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2016.03.10  取材・文/山下久猛 撮影/早坂正信(スタジオ・フォトワゴン) イラスト/フクダカヨ

除塩に成功

復旧させた農地をバックに微笑む安部社長(右)と佐々木常務(左)

復旧させた農地をバックに微笑む安部社長(右)と佐々木常務(左)

安部 こういう強い味方を得たということも宮城県にちゃんと説明して、なるべくケンカせずに穏便に説得していこうと何度も話し合いを繰り返した結果、4月16日に県から除塩作業の許可が降りたんです。ただし、田んぼの中には海水と一緒に車や家や家具、家電製品、金属類などいろいろな瓦礫が流れ込んできていたので、まず海水の中に基準値を超える重金属類が含まれていないか、それを検査して、含まれていなければ除塩作業に着手しましょうということになりました。

それから待つこと2週間、4月28日の夕方に県から「重金属類は含まれていなかったので大丈夫です」と連絡が入ったんです。それでその次の日からスガノ農機さんと私たち、あと10アール以上の農地をもってる農家の人たちに全員参加してくれとお願いして、みんなでねじりはちまきで除塩に走ったわけです。まずは瓦礫拾いからやってね。大きい車なんかは無理だから残して、可能性のある田んぼから手を付けた。

除塩のポイント

①除塩事業としての圃場確認(地域確定)
  • 暗渠設備があること
  • ヘドロの堆積が2cm未満であり、有害物質が含まれていないこと(公的機関の分析検査)
②土壌分析による塩分濃度の把握
  • 1,000ppm目標
③ガレキ・稲わら・ごみ等の除去握
④揚水・排水機能の確認
  • パイプラインが壊れていないこと
  • 揚水が真水であること
  • 排水機能が確保されること
⑤除塩の工法確認
  • 粘性の強い圃場は、心土破砕を多めに
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除草剤散布

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小ガレキ・ゴミ拾い

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揚水排水施設確認

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3日間浸水

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土壌採取作業

佐々木 もう1つ、たくさんの方々が協力してくれた背景にはこういうこともあったと思いますよ。この地区は津波による行方不明者が多いんですよ。だから当時は本当に一晩寝ないでこの地区のみなさんと議論した上で、除塩作業をしながら行方不明者の捜索もやってたんですよ。今、社長はこういう話を普通にしていますが、それができるようになったのは本当にすごいことなんです。

除塩の方も自分でもびっくりするほどうまくいきました。正直、暗渠管からサーっとヘドロみたいな濃い水が出てきた時は「やったー!」と思いましたよ。

安部 あの排水は海岸を歩いている時に感じる磯の匂いと同じでした。農地で嗅ぐ匂いじゃないよね。水を全部流しきった後、県を交えて田んぼの水を測ったらびっくりするデータでね。海水の塩分濃度ががくんと下がって、県の職員も「これなら問題なく稲が植えられますよ!」と。

震災の年に最高品質の米を作る

震災からわずか3ヶ月後に田植え完了。驚異的なスピード

震災からわずか3ヶ月後に田植え完了。驚異的なスピード

その後、5月25日に田植えを開始して、全部植え終わったのが6月8日。秋の収穫も収量は例年と変わらなかった。もっとびっくりしたのが米の品質。過去にないくらいの高品質で、97.5%が1等米という結果でした。これは田んぼに入った海水のミネラル分のおかげでしょうね。結局、津波をかぶったその年に海水が入った33町ほどの田んぼを復元して収穫までできた。いろいろ恵まれたというか、いろんな面で守ってくれる人がいたおかげだよね。

佐々木 今は震災前の農地の風景に戻ってますけど、当時はあるラインを境にして向こう側は津波に流された車や家なんかで埋め尽くされた瓦礫の農地、こっち側はきちっとした田んぼという二層構造になってました。でもね、苗を植えて、6月頃に青々と田んぼが輝いてくると、みんなの表情ががらっと変わって和らいだ。田んぼを見て、これで落ち着いて米が食える、ありがてえなあと。やっぱりここは農村エリアなんですよ。それが一番印象的でしたね。

安部 みんなのあの顔を見たときはうれしかったなあ。この独特の除塩方式は県の方々が「なるせ方式」という名前をつけて、その後、県内の田んぼの除塩作業の手本になったんです。県とは散々ケンカしたんだけどここまで言ってくれるのかとうれしかったね。

佐々木 次の年は県とすごく仲良くなってましたからね(笑)。

秋には稲が田んぼ一面にたわわと実った。収穫量は例年と変わらず。米の品質もアップした

秋には稲が田んぼ一面にたわわと実った。収穫量は例年と変わらず。米の品質もアップした

お寺の総代長にも

安部 あと震災の話をする時は、もう1つお寺の話もするんですけどね。

佐々木 これしなきゃだめだ(笑)。

安部 この地域にあった長音寺というお寺が本堂も前年に完成した会館も津波で流されて、和尚さんまで亡くなったんです。互助会役員である会長、副会長も亡くなり、300名以上の檀家の方がお手上げ状態になってしまった。私もお気の毒にと思ってはいたのですが、こちらも会社と農業の建て直しをやらなきゃいけないのでそちらの方にあまり気を配れなかったのですが、檀家の方から安部に総代長をやってもらわなきゃ困ると白羽の矢が立ってしまった。お寺は全部流されたけど、偶然にも運河にポカリと浮いていた屋根裏にご本尊がすべて残ってあって流されなかったことから、再建できる可能性があると確信。そして、自衛隊の方々に全部引き上げてもらって、アグリードの社屋に移したんです。

佐々木 アグリードなるせが一時、寺院になってた。

安部 長音寺の仮事務所になってた。常に社内が線香の匂いがしてて、社員のみなさんには我慢してねってお願いして。そんなこともあったね......。

佐々木 当時は総代長の仕事と本業でたいへんでしたよね。社長はいまだに総代長をやってますからね。なかなかできることじゃないと思います。

安部 この地域の住民4200人のうち、この近辺だけでも516人も亡くなってるわけです。そういった中でね、守られてるんですよ、我々は。八丸さんたち含め、震災後に出会ったいろいろな人たちのご縁も、亡くなった方々が結びつけてくれた。そう信じてます。

長音寺の跡地には慰霊塔や墓石などが設置されている

安部俊郎(あべ としろう)

安部俊郎(あべ としろう)
1957年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ代表取締役社長/のびる多面的機能自治会副会長

宮城県立農業講習所卒業後、いしのまき農協(旧野蒜農協)営農指導員として入組。1992年退職し、地域農業発展を目指し、施設園芸を中心とした専業農家となる。2006年、農地を守り、地域と共に発展する経営体を目指して「有限会社アグリードなるせ」を設立。代表取締役社長に就任。東日本大震災時には自社も壊滅的な被害を受けるも、消防団の副分団長として現場で避難指示、人命救助、行方不明者の捜索、避難所への誘導などの指揮を執る。震災の翌月から津波を被った田んぼの復旧を開始。除塩に成功し、その年の秋には米の収穫も果たすという驚異的な復旧を成し遂げる。現在、東松島市野蒜地区で、土地利用型部門に園芸部門、さらに6次産業化施設を加え、次世代の人材育成や雇用促進など地域農村コミュニティの発展に尽力している。

佐々木和彦(ささき かづひこ)

佐々木和彦(ささき かづひこ)
1959年宮城県生まれ。有限会社アグリードなるせ常務取締役/のびる多面的機能自治会執行役員

宮城県立農業講習所卒業後、鳴瀬町役場(2005年から市町村合併により東松島市役所に)に勤務。田畑の塩害対策などに従事。2010年有限会社アグリードなるせ入社。東日本大震災時には安部社長とともに人命救助、行方不明者の捜索、田畑の復旧作業などに従事。現在も安部社長のパートナーとして地域振興に尽力している。


八丸健(はちまる けん)

八丸健(はちまる けん)
1970年鹿児島県生まれ。一般社団法人美馬森Japan監事/80エンタープライズ,Inc.代表取締役社長

地元鹿児島の高校を卒業後、東北大学に進学。入部した乗馬部で馬の魅力にはまり、将来は馬を扱う仕事をしたいとオーストラリア人のホースマンに弟子入り。大学を中退して一関市で競走馬の調教を学ぶ。師匠の乗馬クラブ立ち上げにともない、八幡平市へ移住。

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)

八丸由紀子(はちまる ゆきこ)
青森県出身。一般社団法人美馬森Japan代表理事/80エンタープライズ,Inc.専務取締役

東京での会社勤務を経て、岩手県内のリゾート総合会社へ転勤。交換研修生としてカナダ・ウィスラーのホテルに4ヶ月出向するも、帰国後1年で勤務先の乗馬クラブが突然廃止となる。その後、大手観光農場を経て、乗用馬トレーニングセンターに勤務。

2000年、同じ勤務先で出会った2人は結婚。2003年、馬を活かし、馬に活かされる社会の創造を目指し、80エンタープライズ,Inc.を設立。2004年、八丸牧場を自分たちの手でいちから開墾、オープンにこぎつけた。2011年、東日本大震災発生の翌月、任意団体「馬(ま)っすぐに 岩馬手(がんばって) 必ず 馬(うま)くいくから」を設立。震災直後から、さまざまな子ども支援活動を継続的に行うとともに、馬たちの力を借りて観光体験、地域活性、子どものライフスキル向上などに取り組む。2013年、当団体を法人化し、一般社団法人「美馬森Japan」設立。震災で甚大な被害を受けた東松島市の新たな町づくりの構想に共感し、アグリゲートなるせとともに野蒜地区でのさまざまな復興支援活動に取り組んでいる。

初出日:2016.03.10 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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