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2015.07.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

個人も法人も利用

──ビジネスモデルは?

端羽英子-近影7

基本は個人間の相対の取引、いわゆるC to Cです。頼む人とアドバイスする人の直接取引で決まった金額、1回1時間3000円から1万円ほどを支払い、そのうちの3割を当社が手数料としていただいて、7割をアドバイザーさんにお支払いします。謝礼は、webサイト上でクレジットカードで決済。謝礼はいったんビザスクがお預かりし、決済の翌月末に、振込・決済手数料等を含む利用料30%を控除した金額が、ビザスクよりアドバイザーに支払われます。ビザスクが事前にお預かりすることで、万一のトラブル時の返金に対応できるようにしています。ただ、これまでそういったトラブルはほとんどありません。やはり正式に依頼する前に事前に無料でしっかりとやりとりができることが奏功しているんだと思います。

法人利用の場合は取引相手が当社となり、1回1時間5万円で、クライアントから問題と要望をヒアリングして、こちらで最適なアドバイザーを見つけてきて紹介するコンシェルジュというサービスがあります。見積書や請求書の発行も可能です。また、定額の法人契約もあり、契約者数は数十社ほどです。コンシェルジュの場合は、もし私たちが推薦したアドバイザーが適切ではないと判断された場合は追加料金なしで別のアドバイザーを推薦し直します。こちらもこれまでほとんどないですね。

メインは30代半ばの会社員

──アドバイザーとして登録しているのはどのような人なのですか?

登録者の7割強は現役の企業の方で、2割がフリーランス、残りの1割が引退したシニア層。年齢層では35〜45歳が一番多くて約7割を占めています。業種ではヘルスケア、農業、IT等が多いですね。


──クライアントで特に多い業界・業種は?

一番多いのはメーカーですね。一部上場で売り上げ数千億円規模の大企業をはじめ、その他、専門商社等にもご利用いただいています。


──クライアントに大企業が多いことに驚きました。

まず、大企業は資金も豊富ですし、新規事業のニーズも高い。さらに新規事業といっても、すぐ売れるものよりも時間がかかってもいいから将来的に会社を支えてくれる製品を新たに開発するというミッションが多いので、今までの知識や経験では難しいし、身の回りの人に聞こうにも新しい領域になればなるほど難しい。さらに新規事業は会社にとっては機密事項中の機密事項なので、知り合いといえども簡単には聞けない。漏洩する危険性もありますからね。そこで当社に「この分野に詳しい人を探してほしい」という依頼が来るわけです。私たちはクライアントの社名を出さずに詳しい人を見つけてきて、クライアントに紹介。実際に対面か電話でスポットコンサルを受ける段階になってはじめてお互いに名前を明かすという、社名をどの段階で出すかというコントロールができるという利点があります。それがコンシェルジュです。ただ、コンシェルジュじゃなくてWebで公募する際にも匿名で相談することも可能です。

新規事業のニーズが多い

──大企業の場合は社内で解決するか外部のコンサルティング会社に依頼することが多いものだと。

今年(2015年)の3月に大企業で新規事業に取り組む方々に対して情報を提供する場としてオープンイノベーションラボを複数社で立ち上げた際、40社以上の大企業に参加していただき、これほど多くの大企業が社会の情報・知見をどう活用するかというテーマに強い関心を持っていることに驚きました。新規事業のプレッシャーが増せば増すほど社内だけでは解決できない状況が増えているような気がします。


──具体的な事例を教えてください。

まずは「対企業」の場合。クライアントが企業で、社内に必要とする知見がない領域について複数の経験者がアドバイスや意見を提供するケースで、最もニーズが多いのが新規事業の立ち上げや他業界・領域への新規参入、新しい国や地域、顧客層へのアプローチをする際のリサーチです。例えばサプリメントの新規開発プロジェクトの担当者が、初めて人の口に入るものを作るので法規制や安全性についての情報を知りたいと、天然物原料の食品用素材の企画についてのアドバイスを求めるケースがありました。次に多いのが業務改善の相談で、例えば他社よりR&D(研究開発)効率が落ちているから改善の方法を知りたいというケースがありました。また、その他社外メンター、講演、研修などの要望も多いです。

次に「対個人」の場合は、新しい分野へチャレンジしたい個人がアドバイスを求めるケースが多いです。特に多いのが起業相談で、「事業計画や資本政策をどう作ればいいのかわからない」という相談に対して起業経験者がアドバイスや意見を提供します。また、異業種やベンチャーへの転職や、MBA受験、資格試験の勉強方法に関するアドバイスを募る人や、社内異動や新プロジェクトのリーダーに必要なスキルやマーケティングのヒント、プログラミングの方法を得たいなど、知識やスキルアップを目的に募集するケースも多いですね。

経営者としての仕事

──端羽さんは、ビザスクの経営者として日々どんな業務をしているのですか?

「社外ネットワークの活かし方」というテーマのイベントで話す端羽さん

「社外ネットワークの活かし方」というテーマのイベントで話す端羽さん

ひと言でいうと、コードを書く以外は何でもやっています(笑)。一番大きなウエイトを占めるのはビザスクを世の中に広めるための活動です。去年1年間はアドバイザーを増やすことを頑張りましたが、創業3年目の今年(2015年)は法人への営業活動に積極的に取り組むことにしています。ビザスクをより多くの人に理解して使ってもらうために、クライアント先で社内ワークショップを開催することもあります。ビザスクの使い方のほか、社会に埋もれている知見をどう使うか、自分自身の強みをどう発信するかなどについてお話しています。また、積極的にイベントなどに登壇してビザスクのPRに努めています。

端羽英子-近影10

また、「地域を超えられる」こともWebサービスの大きなメリットの1つなので地方のいいものと東京の知恵を繋げたり、地方に進出したい東京の人を地方の人が助けるなど、互いが地域を超えていくサポートもしたいと思っているので、最近では地銀や地方の自治体などにいろんな企画を持ち込んでもいます。

もちろん当社はビザスクというWebサービスがメイン事業で、これをみんなで作っているので、ビザスクをより良くするためにはどうすればいいかを常に考え、改善策を思いついたらエンジニアたちメンバーに提案しています。

加えて最近はファイナンス、資金調達も重要な仕事です。2014年2月にベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達したのですが、今後さらに優秀な人材を雇って規模を大きくしていくためにそろそろ2回目の資金調達に動こうとしていて、その準備をしています。VCへのプレゼンでは今後会社を大きくしていくためにどんな戦略で経営していくか、ビザスクというサービスをどうやって社会に広めていくか、どんなチームを作っていくかという今後のビジョンに加えて、今回は前回のプレゼンで投資してもらってからの実績もアピールしなければなりません。

資金調達は本当に難しいです。なかなか私のプレゼンで納得させることは難しいのですが、いろんな企業、案件を見ている経験値の高いVCの方が、無料でいろんなダメ出しやアドバイスをしてくださるのでとてもありがたいんです。まさにただビザスクです(笑)。

端羽英子(はしば えいこ)
1978年熊本県生まれ。株式会社ビザスク代表取締役社長

東京大学大学経済学部卒業後、結婚。ゴールドマン・サックス証券に入社。投資銀行部門で企業ファイナンス等に従事。入社半年で妊娠し1年で退社。その後女児を出産。USCPA(米国公認会計士)を取得後、日本ロレアルに入社。化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験。夫の留学に同行し家族で渡米。1年間主婦をした後、MIT(マサチューセッツ工科大学)のMBA(経営学修士)コースに入学。2年後MBA取得。帰国後離婚、以来シングルマザーとして働きながら子どもを育てる。帰国後すぐに投資ファンドのユニゾン・キャピタルに入社、企業投資を5年間経験後、2012年株式会社ビザスクを設立。2013年ビザスク正式オープン。知識と経験の流通を変える新しいプラットフォームの構築に日夜奔走している。

初出日:2015.07.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの