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2015.06.15  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也 イラスト/フクダカヨ

結果ではなくプロセスを楽しむ

菊池 舞ちゃんの話を聞きながらやっぱり私と性格が似てるなあと思った(笑)。例えば私、編み物とか、単純作業が好きでたまに編むんだけど、基本、完成したら全部ほどくんだよね。マフラーそのものを作りたいという気持ちはあんまりなくて、そのプロセスが楽しいから編む、みたいな。だからもう1回プロセスを楽しむために、できたものをほどいて最初から編む。小さいころからこういう性格で、作ったものとかものに対する執着がない。何時間もかけてものを作るその過程で考えたいろんなことが私にとってはすごく大きな財産なんです。明確には言葉にしにくいんだけど、そういうことって自分の中で大切だなと思う。これって、はたから見たら意味のない行為だよね。ひたすら顔にシールを貼って剥がしてまた貼るというのを繰り返す子どもみたいな(笑)。

小笠原 それわかる。今は結果主義の世の中というか、大人は仕事上で結果を求められるのはしょうがないけど、結果主義を刷り込まれた大人が無意識に結果や成果を子どもにも求めてしまうのはよくないことだと思う。子どもにとってはすごく意味のある自由な時間が、大人の価値基準だけで無駄、無意味となってしまうと子どもは自由に振る舞うことを控えてしまって、結果創造性を阻害してしまうことにもなりかねないなと思うんです。大人は意識的に子どもにプレッシャーをかけずに見守ることができたらいいなと思うのですがなかなか難しい。その辺、何とかならないかなというジレンマがあります。

菊池 それこそ何が無駄で何が無駄じゃないのかっていう哲学的な議論になっちゃうかもしれないけど、本当にそこの部分が不透明なことっていっぱいあると思うんだよね。でもそういうことを考えるきっかけの1つに例えば現代アートがなればいいな、考えることの幅を広げるみたいなものがもっと増えればいいなと思って。そのために「なんで展」のようなものがどういう形で貢献できるんだろうとか、実際舞ちゃんたちが取り組んでいる活動というコンテクストの中でどう働きかけられるのかなとか考えてて、だから今は考えることが楽しいし、実験してるって感じ。結果が見えたら飽きちゃうから終わっちゃうんだよね。飽きていないということはまだまだやることがあるということだから。

今後の展開

小笠原 はい。今後も幼児教育×現代アートというテーマで、こどもみらい探求社の共同代表の小竹めぐみも入り、一緒にやっていく具体的な企画始めています。今回開催した「なんで展」のようなものが常設だったら子どもや大人にもっと伝えられることもきっとあるだろうなとか、逆にゲリラ的にやるかとか話してますね(笑)。公園にトイレットペーパーを設置して子どもがどう行動するのかを観察したりとか。

菊池 今回の学びをより良いものにするためにも、一度っきりでなく編集してさらに良いものを作りたいね。遊び心も大切なんで、今回やったようなインストラクションアートを公共の場に設営したらどうなるかも、舞ちゃんと妄想話たくさんしてます。

小笠原 どっちにしても次はもうちょっと子どもとの距離感を取りたいなと。遊んでる子どもの隣にずっといるんじゃなくて、ちょっとだけ離れて子どもを見守る。子どもが一番自由かつ自然な形でそこにいられるような環境をつくって、保育という面からちょっと仕掛けを入れたら、たぶん「なんで展」当日に起こった出来事とは違う、もっといろんなことが起こるのかもしれない。

菊池 子どもは放っておいても天才的なことをやってるから非常に安心して見ていられる小さな人たち。逆にその子どもの周りにいる大きな人たちに対して、もっとアートを使って働きかけたい。どうすればアートが、舞ちゃんがやってる活動の手助けになるのかなといつも考えているんですが、それは私の専門領域であるアートを使ったコミュニティ・デザイン、エンゲージメントの考え方にも、実は深く繋がっているんだよね。今回できたものを違う環境でやることで、自分のコミュニティ生活環境を考える・学ぶきっかけづくりとしても使えるし。本来自由な発想で生きる人が増えるということは、豊かな街が育まれているって証だから。そのために私ができることは、現場で人と直接関わっていろんな考え方のおもしろさをアートを通じてわかってもらうことだったり、そこを卒業したら違うところに別の形でアートの触れ合いの場やプログラムをつくることだったりすると思う。舞ちゃんもたぶんそういう感じで保育という観点でいろんなことを考えて活動してるんじゃないかと思う。

菊池宏子(きくち ひろこ)
1972年東京都生まれ。アーティスト/米国・日本クリエィティブ・エコロジー代表

米国在住20年を経て、2011年より東京を拠点に活動。アメリカでは、MITリストビジュアルアーツセンターやボストン美術館など、美術館、文化施設、コミュニティ開発NPOにて、エデュケーション・アウトリーチ活動、エンゲージメント・デザイン、プログラムマネジャーを歴任。ワークショップ開発、リーダーシップ・ボランティア育成などを含むコミュニティエンゲージメント開発に従事し、アートや文化の役割・機能を生かした地域再生事業や地域密着型・ひと中心型コミュニティづくりなどに多数携わる。帰国後、わわプロジェクト、あいちトリエンナーレ2013などに関わる。立教大学コミュニティ福祉学部、武蔵野美術大学芸術文化学部の兼任講師、NPO法人アート&ソサエティ研究センター理事なども務めている。現在は、アートを使って見えないものを可視化する活動に取り組むNPO法人inVisibleの設立準備中。



小笠原舞(おがさわら まい)
1984年愛知県生まれ。合同会社こどもみらい探求社 共同代表。asobi基地代表

法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒業。幼少期に、ハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道へ進む。大学生の頃ボランティアでこどもたちと出会い、【大人を変えられる力をこどもこそが持っている】と感じ、こどもの存在そのものに魅了される。20歳で独学にて保育士国家資格を取得し、社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくり、2012年にはこどもの自由な表現の場として“大人も子どもも平等な場”として子育て支援コミュニティ『asobi基地』を立ち上げる。2013年6月「NPO法人オトナノセナカ」代表のフリーランス保育士・小竹めぐみとともに「こどもみらい探求社」を立ち上げる。保育士の新しい働き方を追求しつつ、子育ての現場と社会を結ぶ役割を果たすため、子どもに関わる課題の解決を目指して、常に新しいチャレンジを続けている。




取材協力:
Ryozan Park大塚「こそだてビレッジ」

国際結婚をしたオーナー夫婦(株式会社TAKE-Z)が運営し、保育士や現役のママさんたちが協力して作り上げている、新しいタイプのコワーキングスペース。 ここで作られるコミュニティの目指すものは「拡大家族」であり、その中で、各々の家族のあり方や働くママさんの生き方に今の時代に則した新しい選択肢を与えること。コピー機、スキャナー、プリンター、Wi-Fiも完備、会社登記のための専用住所レンタルといったサービスも完備されている。利用者募集中。
東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル5F,6F,7F
tel:03(6912)0304

初出日:2015.06.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの