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2014.02.03  取材・文/山下久猛 撮影/葛西龍

"いい森"とは?

──いい森とはどんな森なのでしょう。

多様性が豊かとか密度管理ができているとか言い出せば色々あると思いますが、もっと単純に入ったときに気持ちいいと感じる森ですね。やっぱり森に入って気持ちいいか悪いかというのはすごく大事で、気持ちいいのは手入れされている森なんですよ。例えばきちんと間伐がされて適度に光が入ってくる森は気持ちいい。そんな森では生き物もたくさん増えます。また、手入れのされている気持ちのいい森は子どもたちが入っても安全なんです。それもとても重要なことです。


──なるほど。でも気持ちのいい森をつくるのは難しいんでしょうね。

本当に難しいですね。森をつくるためには単年ではなく、長期的に考えて、今やるべきことを確実に、地道にやらなければならないので。先代の森の番人の松木さんも「将来の森が想像できないやつに木なんか植えられるか」とよく言っていましたがその通りだなと今、痛感しています。


──石井さんの中に将来こういう森にしたいというイメージがあって、その実現に向けて仕事をしているという感じですか?

イメージは、ざっくりとだけどあります。ただそれだけではダメで、森づくりは僕が責任者として主導はしますが、もちろん僕一人だけで行っているわけではありません。ゆえに僕の中にある実現したい森のイメージとそのためにやらなければならないことを、森づくりのために働いているスタッフみんなが理解できるように整理して共有することが大事で、今はそれに力を入れています。

森を訪れた人々に森について詳しく解説しながら案内する石井さん

同時に、僕の考えだけでやるのではなく、他のスタッフやアファンの森で生物調査をしてくれている方の意見も取り入れるようにしています。先ほどの草刈りの話にしても、もう少し放置していた方がいろいろな植物が生えてくるから草刈りの回数を減らした方がいいんじゃないかという人もいて、確かにそれも一理あります。ですから今は調査区を設けて、刈る回数や時期を変えて、その結果を観察しているところです。

今までは森を強めに管理してきましたが、いかに手をかけずによくしていくかということも大事なので、今までのように思い切って人の手をどんどん入れていくよりは、今あるものを上手に生かしながら森をよくしていくこともやっていきたいと考えています。近年購入した南エリアは今までと比べてあまり手を入れていないんです。

石井敦司(いしい あつし)
1967年神奈川県生まれ。一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団 森林再生部 森林整備担当。通称「森の番人」。

自然が好きで田舎暮らしにあこがれ、1997年、長野県信濃町黒姫に妻と移住。2001年にアファンの森に事務スタッフとして入職。2007年から初代森の番人の松木氏の後継者として森の整備・管理の仕事に従事。2012年、2013年は責任者として森の管理を行う。現在は妻、2人の息子と長野県黒姫に暮らしている。

初出日:2014.02.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの