○%で......といった内容で、9割意味がわかってなかった。今は100%意味がわかる。

島田 確かに意味がわからないってことはないね(笑)。

仕事の楽しさ

古澤 みなさん、左官という仕事のどんなところがおもしろいですか?

イラスト-01 現場は面白い

島田 物を作っているときは楽しいです。カッターを持ってこれを切る、とか、それだけでも楽しいくらい。単純すぎる(笑)?

古澤 私も現場では楽しいことが多いですね。おもしろい人がいたり、休憩時間があったり。何よりパソコンにさわらなくていいのが一番大きいです。

島田 それで前の会社を辞めたくらいだもんね(笑)。そんなに嫌いなんだ。

古澤 嫌いですね。すごいストレスになります。

福吉 仕事は楽しいけど、終わった現場に意識して足を運ぶことはしないよね。他の現場に行くときに通ったりとか、近所で仕事したりといった偶然のタイミングがあれば、目にすることもあるけれども。

島田 でも先日、二子玉川の施工した現場に行きましたよ! 壁が仕上がったときは見たけれど、商品が陳列されている状態で見たら、ほとんど隠れていました......。

福吉 でき上がった後、現場を見に行った方がいいとは思うけど、他にやることがいっぱいあるから休日に行くのは難しいよね。週1日だし。

古澤 たぶん会社員の人が、休みの日に積極的に会社へ行こうと思わないのと一緒だと思います。

島田 休みの日でも、私は旅館の壁とかを目にすると気になっちゃうな。大変だったろうな、とか。

福吉 ああ、それはわかる。よく塗ったなあ、とかね。どうやって塗ったかもわかるしね。

左官の道を選んだ理由

島田 お二人はなぜ左官になったのですか? 前職は別の仕事だったんですよね?

イラスト-02

福吉 私がこの会社を選んだ理由は、女性がいる建築業界の会社を探していて、ホームページで検索したら一番最初に出てきたからだね。

島田 そうなんですか?

古澤 初めて聞いた(笑)。

福吉 左官になろうと思っていたわけじゃなくて、ただ女性がいるという理由だけで入っちゃった。

島田 その前は飲食関係だったんですよね。

福吉 飲食の前に造園で働いていたんだけど、そこが男性2人の中に女性一人だったから人間関係が難しくて。ほかに女の人がいる会社だったら、もっとうまくやれるのかな、と思って仕事探しをしたのよね。

島田 私は最初から左官をやろうと思っていました。

福吉 いつ頃から?

イラスト-03

島田 私の父親が内装業を営んでいるんです。それを見ているからか、小さいころから建築が好きで、子供心に楽しそうな仕事だなって思ってました。そのとき母親から「なるんだったら宮大工になれば?」って言われたんですよ。でも宮大工は特殊な技術が必要だからさすがに難しい。その後左官という仕事もあるんだと知って、そこから「左官がいいな」と思い始めました。

福吉 左官がいいなと思ったのって、いつ頃?

島田 中学生ですね。古い建物も好きだったので、そういうのに携われたらいいなあと漠然と思っていたんだけど、宮大工より左官のほうが身近じゃないですか。

福吉 確かにね。左官の会社は他にもあると思うけど、どうして原田左官を選んだの?

島田 就活のとき、他の左官会社にもアプローチをかけたんですけど、「女性は経験がないと雇えない」って言われたんです。それでホームページ検索したら、原田左官が出てきて。たぶん左官で検索すると1番上くらいに出てくるんですよね。

福吉 へえ、「建築」「女性」の検索でも上のほうだったけど、左官だけでも上のほうに出るんだね。古澤さんは?

建設会社から転職

古澤 私は専門学校卒業後、建設会社に就職して施工管理業務を2年間やっていました。いわゆる現場監督だったのですが、パソコンを使った仕事もけっこうたくさんあって。それが嫌で、もうパソコンは触りたくないなと、左官屋さんになることにしたんです。

イラスト-04

福吉 家から会社、近いんだっけ?

古澤 超地元です。自転車で通ってますね、近さも就職の決め手です(笑)。

福吉 それ、一番いいよね。

島田 でも近いところなら、ほかにも選択肢がありそうだけど。

古澤 専門学校は建築系だったんです。あと前の会社の仕事で、ちょっとだけ左官のおっちゃんに世話になったこともきっかけです。現場に放置されてた私に、「ひかりちゃん、こっち手伝ってよ」とか話しかけてくれたり、世間話してくれたりして。

島田 そういうの、助かるよね。

古澤 あと土間にコンクリートを打つとき、土間をならす様子を見てるのが好きだったんですね。羊羹みたいにまっ平らにツルってなるのを見てるのが好きだったんです。だから転職を考えたときに「左官屋さん、やってみようかな」かなと思いました。福吉さんは?

福吉 私の場合、この会社に就職したのが18、19歳だったから、仕事についてそんなに真剣に考えていなかったな。自分の夢も特になかったし、高校しか卒業してないし。手っ取り早く、お金稼げればいいかなぁという理由で選んだ。「左官」になろうと思っていた二人は、入ってみてどうだった? こんなはずじゃなかった、みたいなことはあった?

島田 うーん、どうですかね。例えば「こんなことするために入ったんじゃない」ってことですよね。思うときも確かにあるけど、それって何の仕事をしていても同じじゃないですか。入ってすぐに、自分が思ってるやりたいことをできると思って入ってないし。私はまだ5年目だし様子見なところもありますね。

福吉 探ってるんだね。

島田 探ってます。実際に、やりたいことができなくて辞めた人もいるしね。

古澤 確かに「イメージと違う」って辞めていく人もいるって社長が言ってました。

女性先輩の印象

福吉 女性の先輩に対して、怖いと思ったりした?

島田 怖かったです。女の人は優しいかなって思っていたら、怖かったです(笑)。

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん

左から島田静恵さん、福吉奈津子さん

古澤 そうですか? 私はみなさんすごく優しいと思いますよ。怖い人はいないかもしれない。

島田 まじかよ! 恐いよ、普通に恐かった。

古澤 どう接したらいいかわからない人はいても、怖い人はいなかったです。

島田 さすがゆとり世代(笑)! 動じないところが特に。

古澤 ゆとりですが何か?(笑) 福吉さんは恐い先輩いました?

福吉 私が入社した時、先輩は2人しかいなかったんだけど、そんなに恐くなかったかな。

島田 でも男女関係なく愉快な人が多いよね。社外ではたまに「女だから」という目でみられることもあるけど、社内ではそういうこともないし。

福吉 ずっと昔から誰かしら社内に女性の左官がいるから、みんな女性がいることに対して「普通」だよね。

福吉奈津子(ふくよしなつこ)

福吉奈津子(ふくよしなつこ)
30歳。神奈川県出身。

高校卒業後、造園、飲食の仕事を経て左官へ。現在11年目。10歳と7歳の子供を育てるワーキングママ。原田左官の産休取得1号。


島田静恵(しまだしずえ)

島田静恵(しまだしずえ)
26歳。東京都出身。

大学で建築を専攻。卒業後、新卒で原田左官へ入社。子どものころから左官を夢見ていた。4年間の見習い期間が終了し、現在5年目。


古澤ひかり(ふるさわひかり)

古澤ひかり(ふるさわひかり)
23歳。東京都出身。

インテリアコーディネイトや建築の専門学校卒業。建設系企業で施工管理として勤務したのち、原田左官に入社。現在2目、見習いとして勤めている。

初出日:2016.07.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの