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2014.02.03  取材・文/山下久猛 撮影/葛西龍

森づくりの魅力

整理伐をする石井さん

──なるほど。人の手は入れなければならないけれど、その加減が難しいんですね。森の整備という仕事の魅力はどんなところにあるのでしょう。

自分のやったことがはっきり形になって現れるところが最大の魅力ですね。荒れた箇所にヤブ刈りや整理伐などの手を加えると、そこがどんどんよくなっていくのが目に見えてわかります。

あとは生き物ですね。アファンの森にはクマ、ウサギ、リス、キツネ、ヤマネ、ムササビ、テン、それにフクロウなどの鳥類など生き物もたくさんいて、森に入ればそんな生き物にたくさん会えるんです。早朝にひとりで森に入ると、クマなど普段はなかなか会えない動物に会えたりもします。見晴らしのいい森なので、熊も僕の方をちらっと見ますが一定の距離を保っていれば安全です。これまで危ない目にあったこともありません。

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ツキノワグマ

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ヤマネ

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ムササビ

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キツネ

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リス

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フクロウ

──森を整備することで動物も増えているのでしょうか。

一概には言えませんが、元々森には動物はいたけど、森を整備することによってさまざまな環境ができて、これまでいなかった動物が増えたでしょうし、元々暮らしていた動物の個体数も増えたといえるでしょう。植物に関しては間違いなく増えていると断言できますね。現在は明るい里山の環境がどんどん減っていて、それにともない消えていく植物も多いので、アファンは貴重なエリアだと思います。

森づくりのやりがい

──仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか?

自分が整備した森に人が入って、気持ちがいいと感じたり、喜んでくれたときですね。10年前から当財団では、自然に親しむ機会の少ない身体に障害のある子どもたちや、虐待や育児放棄などによって心に傷を負った子どもたちを森に招待しています。

森で特にプログラムを決めて何かをするわけでも、この森はこんなにすばらしいんだと押し付けるわけでもなく、森の説明を少ししたら、あとはその森で3日間自由に楽しんでもらうだけなのですが、最初は暗い顔で僕たちに全く心を開いてくれなかった子どもたちも日を追うごとにどんどん元気になって笑顔が出てきて、3日後には別人のように明るくなります。それは風景構成法という絵画療法にもはっきりと現れていて、アファンの森に来る前に描いてもらった絵は色使いやタッチが暗く雑で怒りや悲しみに満ちているのがわかりますが、森で3日間過ごした後は同じ絵柄でも明るく丁寧で楽しそうな絵になっていて心理学的にもいい方向に変わったということが証明されています。

子どもたちに森での楽しみ方を教える石井さん

また、3.11の東日本大震災で甚大な被害を受けた東松島市の子どもたちも招待しているのですが、やはり最初は沈みがちだったのが、森で遊ぶうちにみるみる元気になっていきました。また、アファンの森から帰った後、それまでは全くしなかった津波の話を「実はあのときすごく恐かった」と家族に喋り始め、それ以来笑顔が増えたという話も聞いています。それまで自分の内部に閉じ込めていたいろいろな感情を吐き出すことができただけでもアファンの森に来てもらってよかったなと思いますし、こういった、森に入った人がいい方向に変わるというのは森の手入れをしている身としてはとてもうれしいですね。

アファンの森で子どもたちも笑顔に

──すごいですね。森にはどんな力があるのでしょう。

それは僕にもはっきりとはわかりません。ただ、森だからこそ人をそういうふうに変えることができるのだと思います。よく言われているのは森は受容の存在だということ。児童養護施設にいる子どもの中には自分は親から捨てられた不必要な人間なんだと傷ついている子もいますが、自然の中には不要なものは一切なくて、みんな何らかの存在理由があってつながって生きています。だから自分たちも不必要な存在などではなく、一人ひとりが必要不可欠な大事な存在なんだということを感じてもらえればと思っていますし、そういうことをことさらに話さなくても森が好きな大人たちと一緒に森で過ごすことによって、感じているのかもしれませんよね。


インタビュー後編はこちら

石井敦司(いしい あつし)
1967年神奈川県生まれ。一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団 森林再生部 森林整備担当。通称「森の番人」。

自然が好きで田舎暮らしにあこがれ、1997年、長野県信濃町黒姫に妻と移住。2001年にアファンの森に事務スタッフとして入職。2007年から初代森の番人の松木氏の後継者として森の整備・管理の仕事に従事。2012年、2013年は責任者として森の管理を行う。現在は妻、2人の息子と長野県黒姫に暮らしている。

初出日:2014.02.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの