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2014.02.03  取材・文/山下久猛 撮影/葛西龍

植物の多様性を守るために手間暇かける

──気の遠くなるような仕事ですね。手入れされているエリアではどのようなことをするのですか?

手入れが進んでいるエリアはその維持・管理が主な仕事ですね。春先、雪解けとともに森の中を見て回って、積雪により折れたり、倒れてしまった木の片付けを行います。植林した小さい木が折れてしまった場合には添え木を行い、倒れてしまったものはきちんと起こして木がまっすぐに育つ手助けをします。そして枯れてしまって空間ができたところには新しく木を植え直します。

6月になると主に植林した周辺での下草刈りが始まります。この草刈りにアファンらしさが如実に現れているんですよ。通常、人工林の手入れなどは、植林した木以外のものはすべて刈り払ってしまいます。植えた木だけを育てればいいし、その方が楽ですしね。しかし、手入れをすることによって地面まで光が届き、明るくなった森にはいろいろなものが芽を出します。花を咲かせるものから大木になる実生や希少種など、今まで森になかったものまで出てくることもあります。これらは刈り払ってしまえばそれで終わりなので、草刈りをする際にはこれらを見極め注意しながら行っています。場所によっては1回で済ませられるようなところも、あえて2回刈ったりもします。アファンの森の植生がとても多様だと言われるのはこういった作業をしているからなんです。草刈りは、のちの森の林床を左右する大事な作業なのです。

アファン流の草刈りによって豊かな植生が保たれている

──草刈りひとつとってもすごく手間暇かけているんですね。

林業を商売として考えた場合、こんなことをしていたら採算が取れないので普通はやりません。アファンでそれが可能なのは、ニコルの存在があるからです。ニコルは1986年からの17年間、個人でずっと森の管理に心血を注いできたわけですが、商売のためではありません。大好きな日本からこれ以上豊かな森がなくなってほしくないというその一心だけで私財を投じて取り組んできたからここまでできたのです。2002年に財団を設立したころは財政的に厳しい状況もあったりとニコルには迷惑をかけましたが、現在は支援してくださる企業や個人が増えて森の管理ができているというわけです。とてもありがたいことです。

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採算度外視で豊かな森をつくりあげてきたニコルさん

そもそも放置され、荒れた森の手入れをしてきたので、森を手入れすることで直接入ってくるお金は今のところほとんどありません。まだ森を育てている段階ですからね。ここ数年オカムラさんがアファンの森から出る間伐材の一部を製品に利用してくれていますが、直接アファンの森の木を売ってお金になったことはまだありません。


──では何のために森を管理しているのですか?

お金とか理屈ではなくて、いい森にしなきゃいけないという思いが強いですね。

石井敦司(いしい あつし)
1967年神奈川県生まれ。一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団 森林再生部 森林整備担当。通称「森の番人」。

自然が好きで田舎暮らしにあこがれ、1997年、長野県信濃町黒姫に妻と移住。2001年にアファンの森に事務スタッフとして入職。2007年から初代森の番人の松木氏の後継者として森の整備・管理の仕事に従事。2012年、2013年は責任者として森の管理を行う。現在は妻、2人の息子と長野県黒姫に暮らしている。

初出日:2014.02.03 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの