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2014.03.17  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

法人化し、代表取締役に

──単に人にものを売り込んで買ってもらうことではなく、会話などそのプロセスが好きだということですね。河野さんは築地の仲卸店だけじゃなくてデパートにもお店を出していますが、それも仲卸店としては珍しいですよね。この経緯は?

尾辰商店に入って1年が経った頃、義父に「尾辰商店は商売としてうまくいってるのか」と聞かれました。やっぱり仲卸だけでは儲からなかったので、「普通にやってたら絶対あきませんわ」と意見を述べました。多くの消費者は高くていい魚はなかなかスーパーで買わない。でも少々高くてもいい魚を食べたいというニーズは必ずあるはずなので、例えばデパートなら売れるかもしれない。でもそういういい魚を売ってるのは都内でも2、3しかない。だからそういうところを狙って店を出した方がいいと思うと。

そうしたら義父も同意してくれて、2日後、そごうの社長と引きあわせてくれたんです。社長も最近百貨店もスーパー化してるからもっと専門店化したい、築地みたいな店構成にしたいと、向こうからぜひ出店してほしいとオファーを受けたんです。

こんな感じで1本新しい事業が見えたので、2006年、個人商店だった尾辰商店を法人化して株式会社尾辰商店にして、僕が代表取締役社長になったわけです。その後まず千葉そごうに、次いで横浜そごうに「つきすそ」という鮮魚と惣菜を販売するお店をオープンさせました。

また、去年(2013年)の11月には魚料理の店「銀座 尾辰」をオープンさせました。そもそもの開店動機は、魚を売るというのは最終的に料理してお客さんに食べさせるところまでやらないとあかんと思ってたからです。おかげさまで連日予約で埋まっていますが、水産業界はもちろん、いろんな業界・業種の人がこの店に来ていろんな話をするようになりました。つまり、最初の思惑とは別に副次的な効果として、店を作ったことで情報が集まるようになり、そのネットワークはどんどん広がっています。この場で、リフィッシュで行ういろいろな企画やこれから魚食を世界に売り込んでいくための企画が生まれることも多々あるんですよ。経営的にも、尾辰商店、つきすそ、銀座尾辰含め、全体的な売り上げは順調に伸びています。

「銀座尾辰」のスタッフと一緒に

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店舗外観

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全国の漁場からその日に取り寄せた最高の食材でつくる絶品料理の数々

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魚だけではなく野菜も自慢

──わずか2年で社長に、そして10年でここまでビジネスを広げられるのは驚異的ですね。サラリーマン時代の経験が生きていると思う点はありますか?

いろんな面ですごく生きてますね。例えば営業や企画をやっていたおかげで、魚屋ではなく、一般的な社会人としていろんな人と話ができるし、遊びの中から企画・提案ができて、ビジネスの話に膨らませられます。また、印刷会社ではコスト感覚をかなり厳しく叩き込まれるので、商売をする上でかなり役に立っています。

社長になるのは子どもの頃からの夢だったので、それが叶ってめちゃめちゃうれしかったし、今も厳しいことはたくさんありますが日々楽しく仕事をしています。

経営者としての仕事

──現在、尾辰商店の経営者としては日々どんな仕事をしているのですか?

経営者なので、主に次はこんなことやろう、こんな店出そうという経営方針や企画を考えたり、財務・経理的な仕事をしています。また、新規取引先の営業活動やお得意様の飲食店のメニュー開発、例えば680円でてんこ盛りの刺身定食作りたいんだけどどんな魚を使えばいいかなというようなけっこう無茶な相談を受けてます(笑)。昔は仕入れや仕分け、配達など全部やっていましたが、5、6年ほど前から若手に任せてます。


──おおまかな一日の流れを教えてください。

毎朝5時に起床して、6時に築地の店に出社。12時まで店で経理の仕事をします。その後は昼ごはんを食べて、13時頃から会議で社員から報告を受けたり、それに対しての指示を出したりします。その後はだいたいお得意様の飲食店を回って営業、顧客の新規開拓に出かけます。そして14時か15時くらいには仕事を終えて帰宅して仮眠を取ります。夕方から夜には銀座尾辰に出て、ホスト役として来店してくれたお客さんと一緒に飲みながらいろいろと話をします。盛り上がって夜中の3時くらいまで飲んでいることもあるし、銀座尾辰に行かないときは20時くらいには寝ています。


──早朝から魚の卸店の仕事で、夜は料理店でお客さんの相手とはかなりハードですね。

もちろん深夜になった翌日は何もなければ遅めに出勤したり早く上がらせてもらってますよ。


──経営者としての仕事の魅力はどんなところにありますか?

すべてのことを最終的に自分で決められるところでしょうね。その分責任も大きいですが。これまで自分の決断でたくさん失敗をしてきましたが、そこから学ぶことも多かったので、今は売り上げも上がっています。

河野竜太朗(こうの りょうたろう)
1969年大阪府生まれ。築地仲卸尾辰商店五代目当主/リフィッシュ事務局長

近畿大学理工学部建築学科卒業後、国内大手の総合印刷会社、大日本印刷株式会社へ入社。営業、開発、企画などを経験後、2004年、35歳のとき築地で鮮魚の仲卸を営む尾辰商店に転職。2006年法人化し株式会社尾辰商店代表取締役社長に就任。経営の多角化に乗り出し、千葉そごう、横浜そごうに鮮魚と惣菜の販売店「つきすそ」を開店。2013年11月には銀座に魚料理店「銀座 尾辰」を開業。経営者として辣腕をふるう一方で、水産庁の上田氏が代表を務める有志の団体「リフィッシュ」の事務局長や日本全国の仲買人をネットワークしている「鮮魚の達人」の東京担当を務めるほか、リフィッシュ食堂の運営(現在は一時休業中)など、「魚食で世界制覇」という野望を胸に魚食文化の発展と啓蒙活動に取り組んでいる。「キズナのチカラ」「夢の食卓」「ソロモン流」などテレビ出演多数。

初出日:2014.03.17 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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