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2015.03.19  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

仕事のやりがい

──では仕事のやりがいはどんなところに感じますか?

何か自分にできることをして、その結果誰かが困っている状態から脱してよりよい状態になって喜んでくれることにやりがいを感じます。医師が治療した人がよくなってうれしいとか、先生が教育した子どもが成長してうれしいというのと同じで、成果がすごくわかりやすいので、自己実現感も得られやすい職業だと思います。

例えば山谷に流れ着いたあるホームレスの方は、私が法律相談を受けた時には、顔は垢で真っ黒、髪もヒゲも伸び放題で本当にボロボロの格好をしていました。それが生活保護を受給できるようになって3ヶ月もすると、髪の毛を切って髭も剃って血色もよくすごくこざっぱりした格好になって、わざわざ私のところに御礼を言いに来てくれました。あまりに様子が変わっているから、言われるまで誰だかわからないということもありました。また、そうやって復活した人が、支援する側に加わってくれることもあるんです。ボロボロの状態から立ち直って人としての尊厳を取り戻すだけでも十分うれしいのに、さらに困窮してる人を支援する側に回ってくれるというのは言葉にならないくらいうれしいことですよね。

また、先日も寒い夜に神保町の脇道で土下座するように倒れこんで固まっている40代半ばくらいの男性を見かけました。思わず声をかけてみると、1週間何も食べず街を放浪しているということでした。いくら日本も格差社会が広がっているといわれていても、行き倒れている人に実際に出くわすことがあるんだと驚きました。取りあえず近くのコンビニに連れて行って、おにぎりなどを買って食べてもらい、同時にもやいや山友会などのホームレス支援の団体に連絡。その日は、私の事務所の前のビジネスホテルに泊めて、翌朝もやいに連れて行って福祉に繋がりました。

こういうことができたのも、私が弁護士として生活困窮者支援に関わっていて、もやいや山友会などの福祉につなぐ場所を知っていたからです。そこでこのような人をたくさん見てきているので、どうすればこの人がこの後生きていけるかというイメージがわくんです。ものすごく寒い夜だったので、あのとき私たちがあの場所を通りかからなかったら彼は本当に死んでいたかもしれない。彼をなんとか福祉につなげられたというのはすごくうれしいですよね。こういうことも弁護士としてのやりがいなんじゃないかと思います。厳密にいえば弁護士の仕事かどうかはわかりませんけどね(笑)。

自由な働き方

──弁護士事務所の経営者として、また一弁護士としての仕事、SAFLANの仕事など、さまざまな活動をしていますが現在はどのような働き方をしているのですか?

当事務所には出社時間やコアタイムなどはありません。何時に来て何時に帰ってもいいし、1週間くらい事務所に来なくても事務所としては問題ありません。そういう意味では自由な勤務環境ですね。もちろん仕事をきっちりやることは大前提ですが。

私の場合はどちらかといえば朝方なので早めに出社して午前中にメールチェックや裁判所に提出する書類作成などやらなきゃいけない仕事はできるだけ終わらせるようにしています。午後は裁判所に行ったり、各種打ち合わせや会議をしたり、書き物をしたり。夕方以降は勉強会や懇親会に出席していることが多いですね。週のうち1日はいわゆるノー残業デーを設け、家で家族と夕食をとれるようにと心がけていますが、達成率は半々くらいでしょうか。なかなか理想通りにはいきませんね。


──ワークライフバランスについてはどうお考えですか?

私は仕事とプライベートのバランスが取れてないと無理なので、いろいろな仕事はみんなで分担して、きっちり休日と余暇の時間を取るようにしています。基本的には土日が休みなのですが、主に子どもと遊んでいます。オートキャンプなどにもよく行きますね。もっとも、SAFLANの活動などで土日に法律相談会や集会、学会などが入ることもあるので毎週必ずというわけにはいきませんが。

自分で時間をコントロールしたい

──働き方に関して大事にしていることは?

自分で自分の時間をコントロールしたいということですね。そもそも学生時代から独立したいと思っていた最大の理由はこれなんです。会社組織の中にいると収入は保障されますが、どうしてもこの点が難しくなりますよね。だから最初に人の動きが流動的な外資系企業に入ったし、その後に弁護士になって事務所を立ち上げたわけです。おかげさまで今はそういう働き方、生き方が実現できているので幸せです。


──いわゆる組織の一員として決められたルールの元で働くというのが性に合わないということでしょうか。

というよりも、基本的に他人にああしろこうしろとあまり強制・干渉したくないし、されたくもないんです。ただ、強制・干渉を拒むということは裏を返せば手厚く手助けしてもらえないということ。私はその方がいいのですが、言われたことはきっちりやって判断自体も相手に委ねる代わりに、もっと手取り足取り面倒を見てもらいたいというタイプの人はうちの事務所は合わないかもしれないですね。弁護士として自立してやっていける人じゃないと厳しい。個人事業主の集まりですからね。


──今後の夢や目標を教えてください。

自分自身の夢や目標、これから成長したいとか何かを成し遂げたいというのはあまりないんですよね。これからも目の前に来た球を打ち返すようなスタンスは変わらないと思います。結果的にはその繰り返しの中で多くの人と出会い、自分の成長にもつながってきたんじゃないかと感じています。ただ最近特に思うのは、先ほども少し触れましたが、「再生産」には意識的に関わっていきたいということです。長男が小学生になったからもしれませんが、自分の次の世代が生きていく世界が気になるんです。

というのは、オウム事件や阪神淡路大震災が起こった1995年くらいから世の中がどんどん悪くなっている、具体的には社会が不寛容になっている気がしているからです。私の子ども時代、1980年代の日本って史上空前のいい時代だったんじゃないかなと思うんですよ。あの空気感を次の世代に少しでも残したいと思うし、その中で平等に成長の機会を与えられて、よりよい社会を作っていけるように健全に育ってほしい。そのお手伝いが少しでもできればいいなと思っています。

河﨑健一郎(かわさき けんいちろう)
1976年埼玉県生まれ。弁護士/早稲田リーガルコモンズ法律事務所共同代表/福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)共同代表

早稲田大学法学部卒業後、1999年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)入社。経営コンサルタントとして人事や組織の制度設計などに従事した後、2004年に退社し、早稲田大学法科大学院(ロースクール)に入学。2007年、同大学院修了、同年司法試験合格、新61期司法修習生に。2008年、弁護士登録(61期)東京駿河台法律事務所に勤務。議員秘書も経験。2011年3月11日の東日本大震災発生直後から現地にボランティアに赴く。7月には「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)」を共同で設立し、原発事故に伴う避難者の方々への支援活動に取り組んでいる。2013年3月 早稲田リーガルコモンズ法律事務所を設立。経営の仕事のほか、弁護士としても活動中。得意分野は中小事業者の経営相談全般、および相続や離婚、子どもの問題などの家事事件全般。特定非営利活動法人山友会の理事を務めるなど、生活困窮者支援にも積極的に取り組んでいる。日弁連災害対策本部原子力プロジェクトチーム委員、早稲田大学法科大学院アカデミックアドバイザーなど活動は多岐にわたる。『高校生からわかる 政治の仕組みと議員の仕事』『避難する権利、それぞれの選択』『3・11大震災 暮らしの再生と法律家の仕事』など著書多数

初出日:2015.03.19 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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