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2015.07.01  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

「パパだと思ってね」

──離婚してからは仕事も家事も育児も全部1人で抱えてきたわけですよね。仕事が大好きで真剣に打ち込みたい、でも母親として子育てもちゃんとしたいという気持ちの間で葛藤したことはないですか?

端羽英子-近影4

夫がいるときはさらに「いい妻でいたい」が加わるので3つが重なって大変でした。でも離婚してそれが外れたら、子どもを守るために夫の代わりに働いて稼がなきゃいけないので悩みが1つ減りましたね。娘には「私のことをママだと思うとなかなか一緒にいられる時間がなくて不満も感じるかもしれないけどパパと思ってごらん。そうしたら私相当なイクメンだよ」と発想の転換を促してみました(笑)。シングルマザーの友人に「一人で子どもを育てながら働くのってすごく大変なんだけど」とよく相談されますが、「大変だと思ってるのは自分ですごく高いハードルを設定しちゃってるせいだよ。誰に褒められたくてそんなに頑張ってるの? 自分のことをイクメンだと思ったら相当褒められるレベルだよ」と言っています。


──新卒入社半年で妊娠ということですが、子どもはできるだけ早くほしいと思っていたのですか?

いえ、そういうわけではありません。子どもは授かりものですからね(笑)。


──もう少し後で産んでおけばよかったなと思ったことは?

それはあります(笑)。特に20代の頃は。周りの同世代の友人は仕事に遊びに独身ライフを謳歌しているのを見てうらやましく思ったこともありましたし、一度親になると死ぬまで親なので、親じゃない時期をもう少し楽しんでもよかったかなと思うことがなかったわけではないですが、今となっては早く産んでおいて本当によかったなと思います。もう一度新しい仕事にチャレンジしたいと起業してビザスクのような新しいサービスを生み出せたのも、子どもが成長して余裕ができたからこそですし。さらにこれから子どもが成長するにしたがって仕事に割ける時間も増えるでしょうし、仕事に打ち込める期間もこの先まだまだありますからね。

育児方針

──育児をする上で大事にしていることは?

端羽英子-近影5

うちの育児方針は「3G」です。3Gとは自信、自立、自活。この3つが大事だと娘には教えています。「自信」は、横柄でひとりよがりという意味ではなく、自信をもてれば人に対して優しくなれると思うのでまず基本として自信をつけさせたい。自信は愛されてこそ初めて持てるので娘が物心つく前から「ママはあなたのことを愛しているよ」という気持ちを言葉や態度で伝え続けてきました。だからうちは一般的な家庭と比べて親子で一緒に過ごしている時間は少ないけれど、娘はうっとうしいほど自分が愛されているという自覚はあると思いますよ(笑)。あとの2つは精神的に「自立」して自分で意思決定できて、自分で稼いで「自活」できる人間になってほしいということです。娘には将来好きな人を見つけて子どもも作ってほしいと思っていますが、そのためにもまずはその3Gを身に付けるために頑張ってほしいと思っています。


──お子さんとの接し方で気をつけていることは?

以前、娘とごはんを食べている時に社員からメールが来てスマホを見たとき、すごく嫌な顔をしたことがありました。それ以来、娘と過ごすときはたとえ仕事で気になることがあったとしてもスマホを見ないようにして娘との話に集中するように心がけています。

私の母が専業主婦で、あるとき「お母さんが忙しいと子どもがかわいそう」と娘の前で言ったことがありました。かわいそうとか大変とかネガティブに考えるとどこまでもネガティブになってしまうので、「うちの子はこんなにハッピーにしているし、私が働いている姿を見て自分はこんな仕事がしたいと言っているから、かわいそうなんて絶対言わないで」と母に言ったんです。確かに楽ではないですが、何の仕事をしても大変ですよね。今は仕事よりも娘との時間を優先することもできるし、娘はオフィスに来ようと思えばいつでも来られる環境なので、大変なことばかりではなくて、すごくいいこともありますから。大変と思えば大変だけど、こんなものだと思えばこんなもの。社会人1年目のときと比べれば全然大変じゃないなと思いますね(笑)。

娘とは仕事の話もよくするんですよ。娘からビザスクのロゴについてダメ出しをされたり、会社であった嫌なことを話したら慰められたりアドバイスされたり(笑)。起業する前は私の仕事に全然興味なかったのですが、今は会社にもよく遊びに来るし、自分も一員だと思ってますね。会社に勉強道具をもってきて宿題をしてることもあります。私が起業して働く姿を近くで見せるようになってから、将来はあれになりたい、こういう仕事がしたいと言い始めました。今から働くのがすごく楽しみみたいですよ(笑)。

ビザスクというサービス

──ではその端羽さんが起業して立ち上げたビザスクについて教えてください。具体的にはどのようなサービスなのですか?

端羽英子-近影6

冒頭で「ビジネスに使える知恵袋のようなもの」と紹介しましたが、無料の匿名Q&Aサイトと違うのは、回答者(=アドバイザー)が特定の業界・業種に精通した実務経験豊富なビジネスパーソン、実名制なので情報の信頼性が高い、電話や対面でクローズドに相談できるので安心といった点です。ここがまさに私たちが「ビジネス(企業の意思決定)に使える」とうたっている理由です。つまり、知恵袋の手軽さに、信頼性とクローズドさをプラスしたサービスなんです。

例えば、新規事業を立ち上げるとき、まずはいろいろとリサーチすると思いますが、上司にネットの匿名のQ&Aサイトで聞いたとは言えませんよね。ビザスクなら先ほど説明したような利点があるので、アドバイザーから得た情報に信憑性があるし、稟議書にもどこのどんな人に聞いたのか書けます。2013年10月に正式に運用を開始し、現在ではさまざまな業界・業種・職種の5,000人ほどのアドバイザーに登録していただいています。私自身もアドバイザーとして登録しています(笑)


──利用方法は?

おおまかな流れは、1.ビザスク上でのマッチング(公募・指名・紹介)→2.無料テキストメッセージで確認の上、依頼(決済)→3.対面or電話での面談実施、です。
(※詳しくは→https://service.visasq.com/

端羽英子(はしば えいこ)
1978年熊本県生まれ。株式会社ビザスク代表取締役社長

東京大学大学経済学部卒業後、結婚。ゴールドマン・サックス証券に入社。投資銀行部門で企業ファイナンス等に従事。入社半年で妊娠し1年で退社。その後女児を出産。USCPA(米国公認会計士)を取得後、日本ロレアルに入社。化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験。夫の留学に同行し家族で渡米。1年間主婦をした後、MIT(マサチューセッツ工科大学)のMBA(経営学修士)コースに入学。2年後MBA取得。帰国後離婚、以来シングルマザーとして働きながら子どもを育てる。帰国後すぐに投資ファンドのユニゾン・キャピタルに入社、企業投資を5年間経験後、2012年株式会社ビザスクを設立。2013年ビザスク正式オープン。知識と経験の流通を変える新しいプラットフォームの構築に日夜奔走している。

初出日:2015.07.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの