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2014.10.15  取材・文/山下久猛 撮影/宋英治

次のフェーズへ

島を訪れた長崎大学の先生と学生を案内する小島さん

──テレビの影響力は絶大ですからさらに池島の認知度が上がったでしょうね。

赴任2年目には僕の知り合い以外で池島を訪れる人が増えました。最初の目標は自分自身が池島を知ること。そして、知り得た情報を誰もが見れる場所に陳列していくことでした。Webでの情報発信を通しそれがある程度達成できたので、次のフェーズでは来た人をどうもてなすか、彼らの満足度をどこまで上げられるかを課題としました。

そこで、島に来る前に連絡をくれた人や、たまたま島の中で知り合った人には、島に愛着をもってもらいたい、もっと島を好きになってもらいたいという思いで島内の見どころを案内していました。案内していて「すごいですね!」とか「おもしろいところですね!」「こんなところ初めてです」という言葉を聞いた時、心の中でガッツポーズをしていました。それはそのまま僕が初めて池島に来た時に感じたことであり、僕が池島の地域おこし協力隊に応募したそもそもの動機である「この島のすごさを伝えたい」ということそのものだったからです。

大学や研究者とも連携

島には社会科見学時代に知り合ったおもしろい人たちが毎週のように来てくれていたのですが、その中にはクリエイターだけでなく大学の研究者もいました。2012年に大阪大学の先生が遊びに来てくれたとき島内を案内したところ、僕みたいに池島をすごくおもしろいと感じてくれて、もっと深く島のことが知りたいから「池島からみる戦後日本」というテーマで研究してみたいと。そこで島に昔から暮らしている人々を紹介して島の歴史を先生や学生に話してもらいました。その後、逆に学生が池島を歩いたり話を聞いたりして感じたことを、島の人たちの前で発表するということもしました。

そしてこの大阪大学の研究は、日本の戦後の産業史を知る上で貴重な体験だということで、2014年度からは単位が修得できる正式な授業になりました。池島に興味をもった学生は各自テーマを決めて研究しています。その後もその先生は京都大学や長崎外語大の先生たちと一緒に何度も島に来ています。そのほかにも信州大学や近畿大学、大阪産業大学、宮崎大学などいろんな大学の先生が池島に興味をもち、続々と訪れています。というのも、池島の資料はこれまであまり世に出ておらず、アカデミックな世界でまだほとんど手を付けられていない場所なんです。ゆえに島そのものが貴重な資料だし、誰も手を付けていない分野が豊富に残っているからこそ研究者としては魅力なんでしょうね。

池島の記録・アーカイブ化

このような大学との活動ともリンクするのですが、僕自身、島のお年寄りたちの話を聞いてICレコーダーやビデオカメラで録音・録画して保存してきました。また、島の人が持っている昔の池島に関する新聞記事などの資料や、行政センターや学校などにあった写真をスキャナで読み取ってデジタル化し保存しました。その資料を再度地域の方々に見せるとやっぱり懐かしがったり喜んだりするんですよね。こうすることでコミュニティを活気づけつつ新たな情報を得たりしました。また、それらの資料を見せるだけではなく、地域の方々に配りました。こうしておけば、僕の協力隊としての任期が終わり島から出た後も、池島の資料が誰かの手には残りますからね。

行政センターや学校にあった写真や島の人が持っている資料をデジタル化

島をよく知る長老たちの話を記録

この島に人がいつまで住んでいられるかは誰にもわかりません。この島も島の人も日本にとってとても貴重な存在なので、後世に残したい。いつか池島から人がいなくなってしまった後もいろいろなことを記録し、公開しておけば後世に残ります。それは、観光事業よりも、今池島に住んでいる人にとっても長崎市にとっても必要なことなんじゃないか、そして僕がやらねばならないことなんじゃないかという思いでやっていました。

その他には島の史跡に解説板を立てたり、島に来た人が現地でインターネットによる情報収集、SNSやブログ等で情報発信がしやすいように島唯一の宿泊施設である池島中央会館にインターネット回線を引いたりしました。

とにかく任期中は島の外から人を積極的に呼びこむことで、口コミの連鎖を狙うと共に、私の任期後も池島を見守る人々を生み出そうと試みていました。

小島さんが池島で行ってきた活動の詳細(2013年12月長崎市地域おこし協力隊活動報告会での資料)

3年間の総括

──今年(2014年)の8月いっぱいで任期を終えられたわけですが、3年間を振り返っての率直な感想は?

あっという間の3年間でした。感覚としては1年くらいしか経っていないような感じですね。思うようにならないこともいろいろありましたが、すごく楽しかったです。


──主な成果は?

これまでお話したような活動をしたことで、よりたくさんの人が島に来るようになりました。最終的には、協力隊に就任した2011年と比べ、炭鉱見学に参加した人は約8倍に増え、炭鉱見学以外のカウントされていない人も含めると、来島者は10倍以上に増加しました。協力隊として、島の魅力を発信して、認知度を上げ、島に来る人を増やすという第一の目標は達成できたと思います。また、任期中に蓄えた資料や動画もたくさんあり、今後も少しずつ公開していけたらと思っています。

小島健一(こじま けんいち)
1976年埼玉県生まれ。長崎大学大学院工学研究科インフラ長寿命化センター研究員/元地域おこし協力隊員(長崎市池島)/見学家/フォトグラファー/「社会科見学に行こう!」主宰

大学卒業後、コンビニでのアルバイト、商社、IT企業、Web制作会社などを経て、2004年からフリーランスとして社会科見学団体「社会科見学に行こう!」を主宰。先端科学研究所や土木工事現場、産業遺産や工場などの見学をコーディネートを行い、大人の社会科見学ブームの火付け役となる。同時に工場などを一般向けにテレビ、ラジオ、書籍、WEBなどで紹介。また、トークライブやサイエンスシートなどを通して、技術者や研究者などの専門家と専門外の人を結びつける活動も。写真家として活動するほかに執筆、イベントやロケーションのコーディネートなども手掛ける。2011年10月から長崎市の地域おこし協力隊の一人として長崎の離島「池島」へ赴任。2014年8月まで「産業遺産で地域再生」を目標に地域おこしに従事。池島の認知度向上、来島者大幅増加に貢献。2014年9月からは長崎大学大学院工学研究科インフラ長寿命化センターの研究員として勤務。テレビ、新聞、雑誌などのメディア出演・登場多数。著書に『社会科見学に行こう! 』、『ニッポン地下観光ガイド』、『見学に行ってきた。』などがある。

初出日:2014.10.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの