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2014.03.03  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

ソフトとしての魚食

──魚食をソフトウェアとして捉えているとは非常に興味深いですね。

魚自体は世界中で食べられていますが、刺し身や寿司など、生で食べるという習慣がある国は日本だけです。なぜそれが可能かというと、魚を生で食べるときは無菌のきれいな水で洗う必要があり、水道をひねればそれが出てくるインフラがあるからです。他の国にはこれがないから魚の生食の習慣が生まれなかった。また、クール便も生鮮食品を運びたいから生まれた日本独自のサービスで、その最たるものは魚です。

ここ最近、刺し身や鮨などの魚の生食が海外で人気急上昇中のようですが、自分の国でも魚を生で食べたいという機運が高まったとき、安全な生の料理を出せる店や職人だけじゃなくて無菌の水を出せる上水道やクール便の流通システムなどインフラ構築の仕事も取れるかもしれません。

例えていうならOSとパソコンの関係と同じで、WindowsというOS=ソフトウェアを使いたいからそれを搭載したパソコン=ハードが世界中で売れるわけですよね。さらに周辺機器も売れ、インターネットなどのインフラも進化します。このように魚食をソフトウェアとして考えれば、それに付随して売れるものがたくさん出てきてめちゃめちゃ広がるんですよね。日本は魚食という最強のソフトウェアをもっている。インフラも含めて技術も世界一すごいので、世界に売りに行けるんですよ。

漁業の衰退にストップをかける

──その辺はリフィッシュというよりは河野さん独自の考え方なんですね。

そうですね。基本的なスタンスは同じですが、僕の方は魚食ソフトはもっと世界でもイケるでという感じですね。

水産庁が目を向けているのは主に国内で、国内の漁業従事者の数や収入をどうやって増やすか、漁獲高をどう増やすか、魚の消費量をどう増やすかなどが彼らのテーマですが、僕はそれらプラス、魚食ソフトを世界に売りに行こうぜということを一貫して主張しているんです。

現在、水産庁調べでは、漁業従事者から僕ら仲卸までの事業規模は約8兆円で、ここ数年横ばいなんです。それを16兆円にしたら単純計算ですが水産業に関わる人々の年収は倍になります。そのことをもっと考えようと言っているんです。さっき言った魚食をソフトウェアとして世界に売りに行けば水産業に携わっている人数は同じまま売上げと粗利が上がるよね、そういう考え方もありなんちゃう? みたいなことを言ってるわけです(笑)。


──確かにその方が効率的ですよね。漁業従事者は年々高齢化が進んで跡継ぎがいないし、若い人材も入ってこないことも問題になってますし。

ここ何十年かの話ですが、漁業を含む一次産業が衰退したのは、親が我が子に肉体労働はしんどいだけでなかなか儲からへんからええ大学出てええ会社に入れと跡を継がせないようにしてきたから。その結果、いわゆるホワイトカラー、頭脳労働の比率が上がりすぎた。

でも、世界の食糧事情に関する本を読んだら、今地球上の農地の耕作面積と70億人という人口のバランスがちょうどいいらしいんですよね。そしたら新しい耕作地を作ったところで儲からんということ。それは漁業でも同じ。となると一次産業を復活させようとしてもあまり意味がなくて、これまで頭脳労働を増やしてきたんなら今後も頭脳で売りに行こうぜと。日本の海洋面積は世界第6位で、その海洋面積を利用して働いている人たちがめちゃめちゃすごいノウハウをもってる。魚を獲るところから始まって、加工・運搬・流通させて、飲食店ではそのまま刺し身で出したり、酢や塩でシメたり、握って食べさせるという、これだけドライバーソフトがあるので、これらを世界で売っていくプランを今考えているわけです。

──壮大なプランになりそうですね。リフィッシュの活動のやりがいや喜びを感じるのはどんなときですか?

魚を食べようという動機がお客さんの中に生まれるときですね。リフィッシュ食堂に食べに来てくれるお客さんやイベントに来てくれるお客さんに魚料理の作り方を教えて、そのお客さんから、教わった通り作ってみたらおいしかったとか、あれから何回も作ってると言われたとき。もっと魚を食べてほしいという思いがお客さんが自分で魚料理を作るというところまでリーチしたとき、すごくうれしいしやりがいを感じますね。これも商売の魚の仲卸をやってて感じるのと同じですね。


インタビュー後編はこちら

河野竜太朗(こうの りょうたろう)
1969年大阪府生まれ。築地仲卸尾辰商店五代目当主/リフィッシュ事務局長

近畿大学理工学部建築学科卒業後、国内大手の総合印刷会社、大日本印刷株式会社へ入社。営業、開発、企画などを経験後、2004年、35歳のとき築地で鮮魚の仲卸を営む尾辰商店に転職。2006年法人化し株式会社尾辰商店代表取締役社長に就任。経営の多角化に乗り出し、千葉そごう、横浜そごうに鮮魚と惣菜の販売店「つきすそ」を開店。2013年11月には銀座に魚料理店「銀座 尾辰」を開業。経営者として辣腕をふるう一方で、水産庁の上田氏が代表を務める有志の団体「リフィッシュ」の事務局長や日本全国の仲買人をネットワークしている「鮮魚の達人」の東京担当を務めるほか、リフィッシュ食堂の運営(現在は一時休業中)など、「魚食で世界制覇」という野望を胸に魚食文化の発展と啓蒙活動に取り組んでいる。「キズナのチカラ」「夢の食卓」「ソロモン流」などテレビ出演多数。

初出日:2014.03.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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