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2015.05.18  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

農業を6Kから3Kへ

そこで、今までは生産して出荷するまでが農家の仕事だったけれど、その後の流通も考え、マーケティング、営業、販路の拡大、商品開発といった生産からお客さんの口に届けるまでを一貫してプロデュースできれば価格決定権を自分で持ち、消費者の声を直接聞くことができる。そうなれば、農業がとても魅力的な仕事になる。従来の、きつい、汚い、かっこ悪い、臭い、稼げない、結婚できないという6K産業を、かっこよくて、感動があって、稼げる3K産業にできる。そうひらめいたとき、会社を辞めて実家に戻り親父の後を継いで養豚農家になろうと決意したんです。

しかし、すんなり実家に戻れたわけではありません。昔ながらの養豚農家である父に自分の考えを話しても「お前の言っていることは地に足がついていない」「理想論だ」などと反対されました。ですが、盆や正月などことあるごとに実家に帰って説得していたら「そこまでいうなら勝手にしろ」と言ってくれたので2005年、会社を辞めて実家に戻ったんです。実家に戻って驚きました。僕より2カ月先に弟が勤めていた外食チェーンを辞めて親父を手伝っていました。兄弟2人分の給料はうちでは支払えないなと思って途方に暮れました。

バーベキューマーケティング

──そこから具体的にはどうしたのですか?

生産現場は弟に任せて、実家に戻るきっかけとなった学生時代にやったようなバーベキューをやろうと思いました。うちの肉のおいしさを直接お客様に伝える一番いい方法だし、お客様からの喜びの声も直接聞くことができる。さらに自分で価格も決められます。当時の実家が抱える2つの問題点が一気に解決できると思ったんです。そこでそれまでに知り合った友人800人にバーベキューをやりますというメールを配信したところ、大勢の人たちが参加してくれて、学生時代の友人と同じようにとてもおいしいと感動してくれました。丹精込めて作った豚肉を目の前でおいしいと言いながら食べてくれるお客様の笑顔を見て、うちの親父もとてもうれしそうでした。毎月開催したバーベキュー大会はその後口コミでどんどん広がり、今や3カ月待ちという状況にまでなったのは先にお話した通りです。

大人気のみやじ豚バーベキュー

バーベキューは思わぬ効果も生み出してくれました。バーベキューを通していろいろな人と知り合いになり、レストランを紹介してもらって肉を卸す話が決まったり、イベントを開いてうちの豚を食べる機会を作ってもらったり、メディアに紹介してもらいました。うちの名前をとって「みやじ豚」と命名し、売り方もこれまでの作り手の顔も買い手の顔も見えない売り方から、オンラインショップを開設して直接インターネットで販売したり、飲食店に卸したり、銀座松屋で販売を開始しました。こんな感じで僕はプロデューサーとしてみやじ豚のブランド化を図り、流通経路を変えて販路を広げ、取り引き先を増やすということをしていったのです。とはいえありがたいことに、ほとんど紹介紹介で僕自身ほとんど営業はしませんでした。

バーベキューをはじめてすぐに「これはいけるな」という手応えを掴みました。1年後の2006年に株式会社みやじ豚を設立。2008年には父や弟がおいしい豚を育てる努力が実って、農林水産大臣賞を受賞。同業者からも「神奈川のトップブランドはみやじ豚だな」と言われるようになりました。そして2009年には売り上げが株式会社化する前の5倍になりました。みやじ豚をはじめて5年目でやっと、サラリーマン時代3年目の給料を越す収入を得られるようになりました。とはいえ、同期は僕よりももっと高い給料をもらってるはずですが(笑)

だけど僕の夢はあくまでも日本の農業を変革し、かっこよくて、感動があって、稼げる3K産業にすることなので、うちだけが成功しても不十分。それで2009年に農家のこせがれネットワークを立ち上げて、これまでお話してきたような活動をしているというわけです。


──これまですべて宮治さんの思い描いた通りになっているという感じですごいですね。

いえいえ。僕はこれまで戦略的に物事を考えて実行してきたというわけではないんですよ。いつも行き当たりばったりで、何となくこういうことをやればいいんじゃないかなと思ってやってきたことが運良くはまってるという感じでしょうか。

宮治勇輔(みやじ ゆうすけ)
1978年神奈川県生まれ。株式会社みやじ豚代表取締役社長/特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク代表理事

2001年、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社パソナに入社。営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年6月に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年9月に株式会社みやじ豚を設立し代表取締役に就任。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げる。みやじ豚は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「特定非営利活動法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準作りに挑戦する。農家とこせがれのためのプラットフォーム作りに取り組むほか、農業に力を入れる地方自治体のPR活動の支援、若手農業者向けの研修、講演などで全国各地を飛び回る。2014年10月には悩める農家のこせがれが帰農をあきらめず、一歩を踏み出すため仲間を得て自信をつける場「REFARM会議」を開催。2015年3月に第1回を開催した。2009年11月、初めての著書『湘南の風に吹かれて豚を売る』を出版。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。

初出日:2015.05.18 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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