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2015.04.21  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

Happy Workplace Programとは

2014年4月に開催したHappy Workplace東京セミナーにて

──前編、中編ではお二人の現在にいたるまでの経緯をお話いただきましたが、後編では現在の具体的な活動について詳しく教えてください。まずHappy Workplace Programとはどういうものなのですか?

大和茂さん(以下、茂) 「Happy Workplace Program」とは、タイ政府専門機関タイヘルスが開発した職場健康づくりプログラムの総称です。具体的には、タイの文化や価値観を多分に反映させた「Happy8」と呼ばれる下記8つの項目から構成されており、これらの多面的なアプローチを通して、従業員の身体的・精神的な健康増進及び幸福度向上を目指しています。

■Happy8とは
1.Happy Body:心身共に健康な体を作る
2.Happy Soul:道徳心と信頼を培う
3.Happy Relax:リラックスする時間を持つ
4.Happy Heart:親切心と思いやりを持つ
5.Happy Brain:生涯学習を促進する
6.Happy Money:適切なお金の管理をする
7.Happy Family:社員の家族にとっても幸せな環境を構築する
8.Happy Society:充実した社会の実現及び周りの人をいたわる

タイ社会において「Happiness(幸せ)」という概念は、とても重要視されています。例えば、タイ政府として「幸せ」をタイ国民の「健康」を構成する重要な要素の一つと位置づけています。これを職場という観点で考えてみると、「Happy8」は、快適で健康な職場の基本コンセプトと言えます。また、上記7の「Happy Family」や8の「Happy Society」があるように、従業員本人の健康や幸福だけではなく、従業員の家族や会社を取り巻く地域社会も「Happy8」の対象となっていることも特徴です。

大和亜基さん(以下、亜基) タイヘルスが公式発表している「健康づくりに関する10ヵ年計画」の中に「国民の幸福度向上」を明確に謳っているくらいですからね。

タイヘルスの公式プロジェクト責任者

──茂さんはそのHappy Workplace Programをタイ国内外の多くの組織に普及させるために発足した「Happy Workplace International Project」の責任者ということですが、具体的にはどのような活動をしているのですか?

 「Happy Workplace International Project」チームは日本人とタイ人の専門家で構成されており、在タイ外資系企業の外国人経営幹部への説明やHappy Workplace Program導入に伴う支援をしています。特に、タイの外資系企業の中でも会社数が多い日系企業へのアプローチには力を入れています。また、海外におけるタイヘルスやHappy Workplace Programの情報発信も私の重要な役割の一つで、海外の国際会議や各種メディアを通した情報発信にも注力しています。アジアを中心とした各国の保健省担当者や国連のWHO(世界保健機関)などがタイの職場健康づくりを視察に来た際の対応や協業検討なども私が担当しています。

タイヘルスを訪れた東南アジア各国の保健省幹部やWHO(世界保健機関)職員にHappy Workplace Programを説明する茂さん

──現在Happy Workplace Programを導入している企業はどのくらいあるのですか?

 継続したPR活動のおかげで、タイ全土で、民間企業、政府系組織、大学、寺院など含めて2000組織は超えています。しかしながら、導入している組織の特徴の一つとして、タイ人の経営トップが、タイヘルスとHappy Workplace Programの理念に強く共感し、経営戦略の一つとして同プログラムを推進しているということが挙げられます。一方で、外国人が経営トップに付いている在タイ外資系企業においては、未だに普及は限定的というのが実情です。昨年一年間をかけて、ようやく一部の在タイ外資系企業の外国人経営層にも正しく認知してもらえるようになりましたが、今後もより多くの経営層に知っていただく機会を作りたいと考えています。

具体的な普及活動

──タイの国内でHappy Workplace Programを導入する会社を増やすために具体的にはどういうことをしているのですか?

 大きく2つあります。1つは在タイ外資系企業で働く外国人経営層の意識喚起を目的とした取り組みです。具体的には、定期的に経営層向けセミナーやワークショップを英語または日本語で開催しています。セミナーでは、タイヘルスが取り組んでいるHappy Workplace Programの理念や導入事例などを紹介しています。また、講演会や国際会議などに呼ばれることもありますので、そのような機会も活用し、できるだけ多くの方々にHappy Workplace Programの情報を届けることを心がけています。もちろん、必要に応じて経営者を個別に訪問し、英語や日本語で丁寧に説明を行い、タイで働く外国人経営層が持つ疑問にしっかりと回答するようにしています。もう1つは、メディアや学術論文を通した情報発信です。例えば、タイの日本人向けビジネス誌などからご依頼をいただき、Happy Workplace Programに関する記事を執筆しています。また、研究者としては、日本産業衛生学会などの学会誌に研究論文という形でHappy Workplace Programを紹介することも行っています。

Marimo5の活動

──「Marimo5」ではどのような活動をしているのですか?

Marimo5が提供する社員食堂のシェフ向けトレーニング

 企業などにおいて、タイ人従業員の健康づくりを実現するための健康教育プログラムを開発・提供するのがMarimo5の主たる取り組みです。具体的には、「食」に軸をおいており、従業員向け食育ワークショップや社員食堂がある企業様向けには、社員食堂シェフトレーニングや健康メニュー開発などのサービスを提供しています。また、職場健康づくりに関係する企業との商品・サービス開発なども今年は力を入れています。

亜基 夫と一緒に事業を始めて職場訪問の機会が増えたことで、タイにおける肥満人口の多さに驚きました。最近の調査では国民の4分の1が肥満という結果が出ています。その肥満問題をなんとかしなければならない、そのためにこれまで私個人やMarimo5で取り組んでいた健康や食育に関する活動が役に立つのではないかと考え、サービスとして提供しはじめました。


──Marimo5におけるお二人それぞれの役割は?

亜基 役割分担という意味では、食育ワークショップなどをタイ人栄養士や専門家と一緒に実際にオペレーションするのは基本的に私が担当しています。その他サービスも「食」に関する部分は、私が中心となって開発しています。あとはウェブサイトやSNSを活用した情報発信などの広報活動は、私が担当しています。

 私の方は、経営全般に加え、政府や企業との提携交渉、国際展開に向けた戦略立案、新たなビジネススキーム構築などを担当しています。

NHKにも取り上げられた昨年9月の経営層向け食育ワークショップの様子

大和茂(やまと しげる)
1978年東京都生まれ。Thai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者/Marimo5代表

株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイヘルス公式プロジェクト責任者に就任。2007年から約5年駐在員として働く一方で、チュラローンコン大学労働経済学修士課程修了。帰任後は、ICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。 健康的な職場と企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程在籍中。

大和亜基(やまと あき)
1978年広島県生まれ。Marimo5副代表/食育アドバイザー

大学卒業後日本テレビに入社。報道カメラマンとしてキャリアのスタートを切ったが、激務のため大腸疾患を発症し入院。以来、食と健康についてワークショップを開くなど勉強に励む。広報部に所属していた2007年、夫の茂さんのタイへの赴任辞令にともない日本テレビを退社。タイへ移住。2008年頃からタイ人とともにタイの有機農家と在タイ日本人をつなげる任意団体Marimo5を発足、活動を開始。現在はタイの職場で働く人の肥満問題の解決、健康増進などのソリューションを提供している。

※2015年5月にHappy Workplace Programとオカムラのオフィス研究所が取り組んでいる日本の職場、働き方に関する最先端の研究を発表予定

初出日:2015.04.21 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの