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2015.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

大学院卒業後のキャリア

──大学院を卒業してから現在まではどのような仕事をしてきたのですか?

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卒業後は東京都庁に非常勤の学芸員として採用されました。学芸員になるという最初の夢が叶ったわけです。基本的に都庁に勤務して、東京大空襲関連の資料の整理をしていました。非常勤で週4日勤務だったので、山の修行もしつつキャリアを積んでいずれは正規職員の座を狙おうと思っていました。でも4年くらいが経った頃、学生時代から付き合っていた彼女と結婚することになったので、正規雇用を目指して辞職。資料保存のためのマイクロフィルムの撮影、スキャニング、電子化などを手がける会社に正社員として入社しました。職種は営業で、博物館や学校、官公庁などを回っていました。

その会社には7年半勤務したのですが、40歳を迎えるのを機に、山伏として活動しながら生計を立てるためによりふさわしい仕事は何かと考えました。今までの山伏としての生き方と少しでも関わりのある仕事に就きたいと思ったのですが、具体的な仕事はなかなかイメージできなかったんです。それで当時、僕が加入していた生命保険のライフプランナーに相談してみました。ひと通り話を聞いた後、彼は「東さん、生命保険っていつ支払われるものですかね?」と聞いてきました。そのとき「何を当たり前のことを。死んだ時に決まってますよね」と答えたのですが、その瞬間、「あ!」と雷に打たれたような衝撃を受けました。そうか、人が亡くなったらお金が支払われる生命保険の仕事って、神聖といえば言い過ぎかもしれないけれど人の人生にとってすごく重要な部分に触れる仕事なんじゃないかと思ったんですね。だからそもそも生命保険会社って次の仕事としては全く選択肢になかったのですが、この道を行くのは間違っていないんじゃないかと思い、2013年にライフプランナーになったんです。


──生命保険会社の社員としては毎日どんな感じで働いているのですか?

僕は生命保険会社の社員ではありますが、完全歩合制なので個人事業主のようなもの。一般的な会社員の方とは違い、定められた出社日を除き、出社義務や定時がなく、結果さえ出せば基本的に働き方は自由です。その結果を出すことが難しいわけですが。

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働く時間は日によって全然違います。お客様とのアポが朝一のときは朝早く家を出ますし、昼からのときもあります。そこはお客様のご都合次第ですね。ただ、僕はサラリーマン時代が長かったので、あまり自由な働き方は性に合わず、基本的に会社に行くことにしています。だいたい毎日4時半から5時には起きて6時前に家を出て会社に行き、お客様の会社やご自宅を周り、帰宅します。帰宅時間もまちまちで、子どものお迎えがあるときは早めに帰るし、夜のお付き合いがあるときは遅いですね。このへんも自分で調整できます。

一般的な会社員との最大の違いは仕事のメインが土日だということです。やはりお客様の大半を占める会社員の方々にお時間を取っていただき、じっくり人生や保険の話をしようとすると土日しかないからです。ですから土日のスケジュールが空いているとやばいと思います(笑)。というか土日に限らず平日でもアポが入っていないと焦りますよね。働いている方が全然楽です。これはこの業種・職種ならではでしょうね。


──土日が仕事だと家族サービスができないのでは?

確かに小学校に上がったばかりの娘と1日じっくり遊ぶということは難しいのですが、前職と比べると家族といる時間は増えました。妻もイラストや漫画の仕事をしている個人事業主ですし、僕の働き方も自由度も高いし、平日を休みにすることも可能ですしね。


──完全歩合制に対するプレッシャーは?

まだライフプランナーになって2年で経済的に楽になっているとは言えない状況なので、プレッシャーがないわけではありません。でもやればやっただけ結果はついてくるので、やるしかないという思いで仕事に取り組んでいます。

東龍治(ひがし りゅうじ)(法名:瑞龍)

東龍治(ひがし りゅうじ)(法名:瑞龍)
1976年長野県生まれ。

大正大学文学部史学科・同大学院博士前期課程修了。大学院在学中に得度し、山伏に。大学卒業後は東京都、国際マイクロ写真工業社を経て、2013年からソニー生命保険株式会社のライフプランナーとして勤務。平日は会社員として働き、休みの日には山で山伏として修行を行う。妻である漫画家・イラストレーターのはじめさん、小学1年生の娘の3人暮らし。はじめさんのコミックエッセイ『ウチのダンナはサラリーマン山伏』(実業之日本社)でサラリーマン山伏の実情がコミカルに描かれている。

初出日:2015.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの