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2016.04.04  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

金継ぎワークショップ

ナカムラクニオ 近影13

──6次元以外の仕事について教えてください。金継ぎのワークショップとはどのような仕事なのですか?

「金継ぎ」とは、割れたり欠けたりした器を漆で接着し、継いだ部分を金で装飾する伝統的な修復法です。今、金継ぎのワークショップを開催して講師として金継ぎのやり方を教えています。東京近辺だけじゃなくて地方でも開催していて、毎回満員になるほどの人気なんですよ。


──金継ぎを始めたきっかけは?

ナカムラさんが金継ぎした作品

ナカムラさんが金継ぎした作品

僕は元々骨董オタクで長年「開運!なんでも鑑定団」のディレクターをやっていたこともあり、自分でも世界中の美術品を集めていたのですが、ある日気付いたんですよ。割れてると1万円なのに修復すると10万円になる器があることに。どうして欠けていると捨てられるのに直すと高値が付くだろうって不思議に思ったんですが、僕も割れている器を買うことが多いので、それを安く買って自分で直せばいいやと。それで6年前くらいから独学で始めました。やってみたら直す作業自体も地味に楽しいんですよね(笑)。

だから元々は器を売るために金継ぎを始めたわけじゃなくて趣味が高じてって感じなんですが、自分で直し始めたら人から頼まれることが増えてきたので、参加費をもらって教えるワークショップを始めたというわけです。


──金継ぎワークショップの魅力は?

壊れた器が完全に修復できるので、参加者のみなさんにとても感謝されることですね。ワークショップが終わると、参加費をいただいているのに毎回御礼のメールや手紙をたくさんいただくんですよ。だからすごくやりがいがありますね。お金じゃない部分の喜びがすごく大きい。これからもっと本格的に金継ぎを研究して、将来的には金継ぎ職人になりたいと思っているほどです。

金継ぎワークショップの模様

本関係の仕事

──本関係の仕事は具体的にはどのようなことをしているのですか?

ナカムラさんの著作

ナカムラさんの著作

まず自分で執筆する仕事として、アート系の雑誌やWebに連載を6本ほどもっていたり、『イラストレーション』という雑誌の編集もしています。主なテーマは「アート」と「本」ですね。書籍もこれまでに2冊ほど出していて、今年(2016年)中にも何冊か出す予定です。

映像は基本的に放送されたら終わりなので残らないんですが、紙やWebは自分が書いたものが残るという点がすごくうれしいです。そして、執筆者として自分の名前と肩書きがちゃんと掲載されることもうれしいですね。以前、テレビ番組を作っていた頃は、3ヵ月間、すべての時間と心血を注ぎ込んだにも関わらず、制作者として自分の名前が流れるのは、番組終了間際の最後の1秒間だけ。しかもほとんどの視聴者は見ていないという残念な状況でしたから。それだけに小さくても自分の名前や肩書きが紙やWebに載るというのはものすごくうれしいんです。

媒体としては、Webはいつでも見られるので将来的にはおもしろいなと思います。そういう意味では今はWebに一番興味があるんですよね。将来的には6次元で行われてるイベントを動画で配信するWeb放送局を作ろうと思っていて今テスト中です。


──それはすごくおもしろそうですね。

ナカムラクニオ 近影17

僕は元々マスコミにいた人間なのですが、マスコミに逆襲したいという思いがあるんですよ。今は個人でもやり方次第ではマスコミに負けないくらいおもしろいものを作れるし、影響力をもてる時代だと思うんですよね。

あとは出版エージェントのように出版企画を立てて、知り合いのアーティストを出版社に売り込んだり、編集者として本を一緒に作ったりということもけっこうやってます。実はそうやってこれまで何10人も知り合いのアーティストを作家デビューさせてるんですよ。だけどこれはほとんどお金をもらってないので正確には仕事とは言えないですね。おもしろいからやってるだけです(笑)。本だけじゃなくて、イラストレーターと企業を繋いでアート商品を開発したりもしています。

大学講師・町づくりも

──講師としての仕事は?

山形・東北芸術工科大学で教鞭をとっている

山形・東北芸術工科大学で教鞭をとっている

この4月から東京コミュニケーションアート専門学校で小説を書くためのアイディアの出し方やタイトルの付け方について教えています。小説の書き方というよりは発想法ですね。この時もテレビ番組のディレクター時代に培ったノウハウが応用できるんです。例えば、人が1秒間に認識できる文字は10~13文字なんですが、意外と知らないでしょ? だからタイトルは13文字で考えてみようとか、自己紹介はまず1秒間、13文字以内でやってみようという授業をしているんです。小説なんて書いたことのない子にいきなり書きましょうといってもなかなか書けないから、テレビ的な発想をもってくる。そうすると誰でも書けるようになる。これもけっこうおもしろいと思います。

あとは山形の東北芸術工科大学で町全体を一冊の本にするというプロジェクトに関わっていて、定期的に教えに行ってます。授業では学生に町の中にある1つの場所について小説を書いてもらっています。自分たちの住んでいる町について小説を書いて、それを本にして町中の人が読めるというプロジェクトです。先日この本が完成しました。これは町の活性化の一貫として行われたので、町づくりの仕事でもあります。

山形交換読書会

山形交換読書会

町づくりという意味では、去年は北海道の森の中で読書会をやってくださいという依頼があって、町おこしの一環として実施しました。また、青森県八戸市長の八戸を本の町にしたいという意向を受けて、八戸の本屋さんで朝まで小説を書くワークショップをやったり、来年完成する八戸ブックセンターのプロモーションのお手伝いもしました。どちらも多くの地元のマスコミが取材に来て、大きく取り上げられました。

どうしてナカムラは、毎週いろんな地方に行っているんだろうと思っている人も多いでしょうが、こういう事情もあるんですよ。みんなどうすれば地元のことを世間に広くPRできるかわからないのですが、僕はそれが一番得意なので代わりにやっているんです。

つらい過去が今に活きている

──具体的にはどのようにするのですか?

ナカムラクニオ 近影20

例えば、このイベントは何時頃にどこの誰に連絡すれば、○日付けの新聞や○月号の雑誌に載るかとか、○日○時からの番組で放送されるかというのが、テレビディレクターとして20年近くやってきた経験からだいたいわかるんです。マスコミ各社に知り合いがいるので、ネタに応じて連絡したり紹介したりできるんですね。

テレビディレクターを辞める直前は仕事がつらかったはずなのに、結果的に今の仕事にすごく活きているんです。6次元の運営に関しても同じで、テレビ番組を作るとき出演者のキャスティングをずっとやっていたから、6次元もスタジオのセットだとしか思えないんですよ(笑)。イベントもこのセットの中でキャスティングをしているという意識は常にあるし、イベントの内容に合わせて本棚の本も全部並べ替えますしね。テレビ時代にやってきたことが染み付いているのかも(笑)。

だからテレビ時代のつらい過去があったから幸せな今がある。これがこのインタビューで一番言いたいことの1つです。ちょうどいいタイミングで今の仕事、働き方にシフトしたなという感があるんですよね。たまたまだったけど、いろんなことがあって今はすごく恵まれてると思いますね。

ナカムラクニオ

ナカムラクニオ
1971年東京都生まれ。ブックカフェ「6次元」店主。

高校時代から美術活動に取り組む。作品を横尾忠則氏に絶賛され、公募展に多数入賞、個展開催などアーティストとして頭角を現す。大学卒業後はテレビ制作会社に入社。「ASAYAN」「開運!なんでも鑑定団」、「地球街道」などを手掛ける。37歳の時に独立し、フリーランスに。NHKワールドTVなどで国内外の旅番組や日本の文化を海外に伝える国際番組を担当。2008年ブックカフェ「6次元」をオープン。その後オーナー業と平行してフリーのディレクターとして番組制作の仕事も請け負う。現在は「6次元」店主として年間200回を超えるイベントの企画、運営、執筆活動、出版プロデュース、大学講師、金継ぎ講師など、さまざまな仕事に取り組んでいる。執筆業では、+DESIGNINGで「デザインガール図鑑」、朝日小学生新聞で「世界の本屋さん」、DOT Placeで「世界の果ての本屋さん」、IGNITIONで「Exploring Murakami’s world」などを連載中。著作に『人が集まる「つなぎ場」のつくり方‐都市型茶室「6次元」の発想とは』(CCCメディアハウス)、『さんぽで感じる村上春樹』(ダイヤモンド社)などがある。

初出日:2016.04.04 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの