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2015.01.05  取材・文/山下久猛 撮影/大平晋也

国内外で公演

──現在、落語は大阪近辺でやることが多いのですか?

やっぱり一番多いのは関西ですね。東京にも行くことありますし、日本全国どこへでも行きますよ。


──日本で英語落語をするときに心がけていることは?

いつも、見に来てくれたお客さんみんなに英語落語を楽しんでほしい、100%満足してほしいと思っています。それが一番大事なこと。だから全部英語でやるんじゃなくて、そのとき会場にいるお客さんに合わせています。例えば子どもや年配の方が多いときは日本語を多めに混ぜたりゆっくり喋ったりします。だから英語に自信がなくても、一回英語落語を聞きに来て、自信を持つようになる人も結構いるようです。そういうネタを選んでやっています。


──英語落語は海外でもよく公演しているんですか?

はい。デビューの翌年には米国で、2001年には英国で公演しました。他にもこれまで、インド、フィンランド、ノルウェー、エストニア、ドバイなどで落語を演じてきました。これからもっともっといろいろな国で落語をやりたいと思っています。


──外国人は落語を理解できるんですか?

それは最初、私も心配していました。私の落語でアメリカ人は笑うかなと。でも全然心配する必要なかった。やってみたらアメリカ人も日本人とだいたい同じところで笑ったんです。これは落語のいいポイントね。落語はジョークで観客を笑わせるスタンダップ・コメディじゃなくて、ストーリーテリング・ウイズ・コメディ。ビギニング、ミドル、エンディング、ちゃんと起承転結のストーリーがあるからみんなわかるんです。その間にちょいちょいジョークを挟んで笑いを取る。

もちろん日本語をそのまま英語に直訳してもわからない部分もあるので、ちょっと変えます。駄洒落とか言葉遊びとかですね。日本のことをよく知らない外国人には「まんじゅう恐い」のネタはわからないでしょう。外国にはまんじゅうがないから(笑)。だからまんじゅうを鮨に変えるなどしてときどきアレンジしています。

そうすると、だいたい同じ所でウケます。これは落語のマジックですね、マジックパワーね(笑)。だから初めてアメリカで落語をやったときびっくりしました。「みんなちゃんと笑ってる!」って(笑)。イギリスでやったときも、特にユーモアを大事にする国だから、笑わなかったらどうしようと心配だったけどみんな笑ってほっとしました(笑)。


──アメリカやイギリスの人って落語を知ってるんですか?

いえ、まだ知っている人はほとんどいません。もちろん外国で落語をやってる人もいないし。でも始める前に10分くらい落語について説明すると全然問題ありません。また、初めてアメリカで落語をやるとき、日本人じゃないのになんで日本の文化を紹介するんだとお客さんに思われるんじゃないかと思いましたがそれも全然問題なかった。


──海外ではお客さんはどのくらい入るものなのですか?

国にもよりますが、ドバイでやったときは日本の大使館のWEBサイトで宣伝してくれたこともあり、たくさんの人が集まりました。落語を知らない人でも日本に興味のある人はたくさんいるんですよ。

落語で子どもが変わった

──これまで印象に残っている海外での落語経験は?

いろいろありますよ! 例えばドバイでやったとき。お客さんの中に日本人の子どももいて、100%日本人なんだけどドバイで生まれ育ったから落語を聞くチャンスがなかった。そんな日本に住んだことがない子どもたちがドバイでダイアンの英語落語を聞いて一緒に笑ってる。これがすごくおもしろかったね。落語は世界中のどこでもできることがわかりました。

あとはインド公演。高校でやったとき、生徒さんは落語を観たことなかったけど、喜んでくれました。最後に落語のワークショップをやったとき、ある女の子を指名してステージに上ってもらって一緒に小咄をやりました。ちゃんとできたのですが、後で、このときはびっくりしたと先生が話してくれました。というのも、彼女はちょっと心に問題を抱えてて、みんなと一緒に教室で授業を受けることができない子だったんです。日本語ではどういうのかわからないけれど......。

インドで英語落語を披露するダイアンさん

──日本で言えば保健室登校のような子どもでしょうか。

だからその生徒さんを選んだ時、先生含めてみんな「ダメ、ダメ! 間違った!」と思った。でも高座に上がったらダイアンと一緒にちゃんと落語ができました。だから先生たちもすごいびっくりしてました。私も感動しました。そういう子だとは全然わからへんかった。このことがあってから、その女の子にはちょっと自信がついたようですね。落語は想像の世界だから、通常ではできないことができた。それが自信となってその後の現実生活でもできるようになったのかなと思います。


──すごくいい話ですね。落語で人を変えられるんですね。

はい、こういう話を何回も聞きました。私が選んで高座に上がってくださいと言うと、最初は無理とかやりたくないなーとか言うけど、高座に上がって落語をやっているうちに楽しくなってくる。みんなと一緒に笑うことはいいことでしょ。だから生徒もちょっと自信がつく。それがうれしいね。いろいろね、いいエピソード、いっぱいあります。


──海外で落語をするのは何かとたいへんなこともあるんじゃないですか?

いえいえ。落語は場所も取らないし、大きな道具も必要じゃない。ステージがなくても丈夫なテーブル、着物や座布団と扇子や手ぬぐいなどの小道具さえあればできます。これらはどこにでも持っていけます。これが落語のいいところなんですね。だからこんなに素敵な落語を世界のあちこちでもっと紹介したいね。外国に行ったとき、落語をできるところあればできるだけやるようにしています。

人を笑わせるのはすごく大事なことです。海外で落語をやることで日本の文化を紹介できますし。特に外国で日本の文化はすごいあこがれなんですよ。みんな日本のことを好きだけど深くは知りません。よくわかんないけどかっこいいみたいなイメージです。特に漫画やアニメ、建築物などは見るチャンスがあるけど、落語などの日本の伝統的なパフォーマンスを見る機会はほんとに少ない。だからたくさんの人が集まってくるんですね。だから私には責任があると思う。日本の文化を正しく伝えるという責任が。だからできることをもっと頑張りたいですね。

それに私自身も外国で落語をするのがとても勉強になるんです。実際に外国人のお客さんの前で落語をすることによって、彼らにとってどういうことが難しいとか何がわからないのかがわかるようになるから。


インタビュー後編はこちら

ダイアン吉日(だいあん きちじつ)
イギリス・リバプール生まれ。英国人落語家/バルーンアーティスト。

ロンドンでグラフィックデザイナーとして働いた後、子どものころからの夢だった世界放浪の旅に出る。1990年、旅の途中で友人に勧められ日本へ。たちまち華道・茶道・着物などの日本文化に魅了される。後に華道、茶道の師範取得。1996年、英語落語の先駆者、故・桂枝雀氏の落語会で「お茶子」をする機会を得て落語との運命の出会いを果たす。その巧みな話芸とイマジネーションの世界に感銘を受け落語を学び始め、1998年初舞台を踏む。以来、古典から創作までさまざまな工夫をこらして英語・日本語の両方で国内外で落語を公演。「わかりやすい落語」と幅広い年代に愛されている。また、ツイスト・バルーンを扱うバルーンアーティストとしても活動中。今までに40ヵ国以上を旅した経験談や、日本に来たときの驚き、文化の違いなどユーモアあふれるトークを交えての講演会も積極的に開催。その他、落語、バルーンアート、着物・ゆかたの着付け教室、ラフターヨガ、風呂敷活用術、生け花教室、即興劇などさまざまなワークショップの講師としても活躍中。現在はどこのプロダクションにも所属せず、フリーで活動を行っている。2011年に発生した東日本大震災では被災地で落語やバルーンアートなどのボランティア活動で多くの被災者を励ました。また、これまでの日本と海外の文化の懸け橋となる国際的な活動が高く評価され、2013年6月に公益財団法人世界平和研究所において第9回中曽根康弘賞 奨励賞を受賞。テレビ、新聞、雑誌などメディア出演多数。

初出日:2015.01.05 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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